2007-02-09 07:08:45

アジアに堕ちた男

テーマ:夜の果物、金の菓子
テリー・タルノフ, 山川 健一
アジアに堕ちた男―愛・と・ド・ラ・ッ・グ・を・め・ぐ・る・旅


ぼくが2年以上かかって翻訳した、「アジアに堕ちた男」が発売になりました。
部数が少ないので、入荷していない書店も多いかも。
ご希望の方は、このブログを読んで下さっている皆さんならweb書店のほうが便利かも。

その序文を紹介します。


「アジアに堕ちた男」
序文──ようこそ、ルナティックな旅へ
                                山川健一

 1974年、世界はベトナム戦争を抱えていた。
 一人のドロップアウトしたアメリカ人のヒッピーがアフリカ大陸を出発し、インドに入る。そこから、この長い小説は始まる。
 原題は"The Bone Man o f Benares:A Lunatic Trip Through Love And The World"(ベナレスの骨男/愛と世界を巡る気の狂った旅)といい、2004年6月にニューヨークで出版され、2005年2月にペーパーバックにもなった。
 テリーはぼくより少し上の年齢で、1971年にアメリカに嫌気がさし、ギターと16個のハーモニカを鞄につめると、その後8年も続くことになる世界放浪の旅に出た。北欧やギリシャやアフリカ、インドやバリなどあちこちでブルースハープを吹き、スウェーデンの女の子やフランスの女の子と恋に落ち、ヘロインやオピウムなどのドラッグをやりまくる。その経験が、『ベナレスの骨男』にぎっしりと詰まっている。
 それにしても奇妙奇天烈というか、奇想天外な本である。
 物語がアジアの一角で始まったかと思うと、いきなりカナダ国境に近い小さな町からミルウォーキーに越してきたばかりの幼年期の回想になり、さらにシーンはすぐに変わり、古いフォルクスワーゲンのバンで十一月半ばにオスロからストックホルムまで走る様子が描かれる。
 この『ベナレスの骨男』は時間軸が錯綜しており、何度も前のページに読み返さないと主人公が「いつ」「どこ」にいるのかわからなくなってしまうのだ。
 そもそも、なぜこの長い物語に『ベナレスの骨男』なんてタイトルをつけたのだろうか? ヒンズー教徒が死ぬまでに一度は訪れたいと願うインド最大の聖地、ベナレスで人骨を売りに来る男のことが少しばかり描かれてはいるが、それは1シーンにすぎない。さして重要な登場人物であるとも思えない。
 テリー・タルノフはおそらく、旅の間につけていたノートをベースにこの物語を書いたのだろう。ハイになっている時も、落ち込んでいる時にも彼はノートに向かい、帰国してからゆっくりと長い時間をかけて『ベナレスの骨男』を書き上げたのだろう。
 読んでいると、不思議な力でぐいぐいその世界に引き込まれる。彼の旅した場所はぼくが旅した場所とずいぶん重なっていて、「どこかですれ違っていてもおかしくないな」などと考えながら読んだ。
 しかし、それを翻訳するなんて作業は、およそ不可能なことのように思えた。日本語だと1000枚を越える分量なので、書籍化するのは難しいように思えた。だがあきらめてしまうには、この小説はあまりにも力強く美しく感動的なのだった。
 原書では第一章から第三十九章まであり、時系列が混乱していたので、まず全文を第一部から六部までに分け読者が理解しやすいようにした。だが出来上がった原稿を読み返すと、まだ錯綜したままなのだ。
 そこで、思い切って「意訳」することにした。
 いや、実は「意訳」なんてレベルは超えていて、一度『ベナレスの骨男』をバラして時系列通りにシークエンスを並べ、自分で新しい小説を書くつもりで世界を組み立て直し、独立したふたつの長編小説にしたのである。
 何箇所か、原文にはない文章を加筆した。もちろん、ニューヨークの出版社を通じて、著者の了解をとった上でのことである。
 そんな気が遠くなるような作業の果てに、二つの長編小説が完成した。
 そのうちの一冊がインドやバリを舞台にしたこの『アジアに堕ちた男』であり、もう一冊が『太陽が沈む前に』である。時間的には『アジアに堕ちた男』が一九七四年に始まり、『太陽が沈む前に』のほうはそれ以前の一九七二年、主人公が最愛のスウェーデン人の恋人であるアニカに会うところから始まる。
 だが、まず『アジアに堕ちた男』のほうを読んでいただいたほうがテリー・タルノフの不可思議な世界が理解しやすいだろうと思い、こちらを先に出版することにした。いずれにしても、どちらも独立して読める長編小説になっているはずである。
 解説のための対談を、EXILE(放浪者)の先輩であるロバート・ハリス氏にお願いした。初対面なのに旧知の間柄のようにぼくは感じた。しかもその場に著者のテリー・タルノフもいっしょにいるような錯覚を覚えた。あるいは、ハリス氏といっしょに共通の友達のテリーの話をしているような感じだった。
 装丁は、「絶対にあの人しかいないな」とぼくが心に決めていた方の名前をあげて編集担当の岡聡氏にお願いしてもらったら、快く引き受けて下さった。
 横尾忠則氏である。
 『アジアに堕ちた男』は旅が旅であり得た時代の話である。命懸けでないと恋愛できない場所におけるストーリィだ。
 そのあまりにも美しいエンディングに、きっとあなたは感動するにちがいない。
 それでは、ようこそ、愛と世界を巡る気の狂った旅へ。
 
 

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2006-11-15 04:44:31

『「書ける人」になるブログ文章教室』のプロローグです。

テーマ:夜の果物、金の菓子
はじめに

 若者の読書離れだとか、出版不況であるとか、多くの日本人が文章を読んだり書いたりしなくなったというネガティヴな現象が報告されている。
 だが、ほんとうにそうだろうか?
 たしかに難解な文学書は敬遠されるようになり、子供達の「作文」能力は低下傾向にあるのかもしれない。テレビのクイズ番組などで、アイドルタレントと言われる人達が常識的な日本語をあまりにも知らないのを見せつけられると、笑うどころか暗澹とした気分にもなろうというものだ。
 だがそれでも今、多くの日本人はかつてより大量の文章を読み、自分の言葉を書き記しているのではないだろうか。
 ただしその場所が変化したのである。単行本を読んだり宿題の作文を書いたり同人誌をやったりするわけではなく、インターネット上のブログや携帯メールで大量の文章が読み書きされているのだ。そして多くの人々が「言葉でしか伝えられないことがある」という事実に、あらためて気がつき始めたのではないだろうか。
 この本は「文章教室」と銘打ちはしたが、それほど堅苦しい本ではない。
 第一章から第五章までは、ブログやノートや作品を書くためのちょっとしたヒントを書き記した。
 第六章、第七章では、アメーバブックスの編集長という立場から、自分のブログを書籍化したいと願う人達のためにその戦略を紹介した。同時に、ブログ本という新しいカテゴリーの本作りのための「編集の実技」にも触れた。インターネットは驚異的なスピードで進歩しているが、それでも多くの人々は紙で作られた「本」というものを愛しつづけるだろうと思うからだ。
 新聞や雑誌が消え去っても単行本はのこるだろう、とぼくは思っている。
 本というものは古来から、フェティシズム(呪物崇拝)の対象でさえあった。とりわけ日本人は本が好きで、それは欧米のペーパーバックと日本の文庫本や新書を比較してみれば明らかだ。日本で作られる小さな本達はコーティングされたカバーが付けられ、帯まで備えている。いわば可憐なデザインの洋服を身に纏っているのだ。
 第八章では、小説を書くための簡単な地図を提示したつもりである。多くの文章の中で小説だけは特殊であり、しかもそれを書きたという方が多い。駆け足になってしまったが、一応のガイドにはなるだろと思う。
 ほんの少し「書く」ことを意識するだけで、文章は格段に上達する。
 うまくいかずに落ち込むこともあるだろうが、それでも書きつづけていくことが「書ける人」になるための方法なのだ。
 本書から「書く」ためのヒントをいくつか拾っていただければ、著者としてこれ以上の喜びはない。
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2006-05-27 05:07:20

『夜の果物、金の菓子』への質問にお答えします。VOl 1

テーマ:夜の果物、金の菓子
 日刊ゲンダイ(5月25日付)に、『夜の果物、金の菓子』の著者インタビュー「闇の勢力に支配される現実に、暗澹たる気持ちになりました」が掲載された。
 
 作品が刊行されてから少し時間も経ったことなので、メールなどで寄せられた質問に、少しづつ答えていこうと思います。同じ内容の質問や感想が重複している場合が多いので、質問内容はメールの文章を要約することにします。
 
□この小説に書かれていることは、事実なのですか?
 この質問が、じつはいちばん多かったです。なかには「どの部分が事実でどの部分がフィクションなのか教えてほしい」という内容の、非常に丁寧な長文メールをいただくこともありましたが、それにはお答えできませんでした。
 限りなくノンフィクションに近い小説である、とぼくは思っています。クロスレックスという企業には、モデルになる企業も存在し、小説中に出てくるさまざまな数字も根拠があるものです。
 ただ、『ニュースキャスター』の時とは異なり、残念ながら主人公の紺野昭次郎にモデルがいるわけではありません。紺野昭次郎という登場人物は、今のぼくの理念や理想を描いた架空の存在です。

山川 健一
ニュースキャスター

 
□ライブドア事件との関係は?
 原稿は、じつは2005年の12月に完成していました。したがって、ライブドア事件をモデルにしたわけではありません。年が明けてライブドア事件が起こり、野口英明氏が謎の死を遂げたのを見て、自分が書き終えたばかりの小説のように進行する現実に戦慄を覚えました。
 自分が書いた小説がどれほど現実に肉薄できているかは、時間が経たないとわからないことだと思いますが、ライブドア事件にからんで次々に明るみになるITベンチャー・政財界・裏社会の繋がりを見ると、作家としての自分のイマジネーションが不幸なことにそれほど的外れではなかったのだなと今は思います。
 
□エンディングで、<ノアール>の黒服の長野浩一が殺されますが、誰に、どういう理由で殺されたのか?
 それは、紺野昭次郎を殺した勢力が、紺野の場合と同じ理由で殺したのだと思います。つまり、総合商社のクロスレックスやITベンチャーのエッジプラニングに巣食っている勢力が、銀座の高級クラブにも巣食っているということです。ただ、残念ながら、あまりにもリスキーなのでそこまではっきりとは書けませんでした。ご推察ください。
 これは作者の勝手な想像ですが、結花がママをつとめる新しいクラブも、小説が終わった後さまざまな困難にぶつかるはずです。それはきっと、また別の物語になるのだと思います。

□ITベンチャー企業を率いる高階伸一は、元ライブドアの堀江貴文氏、またはサイバーエージェントの藤田晋氏がモデルになっているのですか。
 そうではありません。ぼくは、堀江さんとは面識がありません。藤田さんとは親しい間柄で、帯に推薦の言葉も書いてもらいましたが、どちらもモデルというわけではありません。ただ、藤田さんのエモーションからは日々影響を受けていると思います。

obi
 
□銀座<ノアール>の結花と紺野との恋愛は、山川さん自身の経験がベースになっているのですか。
 これも、じつはとても多かった質問です。新しい小説を書くと時々似たようなことを聞かれ、答えに窮しますが、ミック・ジャガーがニューアルバムについて似たような質問を受けて答えている言葉を、借用したいと思います。
「自分の日記とクリエイティブな想像力が混ざってる。ライターというのは、そういうもんだろう。もしも俺が、俺の本当の人生ってものをはっきり正確に書いたとすれば、みんなすくみあがるぜ」(「ロッキン・オン」5月号)

□フェレットのガセ先生にモデルはいますか。
 アメーバブックスの編集部の女性がフェレットを飼っていて、その中の白いフェレットがモデルです。編集部内では皆「タコ先生」と呼んでいました。小説の中でガセ先生が亡くなるシーンを書いた少し後で実際の彼が逝ってしまったということを知り、長野浩一と同じようにぼくも泣きました。

taco先生
子供の頃のtaco先生
 
□クロスレックスの取締役である紺野昭次郎、<ノアール>の黒服の長野浩一。作者自身が強く投影されているのはどちらですか。
 長野浩一のほうではないでしょうか。
 先にも書いた通り、紺野はぼくの理念や理想です。で、小説というのは不思議なものだとつくづく思うのですが、初稿の段階では長野浩一という人物は存在しませんでした。昨年の夏頃だと思いますが、初稿を何度か通読し、目の前の原稿に何が足りないのか考えてみました。
 その結果「長野浩一」という、ぼく自身にとても近しい男を登場させることで、足りない部分を補ったのです。ところでこの名前が『コーナーの向こう側へ』というかつてのオートバイ小説の主人公と同じ名前だと指摘していただきましたが、もちろん2人は別の人物です。「浩一」という登場人物が多いとよく言われるのですが、困った時に「浩一」を登場させると、不思議なことに小説がパワーを得ることができるのです。

□この小説を書くきっかけは?
 ブログだからはっきり書きますが、それは日本の銀行支配に対する怒りです。そういう意味では、『夜の果物、金の菓子』は前作『歓喜の歌』の世界を引き継いでいると思います。

山川 健一
歓喜の歌



 大手銀行はいま軒並み、好決算を記録しています。不良債権が減り戻り益が出たおかげなどと言っていますが、公的資金(つまりぼくらの税金)で救済され、長らくゼロ金利で押し通し(つまり預金者に利子を払わずに)、支店を次々に閉鎖し統合合併を繰り返した結果の「最高益」です。公的資金という名目で、国民1人あたり36万円が吸い上げられた計算になります。
 ATMの手数料が預金の利息をはるかに上回っているのが現状なのです。そもそも、自分の金を引き出すのに、なぜ手数料を払わなければならないのでしょうか。預金者に利息さえ払わずに手数料をとるとは、まともな商売とは思えません。
 大手6グループの今期の最終利益は3兆1200億円。バブルのピークだった1989年でさえ1兆6650億円だったのだから、これがいかに異常な数字かということは一目瞭然です。即刻、ぼくら1人ずつに36万円を返却していただきたい。
 しかもこうした銀行が裏で何をやってきたかというのは『夜の果物、金の菓子』に書いた通りなのだから、唖然とするばかりです。デフレ不況の時に、いったい何人の中小企業経営者が「貸しはがし」「貸ししぶり」に会い、自殺していったことか。
 日本の銀行には社会的責任を果たそうとする倫理観など欠片もなく、そうなるとただの金貸し業者でしかない。サラ金と変わりはありません。サラ金の恐ろしさは、『歓喜の歌』に書きました。
 ぼくがITベンチャーを強く支持するのは、これも『夜の果物、金の菓子』に書いたように、平身低頭して銀行から資金を借りるのではなく、市場から直接資金を調達しているのだという事実が大きいような気がします。それは、借金でさえないのです。そんなベンチャーを見ているぼくには、きっと、銀行をコアにした旧体制に対する「ザマアミロ!」という気分があるのだという気がしています。
 銀行の大切な社会的な役割のひとつは、既に終わりつつあるのではないでしょうか。
 それだけに、ライブドア事件は悲しいです。
 
※ つづきは、また近日中に書きます。感想や質問がある方はコメント欄に書き込むか、yamakawakenichi@mac.com(半角)宛にメールを出してください。可能な範囲内でお答えしたいと思います。

※『夜の果物、金の菓子』の書評・感想を書いてくださったブロガーの皆さま、過去の記事でかまわないので、お手数ですがこの記事へのトラックバックをお願いいたします。
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2006-05-16 18:26:22

知性を鍛える、悲しみを深める。

テーマ:夜の果物、金の菓子
この頃、思うこと。
それは、悲しみの深奥にこそ本来的な意味での「知性」が宿るのではないかということだ。
怒りは知性を摩滅させる。
悲しみは知性を鍛える。
知性とは情報の集積ではなくエモーションなのだろう。
かつて、ドラッグにまみれた青春を描いた『マンハッタン少年日記』の中で、アメリカのパンク詩人であるジム・キャロルは書いた。
「イノセントになりたい」と。
ほんとうに、その通りだと思う。



マンハッタン少年日記
ジム・キャロル, 梅沢 葉子
マンハッタン少年日記



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2006-04-04 15:11:36

ピンクの雲とジャスティス

テーマ:夜の果物、金の菓子
 新しい小説が書店にならんでしばらくは、時限爆弾をこっそりしかけた犯行者の気分になる。
 今度の小説は、誰かの胸の中で、ちゃんと爆発してくれるだろうか?
 エンディングでちゃんと爆発して、ピンクの雲のようなものがわき上がり、愛ってものが広がってくれるだろうか?
 
 果物は朝食べないさい、と親は子供に教える。
 夜の果物には、二束三文の価値もない。
 
 だが、それこそは最高の価値なのだ。
 金の菓子。
 それはビートミュージックであり、荒唐無稽な夢であり、社会を敵に回すかもしれないジャスティスであり、かなえられることのない愛ってものだ。
 それを信じるか?
 
 夜の果物こそが金の菓子なのだ。
 それはぼくが墓場まで持っていこうと思っている、思想の表現にほかならない。
 
 書き終えた小説が、いつでも、ぼくの尻を叩きつづける。
 ビビるんじゃない、と。
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2006-03-29 06:10:50

「夜の果物、金の菓子」本日発売。

テーマ:夜の果物、金の菓子
yoru
山川 健一
夜の果物、金の菓子
※ 本の画像、ご自由にお使いください。


 前にも紹介した、書き下ろし小説「夜の果物、金の菓子」(幻冬舎・1600円)が、今日書店に並ぶ予定です。もくじと、冒頭部分を紹介しておきます。




   夜の果物、金の菓子
                       山川健一


 
      2003年10月──2006年1月

      一章 ガセ先生の啓示      

      二章 銀座<ノアール>のナンバーワン      
      
      三章 眠るように死んでしまえたなら      

      四章 腐った海の底の情報      
      
      五章 氷に包まれた炎      
      
      六章 夜の長い悲鳴

      七章 愛のための計略

      八章 別離





      一章 ガセ先生の啓示



      1 
 
 2003年10月、東京。
 雨が降っている。
 長野浩一は窓の外を見た。雑居ビルの間に長細い空が見える。ビルの壁は濡れ、空間は雨で煙っていた。向かいのマンションのベランダの手すりに、カラスがとまっている。雨に濡れながら、じっと動かない。生きてはいるのだろうが、しばらく動かないのだ。
 不吉なことが始まる印とか予兆のようなものなのだろうか?
 いや、そんなふうに考えるのはよそうと思い直す。弱った心には、すぐに不吉な影が入り込んでくる。影は、人間の心の中の暗い部分に敏感で、すぐに入り込み合体し増殖し、人間を丸ごと闇の中に引きずり込もうとするのだ。
 長野は窓際を放れ、打ちっぱなしのコンクリートが剥き出しのうす汚いアパートのソファに腰をおろした。床に置いてある煙草に手を伸ばす。
 その時、窓際に置いてきた携帯が鳴った。だが取る気がしない。コール音は鳴りつづける。バスルームから戻ってきた由佳里が振り返るが、長野は素知らぬ顔をする。お互いさまだった。ホステスの由佳里の携帯だって、十分おきに鳴る。
 どこかの企業の社長や会長や、政治家や芸能人がかけてくる。由佳里はバスルームとか、会話が聞こえない場所で話したいのだろうが、あいにくこの古い部屋はDoCoMoもVodafoneもauも、窓際でしか電波が通じないのだ。
 案の定、由佳里の携帯も鳴りはじめる。
 窓辺に立って外を眺めていた由佳里はとろうとはしない。コール音が鳴りつづける。長野は煙草に火をつける。彼はコーヒーと煙草の中毒なのだ。
 雨は降りつづける。少しずつ激しくなっていくようだ。



○書店での動きを知りたいので、この本を見かけた方はコメント蘭で知らせてね。よろしくお願いします。
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2006-03-24 16:59:22

「夜の果物、金の菓子」の見本ができました。

テーマ:夜の果物、金の菓子
 今日、22日にストーンズをいっしょに観にいった幻冬舍のN氏が、「夜の果物、金の菓子」の見本をバイク便で届けてくれた。

   夜の果物

 658枚の長編、3月29日発売です。
 3年かけた書き下ろしなので、皆さん、是非ともご一読ください。

 1カ月の間に「ローリング・ストーンズ伝説の目撃者たち」(アメーバブックス)、「夜の果物、金の菓子」(幻冬舍)と2冊の本を刊行するのは、まさに嵐の中を走るような感じだった。

 これは、「ローリング・ストーンズ伝説の目撃者たち」のほうはストーンズの来日の前に出版したかったからで、「夜の果物、金の菓子」のほうは、期せずして小説の内容がライブドア事件を予見するようなストーリィだったので、発売を急いだという事情があるからです。



 ところで、今日はストーンズ2日め。ぼくも、原稿を1本書いて、出撃します。

 初日のストーンズについて、今日発売の「夕刊フジ」でインタビューを受けてます。

 明日はアメーバブックスで『イケナイ宝箱──ようこそ鬱の世界へ』を出版する素樹文生さんのサイン会があります。
 ぼくもお手伝いというか、司会というか対談相手としてで参加するので、みんな来てね。予約とかしてない人は「山川さんの友人です」と言ってくれればいいから。


■日時/3月25日(土)14:00~
■会場/紀伊國屋書店 新宿南店7階(新宿タカシマヤ5階)連絡口特設会場

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2006-03-21 02:49:32

書き下ろし長編小説『夜の果物、金の菓子』、幻冬舍より3月末刊行。

テーマ:夜の果物、金の菓子
 ストーンズの嵐のさなか、『夜の果物、金の菓子』のデザイン見本が出来上がった。
 これは、『ニュースキャスター』(幻冬舎 2001.01)、『歓喜の歌』(幻冬舎 2003.03)につづく、ぼくの3年ぶりの長編小説だ。書き終えた直後、フィクションの世界の出来事だったはずのことが現実の事件となり、ぼくは驚いた。

 今月末、まだストーンズが日本にいる間に発売されます。

 サイバーエージェントならびにアメーバブックスの代表取締役社長であり、友人でもある藤田 晋さんにゲラを読んでもらい、推薦の言葉をいただきました。
 担当編集者のN氏が書いてくれた、帯のコピーを、紹介しておきます(見城さんの指示で、まだ変更になるかもしれませんが)。

    夜の果物

 

 

 夜の銀座。金と野心と愛の秘密。


 M&Aを繰り返すIT企業の強さと脆さ。大企業や銀行に食い込み、今やベンチャー企業まで狙う裏社会の手口。企業はいったい誰のものなのか?

ストーリィに盛り込まれた様々な情報の質と量は驚異的で、ベンチャースピリットに溢れるまったく新しい経済小説だ。そのうえ胸を打つ恋愛小説でもあった! ──藤田 晋(サイバーエージェント代表取締役社長)

ライブドアショックに揺れるIT業界に捧げる、
渾身の書き下ろし長編小説! 
 


「帯の裏のストーリィ紹介」
 誠実な仕事ぶりを買われ総合商社・クロスレックスの取締役に就任した紺野昭次郎は、創業百周年パーティ会場で、日本を代表するIT企業・エッジプランニングを率いる若き実業家・高階伸一から祝福を受けた。その会場で、高階に連れられてきた岸川結花と出会う。その夜を契機に、紺野と結花は、次第に深く愛し合うようになっていく。やがて結花は銀座の老舗クラブ<ノアール>に勤め始め、瞬く間にNo.1ホステスに上り詰める。二人を見守り続ける高階も、大きく事業を拡大させていった。密かに結花を愛し、彼女を立てた独立を誓う<ノアール>の黒服の長野浩一……。順風満帆に思われた四人の人生は、だが、企業に食い込む裏社会の存在に紺野が立ち向かおうとした時、大きくうねり始めていく──。



Some things, well, I can't refuse,
One of them, one of them the bedroom blues.
(あらがえないものだってある
そのひとつが、ベッドルーム・ブルースなのさ)
             ROLLING STONES /
Let It Loose

 つまり、そういう感じの小説……かな。





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2006-03-01 05:11:56

夜の果物、金の菓子

テーマ:夜の果物、金の菓子
 3月末に幻冬舍から刊行される書き下ろし長編小説「夜の果物、金の菓子」を入稿しました。 
 ストーンズの本もほぼ書き下ろしだし、2冊つづいたので、さすがに、胸のなかにぽっかり穴が開いたようだ。

 仕事というのは、どんな仕事でも終われば達成感があるはずだ。
 作家の仕事も、達成感はある。

 でも、どこか悲しいんだよね。空虚というか。

 なんでだろう?
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