吉川英治「松のや露八」関野準一郎と石井鶴三 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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昭和31年発刊、同光社による1,500部限定版の吉川英治「松のや露八」である。初出は下に写真を載せるが昭和9年6月~10月サンデー毎日に、挿絵は石井鶴三が担当した。時代は幕末、一ツ橋家近習番頭取の長男として生れた土肥庄次郎は鈍でひたむきすぎる性格、ようやくの免許皆伝の祝い酒で酒を覚え女に溺れ止めどない転落の道が始まる。徳川の屋台骨がまさに潰れる時勢に武士などなにほどのものがあると、彰義隊くずれの幇間・松のや露八として、反権力的姿勢を貫く。負け犬の鬱屈が全篇をつつむ意欲作。

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豪華特装版で関野準一郎の版画が扉に2葉、文中に4葉挿入される。伝説の幇間、無頼に生きた松のや露八(ろはち)の転落の人生を物語る。維新後は少し決着を急いだ感が残念だが、吉川本人は「宮本武蔵」以前の試作として愛着の深い作品だと述べている。表紙は銀箔押しされた豪華なものだが、戦後のものではあるし古書価はそれほどでもない。確か山田風太郎の明治もので、三遊亭圓朝との絡みでこの松のや露八が登場している。

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昭和9年当時のサンデー毎日がこれで、昭和10年に朝日新聞で連載が始まる「宮本武蔵」はこの石井鶴三と、タッチの似ている矢野矯村が担当する。この頃は幕末ものが人気があったようで、最近とりあげた昭和初期の作品のほとんどがこの時代である。日中戦争勃発に向かう不穏な時代に、似合った時代設定であったようです。露八にしても幕末から明治への激動に翻弄されて、虫けらのようなふてぶてしさを身につけていく。さて、我々も老後ばかりを心配せずに無頼に生きてみたら面白いか、悲惨に終わるかね。