「みなごろし」 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 このところ私は夜道を徘徊し、建物の外壁や公衆便所の個室などに落書きを施している。「みなごろし」という物騒な意味の文字を書き込んでいる。非合法の仕事なので誰にも見つからないように夜陰に紛れて密かに活動している。

 依頼主の正体は知らない。目的もわからない。好奇心が働かないわけではないのだが、余計な詮索は危険を伴うかもしれないので敢えて質問はしない。連絡方法は基本的にネットであり、一度も実際には顔を突き合わせていない。

 ある日、私は駅構内で「みなごろし」を発見する。他の誰かの手による落書きである。非常に目立つ場所に書かれているので数人の通行人が立ち止まって見入っている。大胆な真似をするものだ、と感心させられる。しかし、それ以上に私は初めて同業者が現れたという事実に対して強い衝撃を受ける。これで「みなごろし」という落書きが今までよりも注目されて警官達による取り締まりが格段に厳しくなるのではないかと心配になる。

 それから数日の間にさらに多数の「みなごろし」を発見する。社会現象にでもなったかのような増殖具合である。私はいよいよ身の危険を感じ取る。もし逮捕されたとしたら他の落書きも含めて全部の罪を被せられる羽目になるのではないかと心配する。制服姿の警官と擦れ違う度に心臓が高鳴る。ただ、他の誰かが先に捕まったとしたら逆に自分の罪を被せられるかもしれないとも思う。そろそろ引退するべきかもしれないと迷っている。

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