林檎ばかり描いていた | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 赤色の塗料が大量に手に入ったので私はしばらく林檎の絵ばかり描いていた。紙が高価で入手が困難なので自宅の壁や天井で代用していた。茶色の塗料が手元にないので茎の部分も赤色になっていた。

 壁や天井はすぐに赤色の林檎でびっしりと埋め尽くされた。もはや新たに林檎を描き加えられるだけの余白がないので私は筆を止めた。家中の林檎を数えてみようと一度だけ試みたのだが、気が遠くなってきたので半時間程で断念した。

 先日、市場で本物の林檎を見掛けた。じっくりと観察してみると表面は赤色だけが占めているわけではなく、他の様々な色彩がかなりの割合で混じっていると気付かされた。それに、茎の部分は茶色かった。自宅に帰ると壁の絵がすべて林檎には見えなくなっていると気が付いて衝撃を受けた。まるで魔法が解けたかのようだった。

 それ以来、私は林檎を描かなくなった。そして、壁や天井を赤色で塗り潰した。


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