タクシーは空港を目指して夜の高速道路を走っていた。車体の内側が画面になっていて外側の景色が映し出されているので私の目には自分の身体と衣類と荷物だけが空中に浮遊しているかのように見えていた。座席も運転手もまったく見えていなかったのだった。
周囲の夜景が凄まじい速度で後方へと流れていた。上空を幾つもの飛行機が横切っていた。私は自分が超能力によって路上を滑空しているという妄想を弄んでいた。そして、もっと奔放な軌道を取ってみたいという衝動に駆られていた。月に向かって飛んでいきたかった。或いは、天空から夜の街を睥睨してみたいと望んでいた。
しかし、運転手がそれらの願望を察するわけもなく、私は自分が出した指示に従って空港へと運ばれていた。しだいに上空の飛行機が大きく見えるようになってきていた。
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