原子力倫理を専門とする研究員さん、母の立場からのレポート。 抜粋 その1 | あんなこと。こんなこと。

あんなこと。こんなこと。

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研究員として、母として。

金沢工業大学科学技術応用倫理研究所研究員・大場恭子さん(東京都在住)がご自身のママ友さん達にメール配信していたものをmixiで公開されたものです。

mixiをやっている方はぜひこちらから読んでください。


メッセージを送ったところ、快く転載の許可をいただいたので
(いい人でした!)
以下に抜粋させていただきます


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 放射線は、測定する機器の感度が大変に高いため、少しでも感知されます。数値が通常の○倍、あるいは、「被曝」といった情報が流れますが、その数値が実際に健康上心配するべきものであるかの議論は全く別の次元です。 

 たとえが適切かはわかりませんが、塩分の取り過ぎはよくないといわれる一方で、塩分を取らなければ死んでしまうのと同じように、人も被曝なしでは生きられない=普段から宇宙線や大地から、あるいは食料からなど、誰でも被曝をしています。またレントゲンの撮影などでは、医療のためとはいえ、通常の状態からすれば、大量の被曝を瞬間に受けていることになります。避けなければならないのは健康に害をもたらすような大量の被曝です。すでに発電所職員をはじめとする「被曝」の情報がありますが、いずれも健康に害をもたらすレベルではありません(とはいえ、余計な被曝はさけるために、身体を洗うといったような「除染」という作業が行われています。福島県双葉町にある双葉厚生病院で自衛隊のヘリコプターによる搬送を待っていた方3人が被曝なさいましたが、彼らにも除染作業が行われました)。被曝については、人体実験がなされたことはありませんが、原爆を含む過去の経験で、どのあたりまではどういった症状がでるのか/でないのかの知見は十分に積まれています。

 避難指示の20km圏内という数値は、過去の事故(1979年のアメリカスリーマイル島)などを参考にしながら、より安全を取る数値として、気象データなども含む予測線量を基づき国が決めました。被曝は風で運ばれる放射性物質によって引き起こされますが(よって、遠くなればなるほど放射能は薄まります)、福島と東京のあいだは200km以上離れています。

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国や東京電力は情報を隠している等指摘を受けることもありますが、現在、情報開示の仕方やしくみに問題がある点はあるかもしれませんが、被曝に係わるような情報を隠すことはありません(放射線は機器があれば誰でも測れますし、また、健康被害がでるようなものを隠したところで、あとで被害状況から被曝があったことは明明白白となります。そうした中、情報を隠す意味がありません)。
また、今回放出された放射性物質の一つであるヨウ素131は強い放射能を出すために、呼吸などで吸い込んだ場合の健康被害が懸念されていますが、ヨウ素131は空気より重たいので風でもあまり飛びませんし、8日経つとその量は半分、さらに8日経つとその半分・・・となる性質があります。一般的に強い放射能を出すものは、量が半分になるのが早いという特徴があります。

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胎児やこどもへの影響について
妊娠しているお母さんが放射線を受けると、胎児に障害が現れるのではないかと心配されます。広島・長崎の原爆による放射線によって、お母さんの体内で放射線を受けて生れた子供には、目に見えるような発生異常(奇形)は見られませんでした。ただ、放射線を大量に受けた胎児には、精神発達遅延症(知恵遅れ)の発生は観察されました。
尚、広島・長崎の原爆によって放射線を受けた親から生まれた子供と、受けなかった親から生まれた子供、それぞれ数千から数万人について、遺伝病関連の発生頻度についての調査が約40年かけてなされた結果、遺伝病の発生に差は見られませんでした。
放射線量についての話をあまりしていない中で数値を出して申し訳ないのですが、約500ミリシーベルトまでは放射線の遺伝的リスクは心配ないといえます。

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マスクしなくてだいじょうぶ?
「発電所そばで○ミリシーベルト。これは××の△倍です」「□□で、通常の◇倍の値が検出されました」などにより、心配になられている方もおおいと思います。ただすでに述べた通り、放射線による健康被害については十分な知見があり、現在の東京でまったく心配する必要はありません。たとえば・・・たばこ等、煙を吸いこんじゃうことってありますよね?でも、ちょっと歩いているときに人のたばこの煙を吸いこんじゃったからって、即、癌になるわけではないわけです。今の東京の状況は、たとえ△倍であっても、健康被害に至らない放射線量なんです。
※でも、心配ならマスクしてください!するなといっているわけでは全くありません。

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外で遊んでいい?
現在の東京はまったく問題ないです。国や東京電力が情報操作をしているのではないか?など、思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は、限られた時間と能力、人員の中で、何にどう対応するかも検討する中、どういう情報を出すかはとても難しい作業と判断が要求されるものと思います(正直、そのままデータを出しても、それを理解できる人は記者会見の現場にはいないと思います。情報を出すには情報を出すだけの用意も必要で・・・)。とはいえ、今回の情報提供のあり方の適切性については後に議論されるべきことと思います。ですから、「もっとこのときにこうした情報を出すべきだった」との議論は、後に必ずなされるものでしょう。なされなければなりません。
ただ!どれくらい放射線量があるのか。というのは、計測器があればどこでもだれでも測れるもので、東京をはじめとする場所場所での値に改竄等はあり得ません(改竄したところですぐにバレます)。発表される値というより、それに伴って話される「対応が必要かどうか」に準じて行動ください。
自身としては、親があまりに神経質になって子が外で遊べないという方が不幸に思いますし、実際、今から閉じこもってしまっては、健康な人も健康を害してしまう恐れがあると思います。

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洗濯物は干してもだいじょうぶ?
だいじょうぶです。屋内退避の指示が出たら、外には干さないでください。今は、ぜひ外に干して、おひさまのにおいのするものを着てください。

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楽観的あるいは性善説ではないかとの質問がありました。
私自身は、私の考えが、楽観的であるとか性善説であるとかは私以外の方が判断するべきものと考えています。私としては、それが楽観的かとか性善説であるかはさておき、一専門家として、責任もって情報発信しているというだけです。
正直、原子力というのは、それが専門というだけでそれまで普通に話していた人と縁を切られることがありえるものでもあります。ですから、別に隠すつもりはないのですが、とはいえ、このように多くの方にface to faceではない状況で、その専門であることを伝え、かつ発言をすることは、今の状況がなければしないことでした。

私は私として、いい加減なことも、むやみに安全を繰り返しもしません。私自身はその専門家として、なにかあれば被爆してでもというか被曝なんて気にせず飛び込む覚悟があります。しかし、
みなさんをはじめ一般の人が健康を害するような被曝はあってはならない。絶対にダメ!と思っています。
ですから、その状況のときは、ちゃんと伝えます。できるだけ早く。
みなさんを守るって言い過ぎかもしれませんが、ある意味そういう責任を感じた上で、書いています。

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以上抜粋。


大場さんは一研究者として、母として、
ご自身にできることは何かと考え

今回の原発事故に関しての情報を、
睡眠時間を削って発信し続けています。

わかりやすく丁寧な説明、ありがとうございます。