休日にふらりと立ち寄った古道具屋で柔らか眼鏡という品物を見つけた。暇潰しとして使えると店主から勧められたので私はそれを購入してみた。
帰り道に早速その眼鏡を装着して街を歩いたのだが、すべての物体が建物も道路も悉く柔らかそうに見えるようになったと気が付いた。触り心地が良さそうだと思われるのだが、実際に指で壁などを押してみると堅いままなので失望を覚える羽目になった。
それで、私は触って質感を確認しようなどという考えは持たないでいようと思い、路上に突っ立ったまま周りの景色を眺めていた。私は柔らかな自動車や街路樹などを見物した。道路を行き交う人々の姿も柔らかそうだった。
頭上に視線を向けると太陽も柔らかそうだった。どうせ届くはずがないと承知しているので私は片手を思い切り伸ばした。すると、掌に当たる陽光の感触が期待通りに柔かいので嬉しくなった。私は両手を高く掲げ、しばらく陽光の柔らかさを感じていた。
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