真冬に川沿いの道路を歩いていた。河原に生えている草木は大半が枯れていた。寒さが不快だったので私は両手をコートのポケットに入れたまま足を急がせていた。
そして、私は唐突に転倒した。腹や胸は分厚いコートで守られていたが、舗装された路面に顎を打ち付けた。ポケットに深々と両手を突っ込んでいたせいで充分な受け身を取れなかったのだった。
路上で倒れていると惨めな気分になってくるので私はすぐに立ち上がった。転倒した姿を誰かに目撃されたのではないかと気にしながら周りを見回したが、人影がなかったので胸を撫で下ろした。
顎が痛むので片手で撫でてみると指先に砂混じりの赤い血が付着した。少しも温かくなかった。そして、痛みもたちまち寒さに埋没して気にならなくなった。
私は衣服に付着した砂塵を払い落としてから再び川沿いの道路を歩き始めた。寒さが堪え難いので両手をコートのポケットに突っ込んだ。まるで何事も起こらなかったかのようだと感じた。
家に帰ってから洗面所の鏡で顎の様子を確認したが、傷は小さくて目立たなかった。既に出血も止まっていた。
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