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レイさんと品川は、仕事だから当たり前なのかもしれないけど、掲載された記事をきちんとチェックしていた。
「佐藤さんのことが、まるで血の通わない鬼だったみたいに書かれてるわよ」
週刊誌を目の前に差し出し言ったレイさんの言葉に、心臓が一気に冷たくなった。佐藤さん、とは。亡くなった祖父のことだ。
「会いたいって何度懇願しても会わせてもらえなかったって」
「……アホくさ」
「読む?」
「いや、いい」
そんなもん、絶対読みたかねえや。
週刊誌を、汚いものでも触るような触れ方で押し戻した。
「なぜ? 読みなさいよ」
「いいって。ってか、読みなさいってなんだよ」
「どうして読まないの? 相手を訴えることも可能なのよ? あなたが読まないと話にならないわ。この前の白戸さやかの件だって」
「やだね」
「アキ」
「読んで、がっかりしたくないんだよ」
こちらのセリフにレイさんが絶句した。
がっかり?
何に対して?
自分でもよくわからないんだけどさ。いろんなことに。いろんな人に。落胆したくなかった。ましてや血の繋がった人間に。
マンションに戻り、廊下の灯りを点けた途端、後ろポケットの携帯電話が震えた。平澤かも、と期待して素早く手に取り開く。
表示された名前に軽く目を見張った。
「── はい」
期待のあまり大きく打った心臓はまだ静まらない。そのまま電話に出たので、声が少し上ずっていた。
『あれ? なんか声、変だけど、元気?』
こちらとはあべこべに、高本の爽やかな声が耳に届く。
「元気、かどうかはビミョーですけど、まあフツーです」