3日目
日本海を見るためだけに~心静かな旅
「引き返そうか…」そう、呟いていた。
ここは群馬県、秦名山に向かう県道28号線だ。
周りには何一つなく、通る自動車やバイクもまばら。
何の音も聞こえない。
どうして引き返そうなんて血迷ったことを思ったのか。
僕にそう思わせたのはのどの渇きだった。
水は一滴もない。そしてだらだらと上る道。
体温が上がりすぎるので、頻繁に休憩をとるが、脱水症状になりつつあった。
ここから先4キロはずっと上り坂。引き返せばすべて下りだ。
でも、引き返したくないという思いがあった。
突然だけれど、僕はネットカフェにソフトクリームがあると、お店で売っているような綺麗な形を作ってみたいと思うタイプの人間だ。昨日は完全な住宅地で夜になってしまい、幹線沿いにあったネカフェ(寝カフェと言う人もいる)に入ってしまった。
そしてそのお店にはソフトクリームがあったのだ。
そして起きたら午前10時。
何が起こったのかは想像の通りで、もう甘いものはしばらく食べたくないと思った。あぁ、しかし昨日の夜、地図を見ていたときに、偶然にも「伊香保」という文字を見つけてしまったのだ。
はじめはそれが何なのかわからなかったが、なんとなく聞いたことのある地名だと思った。そしてなぜか故郷の秋保温泉を思い出した。
ぴんぽーん、と頭の中で音が鳴る。
そうだ、伊香保って秋保と並ぶ歴史ある温泉街だった!
行くしかない。そう思った。そして一番近い県道28号線を安易に選んだ。
そういうことで秦名山に向かっていた。
そして水を忘れた。
水がないだけで、本当に苦しい。自転車を押しても息苦しいし、乗ってこげばもっとつらい。
しかし10分後、僕は復活した。
リュックに何気なく入れていたものによって。
ほとんど忘れ去られていたもの。
それは、馬とかウサギとかが好むもの。
それでは9/16日の日記に戻ってみよう。
僕は冷蔵庫の野菜を処理しきれなくて…持ってきた!!
そうにんじんさんを!!!
初めて生野菜に心からおいしいと思った。そして、やはり心から感謝した。食べ物って偉大だ。
たまたま通りかかった車のカップルが荷物を積んだ自転車を見て、その隣でにんじんをかじる男を見ていぶかしげな顔をしていた。
ふう。今日も生きている。生きていればいろいろなこともあるよね。
きっと、今日みたいに、失敗することもあると思う。
でもいいんじゃないかな。それも楽しいって思えるときがきっと来る。