No.3-2
家に帰ると、ダイニングのテーブルの上に佐藤君がいた。
いや、違う。
佐藤君の顔写真の載った週刊誌が置いてあった。
── 佐藤明良(25)、モデルの飯田もなみ(28)と破局!?
── イケメン本格派俳優の苦悩!?
── 「何でかな、すぐにふられちゃうんですよね」 本誌記者にだけ話した佐藤明良の女性遍歴!!
の文字が躍ってる。
ふーん。
あのモデルさんと別れたってことが。
今頃週刊誌に載るんだね。
ふーん。
女性遍歴だってさ。
女性遍歴って言葉、なんかすごくない?
……。
じとーっと横目で、サングラスをかけいかにもイケメン俳優然とした顔で笑ってる佐藤君を睨みつけてると、
「すごい顔」
いつの間にいたのか、すぐ横に立つしおりちゃんに言われた。
「般若、みたいだよ?」
つんつんと。ほっぺを突つかれる。
般若っ? しっつれいだなあ。
週刊誌を指差す。
「これ。しおりちゃんが買ってきたの?」
「そうよ」
「こういうの、コウの教育上、よくないんじゃないの?」
しおりちゃんは一瞬目を丸くして、それからぷっと吹き出した。
「別に、そんな目くじら立てるほどのことじゃないでしょ?」
「……」
ぷいっと横を向いてご飯をよそう。今日のおかずはなーに、かなあ? あ。鶏肉のしょうが焼きだ。それから。茄子の冷やし鉢と野菜たっぷりのお味噌汁。
母はコウと入浴中だ。
「かーれーん」
しおりちゃんがこちらの肩に手を置いて、顔を近づけ、甘い声で囁いた。
「何よ」
「佐藤君、いま、フリーなんだね」
あ。
いやーな予感。
「かーれん」
「知らないよ」
「ねえ、山口に、誰と行ったの?」
「……」
「……」
あちゃー。黙ってしまった。こういうときはすぐに切り返さないとダメなのに。でも声が出ない。顔も熱いぞ。ぜったい、真っ赤になってるはず。
ふふん、と鼻を鳴らしてからしおりちゃんは離れていった。テーブルに腰かけ、週刊誌をぱらぱらと捲ってる。
「かれんさー。佐藤君と別れてから、他に誰かつき合った人っているのー?」
知らない。もう何にも言わないもん。つんと唇を尖らせたまま両手を合わせた。いただきまーす。
「かれん」
「……」
「ね、痛かったでしょ?」
「は?」
思わず反応した。
「だって。十年近く経つよね? 前に佐藤君と別れてから。あんた、男のコとアソビでつき合えるタイプじゃないし。一度もそういうこと、なかったんじゃないの?」
な。
な、何言ってるのー、この人はー。
も、もう、顔が熱いなんてもんじゃない。火を当てられてるみたいにかっかしてきた。
── いたいっ……。