「フラガール」 | やまたくの音吐朗々Diary

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映画レビューを中心としたバトルロイヤル風味。

フラガール

間もなく公開される「フラガール」の試写。

すばらしい感動作。

昭和40年、エネルギー革命により炭坑閉鎖の危機が迫る福島県いわき市。そこでは、北国をハワイに変えようというプロジェクトが持ち上がっていた。その目玉となるフラダンスショーに出演するダンサーを育てるために、東京からひとりのプロダンサーがやってきた。が、教える相手はズブの素人。果たして立派なハワイアンダンサーは育つのだろうか!?

常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)創設時の実話に基づいた物語。

フラダンサーたちのサクセスストリー——

——なのだが、「ズブの素人→舞台で踊れるようになる」という単純な成功物語ではない。

いや、たしかに大局的にはハワイアンダンサーの成功物語なのだが、その過程にちりばめられたエピソードがとにかく面白い。

この映画の芯を貫いているものは、なにを隠そう「戦い」である。

「鉱業(第2次産業)である炭鉱夫」と「サービス業(第3次産業)であるハワイアンダンサー」。その間に生まれる戦い。

「男性至上の古い価値観」と「女性の地位向上を目指す新しい世代による新しい価値観」。その間に生まれる戦い。

「会社存続のために社員の首を切る者」と「長年忠誠を尽くしてきた会社に首を切られる者」。その間に生まれる戦い。

ひとにぎりの華やかなトップダンサーになりそこね、片田舎のダンスコーチとして働かざるを得ないひとりのダンサー。その心にうずまく「プライド」と「現実」の戦い。

「母」と「娘」、「父」と「娘」、「借金取り」と「借金取りに負われる者」、「先生」と「生徒」……あらゆる戦い。

昭和40年。時代と価値が大きく変わり行くなか、ときに大きな摩擦や渦のなかに放り込まれながらも、けなげに、そして懸命に生きる人々の素直さ、実直さに、胸を打たれる。

いじらしいほど、せつなく、泣けるのだ。

それだけではない。

そんな登場人物たちに、季相日監督が加えるユーモアあふれる演出がまたすばらしい。

けなげに生きる人々から生まれる笑いの、なんともあたたかいことよ。あざとさのないこの素直な笑いは、いかにも昭和的であり、シニカルでやや悪意に満ちた現代的な笑いとは、明らかに質を異にしている。

その演出に加え、アップを多投した手触り感のある撮影や、ジェイク・シマブクロの手によるサウダージな音楽も効果的。

そして讚えるべきは、キャスティング。

松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、岸辺一徳、富司純子らいずれも非の打ちどころのない面々に、脇を固めた寺島進(適役すぎ)。南海キャンディーズのしずちゃんを除けば(ゴメン!)、ほぼ完璧な配役を実現している。

2時間という時間のなかにちりばめられた、あらゆる「戦い」、そこにある、ほろ苦くせつない感動を味わってほしい。

そして、フラダンサーを演じた女優たちの猛特訓ぶりがうかがえる替え玉なきエンディングステージを笑顔で見守ってほしい。

ひとりひとりの“勇気”と“成長”をつぶさに記録し、そして、「戦い」の結末を“勝敗”ではなく、“共生”で締めくくったあたりに、季相日監督の手さばきの鮮やかさを感じずにはいられない。

どこにでもありそうな、それでいて凡百のサクセスエンターテインメントムービーと一線を画している。そんな「フラガール」は実り多き傑作である。

オススメ指数:90%(最大値は100%)

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