2012年 刑事実務 再現答案 | 予備試験再現答案

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第1 設問1について
1 甲が,下線部①の犯人であるか否かを認定するに当たっては,捜索差押の結果得られた物証である財布,緑色のジャンパー,サングラス,果物ナイフ,包丁の他,人証である妻A,被害者V,コンビニエンスストアZの店員,甲の供述などをそれぞれの特性に留意し,総合的に判断する必要がある。
 そして,物証は客観的な証拠として有用であるが,人証である各関係者の供述によって補足する必要がある。また,人証である供述については,例えば,被害者や犯人は,犯罪現場に直面した者として正確性の高い供述を期待しうる場合もあるが,被害者の場合,被害を受けたことによるショックで冷静さを欠き,発言の正確性を期待し得ない場合もあったり,犯人自身の場合は,黙秘権を行使したり(憲法38条1項),自らの犯行を隠蔽する意図に出ることもある。
 以上のような点に留意し,甲が下線部①の犯人であることを肯定する事実,否定に傾く事実を挙げ,総合的に判断していく。
2 肯定に傾く事実
(1) 体格・年齢について
 Vによると,犯人については,身長180センチ,がっちりとした体格の20歳代くらいということである。そして,甲については27歳であり,身長182センチ,体重95キログラムであることから,甲と犯人の同一性を肯定する方向に傾く事情となる。
(2) ガムテープ,ひもについて
 V宅で領置したガムテープ,ひもについて,コンビニエンスストアの店員に確認した結果,同一のものかどうかはわからないものの,同じ種類のものは販売していることが判明している。そして,防犯ビデオにおいて,犯行時刻の直前である10時45分に大柄の男がガムテープを購入していることが確認されていることは,肯定に傾く事実となる。
(3) ジャンパーについて
 Vの供述によると,甲は,緑色のジャンパーを着ており,犯行直前の防犯ビデオでは,大柄の男は緑色のジャンパーを着ている。他方で,午後零時頃,自宅に戻った甲は,赤いジャンパーを着ており,自宅に戻る前に着替えたものと考えられる。
 これは,甲自身が緑色のジャンパーによって犯行が発覚するのを防ぐための行為であり,肯定に傾く事実となる。
2 否定に傾く事実について
(1) 人相について
 Vは,犯人の人相を確認できておらず,Kから透視鏡を通じて取調室の甲の容貌を見せられて,同一性の確認を求められたが,はっきりと犯人と同一か,宅配便荷物を届けに来た人と同一かが確認できていない。
 また,コンビニエンスストアの防犯カメラにおいても,サングラスのため人相が確認できず,同一人物かどうかが判然としていない。
 このような事実は,同一性の否定に傾く事実となる。
(2) 刃物について
 果物ナイフ2本のうち,1本は切れ味が悪く,他の1本と包丁2本は甲が帰宅する前の11時30分には台所にあったこと,及び,Vの供述で果物ナイフにつき,古い方につき,今回の犯行に使われたものでないと述べたことは,否定に傾く事実となる。
(3) 指紋について
 玄関ドアノブから甲の指紋が検出されたが,物色されたタンスや財布からは甲の指紋が検出されておらず,これは,甲と犯人の同一性を否定する方向に傾く事実となる。
4 結論
 以上のように,肯定に傾く事実のほか,否定に傾く事実もある。
 しかし,人相については,サングラスによる隠蔽で判明していないだけであり,判明していないことのみをもって完全に否定できるわけではなく,体格その他の事情によって保管しうる。また,刃物については,刃物を突きつけられて動揺していたVが,刃物について正確に記憶しているはずがなく,果物ナイフの古い方が明らかに使用されたものではないと述べても,信用性に乏しいといわざるを得ない。さらに,タンスや財布から指紋が検出されていないとはいえ,ドアノブを回して侵入した後に手袋を着用した可能性も否定できない。特に,甲がV名義のクレジットカードを所持していたため,その可能性は大きい。
 よって,甲が下線部①の犯人と認定できる。
第2 設問2について
1 結論
 異議申立につき,理由がないとして,棄却の決定をすることになる(刑事訴訟法309条・規則205条の5)。
2 理由
 Aは,「甲は,「2人でいたと言ってくれ」と言ってきました」と証言しているが,この証言についての要証事実は,発言内容それ自体の真実性ではなく,甲に自らの犯行を隠蔽する意図があったかどうかである。
 すなわち,この証言は,非供述証拠であり,伝聞法則(法320条1項)の適用を受けないから,伝聞証拠を含むものであるから排除されたい旨の異議は,理由がないのである。