農林水産省で、勤務時間帯に職員が許可なく組合活動を行う「ヤミ専従」疑惑が発覚した。

 

 労使が組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)工作をしていた疑いも浮上しており、石破茂農水相が関係部局に調査のやり直しを指示した。当然の判断であり、事実関係を早急に徹底解明するよう求めたい。

 

 同省の説明によると、疑惑については昨年3月の段階で匿名通報により把握していたという。しかし、当時の本省や全国の出先機関の組合幹部1395人について3度にわたり調査したものの、最終的には「ヤミ専従は確認できなかった」と結論づけていた。

 

 だが、理解に苦しむのは調査の中身だ。出先機関の報告を集めただけの最初の調査では、計142人に疑惑ありとされたのに、2度目の調査では48人に激減し、最終的にはゼロとされた。

 

 しかも、調査にあたっては事前に組合側に通報していた。また、本来なら実態解明の先頭に立つべきはずの本省幹部が、出先機関の所長らを集め、事実関係の口止めとも取れる指示を出していた疑いも持たれている。

 

 ヤミ専従は、実際には組合活動に専従しているのに、業務についているかのように見せかけて給与を貰い続ける悪質な行為だ。法律で禁止されていることは勿論だが、公務員として国民に対する重大な背信行為といえる。

 

 昨年は年金記録問題をきっかけに、社会保険庁ではヤミ専従行為も広範に行われていた実態が明らかになり、組合幹部や出先の事務所長ら関係者40人が刑事告発された。全員が起訴猶予処分となったものの、不正に支払われた給与は5億円近くにのぼった。

 

 事態を重く見た総務省は、中央省庁と地方自治体を対象にヤミ専従の実態調査を行ったが、昨年9月に公表された結果は「現時点では該当なし」の判断だった。この中には、今回疑惑が指摘された農水省も含まれている。

 

 表面化しないだけで、こうしたヤミ専従は中央、地方を問わず、いまなお広く行われているともいう。背景には親方日の丸の手厚い身分保障の下で常識外れの行為が目立つ公務員の組合活動がある。加えて、事なかれ主義から職員管理に甘くなりがちな幹部の当事者意識の欠如も指摘される。

 

 今回は氷山の一角ではないか。政府は改めて公務員組織全体の再調査にも踏みきるべきだ。


<産経新聞>