『河童とはなにか』 歴博フォーラム 民俗展示の新構築

国立歴史民俗博物館  常光徹  岩田書院     2014/4

 

 

 

<伝承から見る宮崎県の河童名称   (三好周平)> 

・本稿では宮崎県の河童伝承で用いられる河童名称の分布に焦点を当て、県内のどの地域で、どのような名称が伝えられているかを分類し、名称の分布を規定する要因について考察したい。

 

・河童の民俗語彙が全国的に多様であることに対して柳田國男が早くから注目しており、その後も折口信夫、石川純一郎をはじめとする多くの研究者がその多様性について着目してきた。今日最も一般的である「カッパ」という呼び方も、元々は関東地方の方言であった。それが近世に、『和漢三才図絵』や『本草綱目』などを通じて、本草学者らが河童を研究対象としたことにより、統一された河童という存在へと徐々に変化していった。そして黄表紙・浮世絵などの普及につれて、そこに描かれた姿や名前が全国へ拡散していったのだと推測されている。

 

<河童の名称研究の軌跡>

・河童の名称については、河童研究が始まって以来、多くの研究者がその多様性や特徴、その起源などに関心を抱いている。柳田は「河童駒引」においていち早くその多様性に着目しており、「河童に異名多し」の項において、「カッパ」は関東地方の名称で、比較的広い地域で用いられているものにすぎないことを述べ、全国の名称及び伝承について述べている。

 

・折口は「河童の話」の中で、世間で言われている河童とは異なった姿をしているものがいることに触れ、「みづし」「めどつ」などの名称がつかわれている地域では、水の主として村人から怖れられており、それは水主神社の信仰が宣布したことと関わりがあると指摘し、また土佐での「みずてんぐ」「みずてん」などは天狗と河童の中間であり、嘴がとがっているという身体的特徴によるものであるとしている。

 

<宮崎県の河童伝承と河童の名称>

・本項では矢口の論文を参考に宮崎県の河童伝承について、以下に伝承地域、そのあらすじ及び話中の河童の名称を整理する。河童伝承と判断する基準として、

a、    頭に皿がある、嘴がある、手が抜けるなどといった河童の一般的な身体的特徴

b、    河川におり、しばしば人や動物に、善悪を問わず影響を及ぼすという行動的特徴

c、    山と川の往来、もしくは山で人と関わりを持つといった行動

という三点を設定した。

 

(1) 宮崎県西諸県郡。樵夫が子供の頃、確かに河童を見た。

(2) 西臼杵郡三か所村(現西臼杵郡五ヶ瀬町)。(セコ)は藪の中に逃げた。

(3) (現東白臼杵郡美郷町)。川を渡るときに(ヒョウスボ)につけられる。

(4) (現東臼杵郡美郷町)。(ヒョウスボ)は水の神で、

(5) (現東臼杵郡美郷町)。5月の節句にその子が川のヒト(ヒョウスボ)にとられてしまう。

(6) (現東臼杵郡美郷町)。(ヒョウスポドン)は水神さんの子供で子供より小さく、

(7) (現東臼杵郡美郷町)。(ヒョウスボ)は陸に上がっている間をセコという。

(8) 日向市。日向では(セコ)のことを(ひょうすけ)と呼んでいる。

(9) 延岡市。河童がいたので切りかかったが逃げられた。

(10)          (現日向市東郷町)。(ヒョスボ)と子供たちが、

(11)          東臼杵郡門川町。ある時、河童が現れ、(ひょすぼ)

(12)          (現西臼杵郡高千穂町)。(河太郎)の声が聞こえてきた。

(13)          (現日向市東郷町)。(ひょすぼ)は河童のことである。

(14)          北諸県郡三股町。(ガグレ)河童

(15)          (現都城市山之口)。(ガラッパ)河童

(16)          現都城市)。(ガグレ)河童

(17)          児湯郡都農町。河童

(18)          児湯郡高鍋町。高鍋では特に(ひょうすんぼう)(ひょうすんぼ)と言う。

(19)          (以下、場所は省略)。河童

(20)          毛作の狐と三ツ橋の狸はよく喧嘩をし、小薄の(ひょうすんぽ)がなだめていた。

(21)          その杭は河童(がぐれ)の腕であった。

(22)          (かりこぼうず)が猟の邪魔をしたり、獲物を持っていったりすることがよくある。

(23)          そこに(かりこぼうず)が通りかかり、

(24)          それは山神の(かりこぼうず)で、春の彼岸から秋の彼岸まで

(25)          山神の(かりこぼうず)の仕業だと言われた。

(26)          (かりこぼうず)がよく通っていた屋根道があった。

(27)          外から「ホイ、ホーイ」と声がした。(かりこぼうず)だと思い、小屋の中でじっとしていた。

(28)          (かりこぼうず)がまた送ってくれた。昔から(セコどん)と人間は助け合っていかなければならないと言われていた。

(29)          (かりこぼうず)の仕業だと道を急いだ。

(30)          侍は(ガッパ)だと思い、