黒岩涙香「無惨」の大鞆探偵 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
$mizusumashi-tei-ふく
 蝉しぐれ(2003):ふく(少女時代/伊藤未希)

NHK「蝉しぐれ」が再放送中。幼い頃から互いにほのかな恋心をいだいていた牧文四郎(内野聖陽)とふく役の水野真紀は議員の妻に納まってしまったが、映像での彼女の小さな目つきがなんとも印象深い。瞳は大きいばかりがいいわけではありませんな。そのふくの子役・伊藤未希を描いてみたが、見よう角度によって水野に似ていなくもないから、キャスティング時には探しまわったのだろう。

$mizusumashi-tei-日本探偵小説
 日本探偵小説全集1(1984)創元推理文庫

戦前の探偵小説を編んだ文庫版全集(中島河太郎監修)全12巻から第1巻。ここに黒岩涙香のオリジナル推理小説「無惨」が取り上げられている。岡っ引上がり40年配でっぷり太って人の良さそうな谷間田刑事と、彼の下役で25~6書生風な大鞆(おおとも)君はちょっと進取の気があって、ホームズばりの推理でキレものぶりをうかがわせる。本作は明治22年9月「小説叢(くさむら)」に発表された。シャーロック・ホームズの初出は1887(明治20)年だから、涙香先生かの名探偵を知ってや知らずやいい勝負をしている。

「無惨」は涙香お得意の翻訳物ではないそうだから、彼がこのシリーズを書きついでさえくれたら、ほぼホームズと同時期に国産の“大鞆(おおとも)”名探偵が定着したやも知れぬ。となれば明智小五郎に先輩風をふかせていただろうから、まことに惜しいことでした。なかなかの本格ミステリで感心させられます。