僕達は彼に上告するように薦めた。
それが最良の方法だと。
彼はかつて凶悪犯罪で女性を殺した死刑囚だ。
幼少より貧困に喘ぎ虐待に遭い世間にそっぽを向かれ、
それでも強く生きてきた彼だが、
世間への怒り、熱い衝動を抑えきれなかったのだ。
その熱い情熱と公開を裁判官に訴えるべきだと
僕たちは説いた。
しかし彼は静かにうつむいた。
「もう仕方ない。どんな罰でも法に従って受けます」
静かに笑い、面会時間がすぎると去っていった。
彼の寂しそうな小さな背中を見て僕の心は涙に濡れた。
僕の知る限り、彼はたった一人、たった一人しか人を殺していないのだ。