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夜10時過ぎ、ついに父親が帰宅した。
純は帰宅してから父が食事を済ませただろう30分後に1階へ下りっていった。
居間につき、テレビを見ながらくつろいでいる父を見て、純ははがきをかざしながら単刀直入に質問を投げた。
「これはどういうことなんだ? いったい、何社から、どれくらいの借金しているんだ」
「もう、全部返し終わったからこんなもん関係ねぇよ!」
父は突然、すごい見幕で喚き散らす。父は眉間に皺をよせ、拳を握る。
そんな父の姿勢に対して、純は冷静にその場に座り込み、彼と同じ視線の高さに保つと、まっすぐで柔らかい眼で父を正視した。
「わかったから、すべて話してくれないか。もう無理しなくていいから、訳をちゃんと教えてほしい」
そう言い放った純の瞳はすべてを包みこむようなやさしいもので、青空のように澄み切っていた。父はその眼にみつめられただけ、もう隠し事はできないことを悟ると、腕を組み、目を伏せながら重たい口を開いた。
「お母さんもここに座ってくれないか。どこから話せばいいのだろうか。あれは純が大学に入った頃だったな、父さんの部下がミスを犯してしまってな。その責任を取って父さんも部長から降格したんだ。その後も周りからの嫌がらせは続いてな、会社の経営も傾いたこともあって、リストラの対象になってしまったんだよ。それでも、おまえたちに心配をかけたくなくて、会社をやめた後もいろいろなところからお金を借りて、毎月の給料分を銀行に振り込んでいたんだ」
母親はそのことを聞いて、何が起きたのか理解できないらしい。呆然と立ち尽くしている。
純は母親をとりあえず座らせた。純も正座に座り直し、膝に握りこぶしを置きながら静かに聞き返した。
「いったい、いくらの借金があるんだ?」
「わからない」
「それでオレの金が必要だったんだな。それで、質屋に入れたのはビデオカメラだけか」
父の眉がぴくりと動いた。わずかの間に静けさが訪れ、壁かけ時計の秒針音だけがカチ、カチと嫌に響き渡った。
父は口が渇いてきたのか、唾をごくりと飲み込むとふたたび語り出した。
「そこまで分かってるんだな、純は。ビデオカメラだけだ」
「わかった。とにかく借金の額を整理しないと。お母さん、もう今日は疲れただろう。片付けはオレがやるから寝ちゃいな。親父も明日から仕事に行くふりしなくていいからね。オレはもう明日から学校だから、ちょっと早めに寝るわ」
突然、理解を超える現実に出会うと、人は思考回路がストップしてしまうのであろう。何も考えることができずに、母親は呆然としている。顔に一切の力が入っていない。怒りや悲しみすらも感じられないらしい。
そんな母親を純は寝室に連れていき、父親は居間で寝るようにいうと自分も部屋に戻った。
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