2006年05月25日

【小説】波のうえの魔術師

テーマ:Book Review


石田 衣良
波のうえの魔術師

 石田衣良と言えば、TVドラマも人気だった「池袋ウエストゲートパーク」とか、直木賞受賞の「4TEEN」、成宮寛貴と山田優で映画化予定の「アキハバラ@DEEP」などが有名だけど、本作も負けずにドラマ化されてます。

 石田衣良ブーム再び到来か?

 就職浪人でセミパチプロ(要はプータローってことね)の青年が、謎の老人に投機の極意を教え込まれつつ、巨大銀行との株価戦争に巻き込まれていくマネークライムサスペンス。


 この本がとりあげている時期はまさに日本が沈没しつつある時期で、それに呼応するように、世界中で通貨危機やロシア危機など、経済危機が頻発した時代でした。

 近年でも、ITバブル崩壊、ライブドア(マネックス)ショックといった「ビッグクランチ」がありましたが、それにも勝る大事件が、この本でもとりあげている「ロシア危機」です。

 1998年、国連の常任理事でもあり冷戦時代は世界第二の経済規模を誇った大国ロシアが債務不履行に陥り、それに端を発して、ノーベル賞受賞の経済学者を擁し、自ら作り上げたマネー増幅プログラムで驚異的な利益を出し、神々の集団とまで言われた怪物ヘッジファンドLTCMが破綻しました。

 全自動取引プログラムが動き続けてマネーを生み出し、電子のスピードで巨額なマネーが飛び交う現在の市場では、プログラムが予測不能な事態が起きたとき、加速度的な損失拡大を誘発します。

 SEという立場上、当時は「プログラムってやっぱこえ~な~」なんて思ったものです(そんな高度なプログラム、書けませんけど!)。


 作中では、老人が青年に叩き込むイロハのイは「毎日新聞を隅々まで熟読すること」「特定企業の株価を毎日書き留めること」の2つだけ。

 毎日書き続けている株価を眺めながら、老人が仕掛ける問答の妙もあって、次第に主人公の青年に「数字を読む」感覚が備わっていきます。

 「値動きの感覚」が出来るまでは、他のことを教えても無意味である、というのが相場の世界に数十年生きてきた老人の持論なのです。

 IT化したこの時代に、あくまで五感と手を動かす、これは同感です。

 相場の「波乗り」は、理論を越えた「カン」が重要な鍵を握るのです。そのあたりの怖さやスリルを青年の成長というプロットを使って上手く物語に織り込んでいます。


 総じて、石田衣良得意のプチ・デンジャラス(軽いノリで裏世界との境界線を行ったりきたりする)あり、涙あり色恋ありのよくまとまったエンターテイメント。

 各登場人物とも、軽すぎず重すぎずの振る舞いが、相変わらずスマートです。

 逆に、ALLinONEなだけに、マネーゲームの闇の深さや奥深さ、マネーに翻弄される人間の葛藤、何かのメッセージを求める人には拍子抜けかも知れません。ま、そういうのをこの著者に期待する人はいないとは思いますが。

 あくまでクール&スタイリッシュに。それが持ち味です。
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コメント

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2 ■体言止め

ってトコロが斬新で、特に各シーンの語りの最後で、スカした台詞を吐くマコトの言動は、何とも言えない醒めた躍動感があって、現代の小説って感じですよね。
地元が近いというのもあって、私も池袋ウェストゲートパークは好きです。

1 ■yokさんも石田衣良読まれるんですね

 トラックバックさせていただきました(ちゃんと出来たかな・・・>殆ど使わないので)
 言葉不自由なもので、自分の好きな作家さんについてきちんと纏めて書かれてあるページがあると、非常に嬉しいです!

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