閃け!棋士に挑むコンピュータ/田中 徹
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少し前に、コンピュータ「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンに勝ったというニュースを見た。将棋は、チェスに比べ、取った駒を自分の持ち駒として使える分複雑で、将棋においてコンピュータがプロ棋士に勝つのはまだまだ先だと言われていた。しかし、コンピュータ「あから2010」は女流トッププロ清水市代に勝利した。

この本は、コンピュータ側、棋士側の両面からその対決を解説する。はっきり言ってめちゃめちゃ面白い本だった。将棋のわからない人、コンピュータに興味がない人にはどうでも良い本かもしれないけれど、実に面白い。コンピュータと人間の戦いというよりもコンピュータの後ろにいるハード、ソフトを開発した人間の戦いであり、清水はそれを感じている。

毎年、中学校で授業をする際、「将来、どんなにコンピュータが発達しても、人間にしかできないことは何か」を宿題として考えてもらっている。答えは様々だが、コンピュータができることは年々増えている。今回、清水に勝利したコンピュータは169台のコンピュータを並列につなぎ、各コンピューターはクァッドコアなので、700近いコアを持ち、4つの将棋ソフトの合議で手を決める。1秒間に1億近い局面を読む。清水は将棋に関してだけでもそれと同等の脳みそを持っているということだ。そして、たまたま一回勝ったというだけで、次にコンピューターが勝つとは限らない。おそらく、人間の頭脳をコンピュータで作ろうとするととてつもない大きなものとなるだろう。

コンピュータや技術の進化を礼賛するよりも人間を礼賛したい、そんな気持ちでいっぱいだ。

もう一つ驚いたことがある。この「あから2010」の開発者も「鉄腕アトム」にあこがれていた。世界の多くの技術者になんとアトムファンが多いことか。手塚治虫の偉大さをあらためて感じる。