安田敏朗

国語審議会


 副題に「迷走の60年」とある。帯の文句には「面白くも哀しいドタバタ劇の数々」と。その通りだわなあ、と言わざるをえない。これこれこういうことがあった結果、我々は今こういう日本語の文章を書いているわけだ。


 この漢字は使ってもいい。この漢字は使っちゃダメ。仮名遣いは「この漢字」がダメで「この漢字」と書きなさい。戦後、「正しい国語」のあり方をめぐってテンヤワンヤの大騒ぎを展開した国語審議会(現在は文化審議会国語分科会)の論議の一部始終を、とても要領よく紹介してくれている。


 漢字が生き残っていることに不思議な感慨を覚える。漢字廃止論どころか平仮名もカタカナもやめて文章はローマ字だけで書くべきだというような主張が優勢を占めた時期もあり、高名な学者や作家が大まじめにそう唱えていたということが分かるだけでも一読に値する。


 著者のスタンスは<ことばが多様であることは、けっして「乱れ」ではない><ことばを一元的に管理することはできない><さまざまな日本語が存在することを、混沌や混乱などとみなさないこと>。かつては言葉に関して頑迷で保守的だった谷中庵主人だが、今はこの考え方に近い。


 著者も言うように、ワープロ→パソコンの時代になって事態は一変した。文字は「書く」ものではなく「打つ」ものになった。難しい漢字を手では書けないが、読めるし打てるという日本人の日本語は、これから一体どうなっていくのか・・・示唆に富む1冊であります。講談社現代新書、760円。