やはり人々はトマトになったようだった。自宅からバスの停留所まで歩いてみたが、私は誰とも擦れ違わなかった。路上は閑散としていて自動車も走っていなかった。周りの家々の中に人間だったトマトが転がっているのかもしれないと思うと気味が悪くなった。
出社できそうにないと判断して私は自宅に引き返した。居間の照明を点けようとして停電になっていると気が付いた。実家で暮らしている家族の具合が心配になってきたので電話を掛けてみたのだが、誰も受話器を取らなかった。全人類がトマトになったのかもしれなかった。
胸が苦しくなってきたので私はソファに座り込んだ。人間になったトマトを冷蔵庫から出しておくべきだろうかと思案した。ひょっとしたら彼等が新しい文明の担い手になっていくかもしれなかった。それで、私は台所に行って冷蔵庫の扉を開けた。
トマトだった人間は身動き一つしていなかった。先程は目線があったような気がしたのだが、見間違いだったようだった。冷蔵庫から出してテーブルの上に置いてみたが、やはり座った姿勢のまま動き出さなかった。鼻を近付けるとトマトの匂いがした。私は食欲を刺激されたが、さすがに齧り付く気にはならなかった。
トマトになるシリーズ
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目次(超短編小説)