一時期の大流行が少し沈静化したと思われる、角交換振り飛車について考察するシリーズを立ち上げたいと思います。

対象は▲7六歩△3四歩▲2六歩の後から始まる、後手番の戦法で、△3三角、△8八角成、△4二飛、△9四歩、△5四歩から始まるものです。一部△3五歩からの後手早石田、△3二金からの後手阪田流向かい飛車についても触れたいと思っています。


初めはしばらく、「4手目△3三角戦法」について考察していきたいと思います。


他に良い名称も今のところ付いておらす、現状では「4手目△3三角戦法」が通り名となっているので、このブログでもその名で呼びますが、本当は識別性の高い名前を付けたほうが良いと思っています。


個人的には、「戦法」というのは、(主に)序盤の様々な段階で用いられており、用語としては、意味があいまいだと感じています。慣習として残すとしても、曖昧さを含むということを意識していた方がいいと思っています。(オープニングと戦型と、戦型の中のさらに具体的な戦術などいずれの段階でも戦法と呼ばれる。;2手目3二飛戦法、引き角戦法、矢倉4六銀3七桂戦法など)


この四手目までの形はまだ、初期のオープニングの段階であり、私の最近の見解では、「後手オープン向かい飛車ディフェンス」というのはどうかと考えています。羽生先生が90年代に指して有名になったので、「羽生流」と付けてもいいと思います。

なぜ、”ディフェンスかというと、チェスでは後手が誘導するオープニングはディフェンスと呼ばれているから、それを流用したものです。(シシリアン・ディフェンス、フレンチ・ディフェンスなど)

そこから派生する色々な戦型はまたそれぞれの名前を付けたほうが良いと思います。(必ずしも、付けるのが簡単ではありませんが)


さて今回の基本図です。ここからどのような戦型に進行していくかを検討していきたいと思います。なお、プロの棋譜のデータベースを参考にしていますが、私のチェックしきれていないものがあると思いますが、ご了承ください。

(基本図)
$将棋日記 by yamajunn21-4手目△3三角戦法
(初手より▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角)


第1回目の今回は、四手目△3三角戦法の全体のアウトラインを、俯瞰してみます。個々の形については次回以降シリーズで考察していきます。


基本図では▲3三角成と角交換するかどうかで大きく進行が変わってきます。場合によっては角交換を保留していても、後で角交換して結果的に角交換型と同じ形になる場合も有ります。

しかしいずれの変化も、一旦角交換を保留し、次に後手が(△2二銀、△3二銀、△4二銀と)銀を上がった後で、先手から▲3三角成とすれば手損の無い角換わりになりますが、後手が飛車先不突の形のため、通常は遅らせたタイミングでは、先手から角交換は、あまりしたくないと感じます。



(1)角交換保留型

角交換を保留する場合、最も多いのは▲4八銀です。その次に▲6八玉で、稀な進行例として▲2五歩や▲5八金右が有ります。簡単にアウトラインを記載しておきます。


(1-a)角交換保留;▲4八銀型
▲4八銀に対しては多くの実戦例で以下△2二飛▲6八玉△4二銀と進行しています。コレがまず一つめです。私は後手オープン向かい飛車と呼んでみたいところです。

△2二飛以外には、△2二銀、△3二銀、△4二銀、△3二金、△4四歩、△5四歩、△9四歩、△4二飛ぐらいが考えられそうです。

なお、▲4八銀△2二飛に▲3三角成△同桂▲6五角は△4二銀▲8三角成△4四角で香取りが受からず、先手の損だと思います。(鈴木先生の著書に記載有り。)



(1-b)角交換保留▲6八玉型
角交換保留型で、▲4八銀の次に多いのは▲6八玉ですが、一気に出現頻度が下がります。今度は実戦例は全て銀を上がっています。△2二飛とすると、▲3三角成△同桂▲6五角△5五角に今度は▲7七桂と後手の角の効きを止めることができるからです。

一応△2二銀、△3二銀、△4二銀以外にも、△3二金、△4四歩、△9四歩、△4二飛ぐらいは考えられそうです。



(1-c)角交換保留▲2五歩型
▲2五歩は何となく損な感じがするので、比較的まれな変化です。これも△2二飛の向かい飛車が成立します。

(▲2五歩の前なら角を換えると同桂を強要できたのに、▲2五歩△2二銀などの後での角交換には△同銀と形よく取られるため、先手としては損をしているような気がする。)

△2二銀、△3二銀、△4二銀、△3二金、△4四歩、△9四歩、△4二飛あたりは成立しそうです。△5四歩も成立するかも知れません。



(1-d)角交換保留▲5八金右型
右銀の位置を保留したままで囲いの構築をすすめる手です。後手が振り飛車模様にすれば、そのまま舟囲いを作る手になっています。また後手が居飛車なら▲6六歩~▲6七金として矢倉(場合によっては左美濃)を構築する筋が有ります。

△2二飛、△2二銀、△3二銀、△4二銀、△3二金、△4四歩、△5四歩、△9四歩、△4二飛ぐらいが考えられそうです。




(2)角交換型

今度は基本図の4手目△3三角に先手がすぐに▲3三角成と交換する形の進行を見ていきます。▲3三角成△同桂には、▲2五歩、▲6八玉、▲7八金の3手段が有力とされています。他には▲4八銀や▲9六歩の変化も有るようです。



(2-a)角交換後▲2五歩型
この局面では△2二飛が成立します。△2二飛に▲6五角とすると、△4五桂▲4八銀△5五角といった変化が有ります。鈴木大介先生の本の解説には(少し▲6五角までの手順が違うのですが)、△4五桂に▲7八金と上がり、△5五角▲8八銀△3七角成といった変化が、記載されています。

△2二飛は成立するのですが、敢えて△4二飛と一旦、▲6五角打ちの筋に備えて四間飛車にしたり、△3二金と上がって同じく▲6五角打を消して、相居飛車や四間飛車(まれに中飛車にも)したりする展開も有ります。

また、△9四歩や△6五角もひょっとしたら成立はするかも知れません。



(2-b)角交換後▲6八玉型
この手は昔、タイトル戦で羽生先生の4手目△3三角戦法に対し、谷川先生が指した手です。何気ない玉上がりなのですが、この手により△2二飛が成立しないようになっています。

もし後手がそれでも△2二飛としたらどうなるか?以下▲6五角△5五角に▲7七桂で角筋を止められるのが、▲6八玉の効果です。以下後手の角は使えず、先手に一方的に馬を作られてしまいます。

というわけで、▲6八玉に対しては△4二飛、△3二金が有力で、他にも△4四角、△6五角と言った手が有ります。





(2-c)角交換後▲7八金型

この▲7八金の手も▲6八玉と同様に△2二飛を不成立にしています。やはり△2二飛とくれば▲6五角と打ち△5五角には▲8八銀と上がって角筋を止められます。

▲7八金に対しては△3二金と△4二飛が有力の様です。今度は△4四角には普通に▲8八銀と上がられて、角を手放したメリットが全く無いと思われます。

また△6五角も▲4八銀△7六角の時に8七の歩が既に守られているので、先手が一手早く動けます。例えば▲5六角とでも打てば後手の△2二飛には▲8三角成が有り、後手の振り飛車を牽制できます。▲5六角△3二金▲3四角くらいが比較的自然な進行でしょうか?

△3二金と△4二飛は概ね、(後手側に付いては)角交換▲6八玉の時と同じ様な進行になると思われます。ひょっとすると△9四歩も成立するかも知れません。



(2-d)角交換後▲4八銀)
この手は陣形を整える自然な手に見えます。一応、島ノートにはやや損な手として紹介されています。その理由として△2四歩が成立し、後手が銀冠に組めることが書かれています。まあ実際に指されたらどれくらい得かは微妙かもしれません。

△2四歩以外に△2二飛、△4二飛、△3二金、△5四歩、△9四歩あたりも成立するのでは無いかと思います。



(2-e)角交換後▲9六歩)
これも後手の△2二飛を牽制する意味があります。単に△2二飛と振ると、すかさず▲6五角の筋が成立します。今度は△4五桂▲4八銀△5五角と打ち返しても、▲9七香と逃げるスペースが有り、△9九角成となっても▲7八銀と守られて、馬は作れたものの、駒は何も取れず、直ぐに先手にも馬を作り返されてしまいます。

この筋を防ぐために▲9六歩に対して、△4二飛や△3二金は成立しても、直ぐに▲9五歩と位を取られると何となく面白くない感じがします。


ここで鈴木先生の著書でのオススメは、角交換後の▲9六歩に△9四歩と一旦端の位を保ってから△4二飛と振る手です。△9四歩に対して、先手が▲2五歩でも▲4八銀でも▲6八玉でも▲7八金でもいずれにしても、▲6五角問題が解決できず、後手の△2二飛は成立しないので、どの手に対しても△4二飛とするわけです。

(鈴木先生の本は、主に振り飛車党の級位~低段者向けと思われ、詳しく触れられていませんが、▲6八玉には△4四角や△6五角、▲4八銀には△2四歩などとして居飛車も含めた指し方も有ると思います。)

同様に△4二飛の代わりに△3二金も成立すると思われます。


(この▲9六歩の変化は、ゴキゲン中飛車vs丸山ワクチンの佐藤新手▲9六歩と同じ意味です。)


なおこの▲9六歩の筋は他のタイミングでも有効な場合があると思われます。(例;第51期王位戦;第3局;▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲同角成△同桂▲2五歩△2二飛▲9六歩)



今回はここまでとします。

ついでながら、チョット気がついたことを書いておきます。角交換後▲8八銀とすると、角頭歩突き戦法と全く同じ局面にできます。

4手目△3三角では、▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角▲同角成△同桂として以下▲8八銀△2四歩となった局面と、角頭歩突き戦法の初手から▲7六歩△3四歩▲8六歩△8四歩▲2二角成△同銀▲7七桂の局面が、先後逆ながら、手番も居飛車側で、実質的に同一局面なります。(角頭歩突き戦法の場合は先手が角交換で一手損しているから。)

というわけで、▲8八銀以外の変化でも、角頭歩突き戦法の手筋や定跡が応用可能なものが有るかもしれません。(窪田流の指し方には、角頭歩突きに近いという印象を受けていました。)



次回以降は、それぞれの局面についてもう少し局面を進めながら考察していみたいと思います。