No.10-3
読もうとするけれどうまく字が拾えない。目が、紙の上を滑っていく。
「何て書いてあった? ひかるちゃん、読んだんでしょ?」
縋るような目を向けると、ひかるちゃんは、
「やっぱ、読まないほうがいいかもね、かれんちゃんは」
自分が持って帰ってきたくせに、そんなことを言った。「ひどいの。佐藤君のおじいさんのこと、すごく冷酷な人みたいに書いてあって。変じゃん。実際に孫を育てた人間と、自分の子供と一緒に暮らさなかった母親と、どう考えたって──」
「……おじいさんのことまで?」
「うん。そうだよ。佐藤君のことより、周りの人間のことが悪く書かれてる。佐藤君の事務所の社長さんとか、おじいさんとかがね、まるで佐藤君に会わせるのを邪魔したみたいに──」
── 気持ちがさ、それどころじゃなかったっていうか。
あのときの佐藤君の顔。
心ここにあらずな顔。
── 平澤、頼むから、話聞いて.。
頭が一気に冷えていく。
「これ……」
「かれんちゃん?」
「これ、佐藤君、いつ読んだと思う?」
「へ?」
「これ、この記事。佐藤君達は発売前に読めるのかな?」
「さあ。どうかな。だけど、なんで?」
こんなこと。ひかるちゃんに確かめたところでどうにもならない。わかりきったことなのに。
わたしは立ち上がると、
「佐藤君のとこに行かなくちゃ」
ひとり言みたいに呟いていた。
どうしよう。
とんでもないことをしてしまった、と思った。
傷だらけの佐藤君に、ひどいことを言ってしまった。自分の気持ちに精一杯で。佐藤君の悲しみに気づいてあげられなかった。
わたしは佐藤君の部屋の鍵を手に取ると家を飛び出した。
車で送って行こうか? と言うひかるちゃんに首を横に振ると、佐藤君のマンションへと、駆け足で向かった。