「ほんと純がいて助かったよ」
匠が純に感謝した。
匠と麻紀、恵美子と純という組み合わせで座席に着いている。一般的に男同士、女同士で隣に座るものだが、どういうわけか純が入って来た時には、麻紀と匠はもうその位置にいたので、仕方なく恵美子の隣に座った。
「ったく、おまえらは基本的に人に頼り過ぎなんだよ! 重要な部分はほとんどオレじゃね~か。恵美子がオレを手伝ってくれなかったら、終わらなかったぞ、麻紀」
「だから、呼んだの。ありがとうね、恵美。助かったよ」
打ち上げは1時間も進むと次第にトークも白熱してくる。普段はお互い、他愛もない話をするだけで、突っ込んだ話はあまりしていない。こういう時だからこそ、面白い話ができるというものだ。
自分の身に危険を察知した純は、トイレに行くと言ってその場から去っていった。
その瞬間、にやりと匠は笑みを浮かべた。純が立ち去るとすぐに匠は恵美子に質問をぶつける。
「恵美子は純のこと、どう思ってるの?」
「うん、そうだね」
唐突に話題を振ってみるが恵美子は答えを濁す。その硬いガードを崩すため、匠は別方向から攻めることにした。何しろ純がトイレに行っている間に聞き出さなくてはならない。
「恵美子は浩二さんとちゃんと連絡を取ってんの?」
「篠崎さんの話、たしかに私も最近聞いてないわね」
彼氏である篠崎浩二のことは麻紀も気になっていたらしい。
しかし、彼女からは浮気されたという思わぬ返答が。
麻紀と匠は恵美子の彼氏が浮気した経緯に耳を傾けるしかなかった。
「なんかね、オーストラリアでたまたま一緒になった、日本人留学生の女の子がいるらしいの。向こうも彼氏がいるらしいんだけど、外国で日本語を使わないで会話しているでしょう。やっぱりお互いに日本語を話せるだけで落ち着くんだって。だから、何度も遊びに行ったらしいの。それでこないだお互いについ寂しくなって……。私が悪いのかな?」
「恵美子は悪くないだろう! 彼氏が悪い。」
いつからそこにいたのか、振り向くとそこに純が立っていた。
恵美子の瞳を見ると、目には涙がいっぱいで今にもこぼれ落ちそうな勢いである。彼女は懸命に力を入れて、なんとか涙が流れないように止めていた。もし、一滴でもこぼれたら、彼女の涙は止め処もなく流れ落ちるに違いない。
「だいたい、2年間も恵美子に待たせる約束をしておいて、自分から浮気するってありえないだろう。どういう神経しんてんだよ」
「そうだね。ごめんね、こんな話して」
はいはい、と純は言いながらすぅっと恵美子のそばに座り、彼女の頭をなでながら自分の肩へと引き寄せる。不思議といやらしさはなく、麻紀や匠もそれに対して冷やかすことができないほど、自然な動作であった。
恵美子も流れに従って、純に身体を預けていく。数秒の時間が流れた後、そっと純は彼女の身体を元の位置に戻した。
「すいませ~ん、ティラミスください」
純が突拍子もなくオーダーすると、すぐに店員は持ってきた。純は周りが唖然としていることに気がつかないのか、もくもくとそれを口に運び始めた。
「まったく、おまえは何でそんなもん注文すんだか。顔に似合わず、甘いもん好きだよな」
と、すかさず匠がツッコミを入れ、笑いが起きる。そのおかげで辺りの陰気な雰囲気が一掃された。
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