【小説】地下鉄(メトロ)に乗って

浅田 次郎
地下鉄(メトロ)に乗って
浅田ワールドってやつです。
大立者で豪傑粗暴な父に反発していた主人公だが、ある日地下鉄の階段を昇るとそこは戦後の闇市。そして主人公は若かりし頃の父に会う。
そこにいたのは主人公の知る父とは全く違う一面を見せる男だった…
それにしても銀座線、昭和2年(1927年)開通ですよ。何となく戦後の高度成長期以降に育った身としては、戦前、それも結構な昔から高度な発展をとげた社会だったんだよね、ということを今更ながら感じる。
ここに初代銀座線の超カワイイ!御姿が。黄色くてライトが1つ、鋼鉄製ボディにリベットがポチポチうってあってレトロ感たっぷり。
この鉄骨は銀座線の特色だそうで、戦前の面影を残す赤坂見附駅や虎ノ門駅にはおんなじようにリベットポチポチ支柱が多数。
この本に出てくる銀座線に会いたい方は地下鉄博物館へ。東京都・都営地下鉄葛西駅の高架下にあります。
さて本作、別に上記のような地下鉄のうんちくを語るのが主旨な訳じゃなくて、地下鉄を舞台装置としたタイムトラベルものでもあり、ファンタジーでもあり、父と子、兄弟、男と女のヒューマンドラマでもある。
自分の知らない家族や周囲の人達の営み、そして葛藤を目撃していく、何とも言えない、胸がつまる展開。自分が生まれる前の、父が一生懸命生きていた頃の輝き、自ら命を絶った兄の境遇を知ってしまった時の驚き…
都合よくストーリー上重要な場面にTripするのではあるが、それを補ってあまりある数奇な人間関係の伏線が程よく絡まって、ラストに近づくにつれてぐっとくる物語を創り上げている。
あの日の兄に何があったのか。出征する兵隊を送り出す新橋駅、敗走する満州での父の行動、そしてラストへ…号泣はしないけど、ところどころでほろ苦い涙をさそうシーンの連発。
上野新橋淀橋といった主要都市(というか闇市)の描写、お約束の服部時計店など、作者の東京、しかも昭和の東京への思い入れが伝わってくる。
#今は改装されて綺麗ですが、昔の丸の内線中野坂上駅が日本軍秘密基地みたいな雰囲気で好きでした…ちょっと変ですかね?
地下鉄で東京の街を巡りたくなる、そんな気分になる作品。
BGM->m-flo"BEAT SPACE NINE"2005
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