建物の限り | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「部屋には必ず外があるよね」と弟が言った。「それなら建物にも必ず外があるはずだよ。そうでしょう?僕はいつかこの建物の外側に行ってみたいよ」

 兄弟は長い折れ曲がった通路を並んで歩いていた。そこは天井が低い区域だが、彼等は背丈が低いので周りを行き交っている大人達とは違って腰を屈めないまま歩いていられた。

 「お前は探検家になるつもりなのか?」と兄が問い掛けた。

 「そうだよ。この建物にはまだ人間が立ち入っていない場所が一杯あるらしいからね。どこまで行っても部屋と通路があるばかりだと言う人もいるけど、僕はこの広大な建物にも限りがあって外側があるはずだと思っているよ」

 「確かに建物にも外側があって当然なのかもしれないな。僕もそう思うよ。むしろ無限に広い建物の方が想像し難い。無限なんて所詮は数学とか論理学の世界にしか存在しそうにない概念だからな。だから、この建物にもきっと外側はあるのだろうという気がするよ。それとも、この建物が数学や論理学で出来ているとしたら限りがないという可能性もあるのかな?」と兄は言って首を傾げた。

目次(超短編小説)