御伽噺にないキスを私にして | 自家中毒

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こんにちは
当ブログは挨拶を1年半あまり忘れる人間による妄想ブログです
(二次創作を含みます 作者さま・出版社さまにはかかわっていたらとても書けないようなブツが並びます)

ピコさん宅の「Please kiss me ~◯◯なキスを私にして~」企画に参加させていただきたく投稿しました。
珍しく王道なの降りてきた!と私的には思うのですが、どうでしょう?
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――俺は君を置いていかないよ。
 彼はついに母国でのオファーを手にしたことを報せた二言目にそう言ってくれた。
 そして、離れていても挫けない魔法を毎朝かけてくれる。


【御伽噺にないキスを私にして】


「おはよう、キョーコ」

「おはようございます、敦賀さん」

 画面ごしに微笑む彼がいた。真昼の強い日差しの青色に、まるで工事現場みたいな強い調子の声が割り込んできた。彼がこの国から遠く離れたところにいるのを実感させるものたち。彼はそれらに馴染んでいて、やっぱりその地はあの人の本当にいるべきところなんだと思う。

 私は昨日からドラマの撮影で長崎に来ている。他の出演者さんと相部屋だから、敦賀蓮のイメージとかけ離れたところをみせることはできなくて、いつもみたいに話すことはできない。


「和服も似合うね」

 今回泊まっているのは純和風の旅館で、室内着には浴衣が用意されていた。でも、ただ用意されてたんじゃなくて都会の運動公園級のときめきポイントがあった。
(※ちっぽけな緑だけど森っぽさがあるのでキョーコさん的にはちょいときめき)

 彼が浴衣のことを口にしたから、私は一気に昨日のときめきを思い出してテンションが上昇した。

「浴衣が色々あって帯も色々選べたんです! 昨日はそれですごく迷っちゃいました!」

「よかったね その帯の結びかたも薔薇の花みたいで綺麗だね 色といい、まるでクィーンローザみたいだ」

「そうなんです!浴衣も可愛い柄がたくさんあって迷ったんですけど、この帯ならクィーンローザっぽくなるかなって!」

 浅葱地の流水紋を発見したら、もうこれしかないって思ったのよね。

「うん 湖畔に佇むクィーンローザのお姫様にみえるよ キョーコにとても似合ってる」

「!!!」

 見馴れてきても目が焼かれそうな神々スマイルだけど、プリンセス気分に浸りたいという一番の動機をさらりと言い当てられたダメージのほうが大きかった。
 恥ずかしい!私がプリンセスローザなんて身のほど知らずなのは分かってるから、秘密にしておきたかったのに!

 彼にはこんな風に色々と見破られてばかりで、恥ずかしい。私のことを理解してくれてるって面ばゆくもあるけど、その10倍は恥ずかしくてそんな感動も吹っ飛んでしまう。

「こうやって赤くなって縮こまるところも、可愛い」

「からかわないで! いじめっこ!女たらし!!」

 私が薄情なんじゃないはず。だって、この人、口では否定するけど、絶対に私を恥ずかしさに悶えさせて楽しんでるんだもの。


「ごめん もう、時間だ」

「うん」

 いけない。結局、今日も私の話だけで終わってしまったわ。コーンがどう過ごしてるか訊こうと思ってたのに。


「また、明日ね」

 唇に手を宛がってその指を差し出す。いわゆる投げキスだけど、チャラ男にみえそうなポーズでも、この人がすると優雅で艶かしくて…何度されてもめまいがしそうになる。

 男の人なのに、この色気は何事なのかしら。


「キョーコはしてくれないの?」

「他に人もいるのにそれはちょっと…」

 電波ごしとはいえ、人前で間接キスなんてはしたないもの。
 ふと、人の気配がするほうに目を向けたら、同室の女優さんが真っ赤になって硬直していた。少しでも身近に感じたくてタブレット端末でのテレビ電話にしているから、少し離れていても覗き見できるみたい。

「もう公にしてるんだから、少しの戯れは黙認してくれるよ」

「貴方の戯れは重すぎなんですっ!」

 慣れていない女性が身近で喰らったら、流れ弾でもこのざまじゃない。

「じゃあ、愛してるだけでもいいよ …だめ?」

「う、ぁ…あああ、エル.オー.ブイ.イーしてます! また明日!」

 これ以上の何らかのプレイを要求される前に急いで通話を終了した。


 ※

「キョーコがお世話になっています」

 敦賀蓮の女性人気を舐めていたわ。周りに誰もいないのを確認してこっそり通話するべきだったのよね。
 日本での露出がモデル業だけになっているだけに皆さんその姿を見たいと思っていたようで、初日は同室の人だけだったのが、1人増え、3人増え、ロケ4日目の今日は女性メンバーの半数以上が集まる事態になった。


 でも、彼が周りの人への挨拶から切り出したおかげで、ずっと気になっていたことを訊ねられた。

「お食事はちゃんととっているんですか?」

「うん 体型が変わらないようにって専門のスタッフをつけられたよ」

「そうですか」

 それなら安心ね。

「正直、演じることよりそっちが大変だよ 軽いものでってリクエストしたら顔くらいある皿にオートミールが出てくるんだ」

 母国で食べ慣れてるはずなのに、心底うんざりしているのがちょっぴり可笑しい。舌はすっかり日本びいきみたい。

「じゃあ、お帰りになられたらあっさりとしたものにしますね」

 専門家には敵わないけど、コーン好みの栄養バランスもいいごはんを作ろう。

「だしの効いた和食がいいな 食べるとキョーコの作ったのが余計恋しくなるから、食べてないんだ」

「敦賀さん?」

「いや、他のはちゃんと食べているよ 例のスタッフも監視してるから」

 本当に大丈夫なのかしら。ただでさえ、食欲中枢が壊れてるのにそんな生活してたら、また食への興味が無くなっちゃうんじゃないかしら。

「帰ったら、キョーコのみそ汁が飲みたいな」
(↑すっかりと餌づけされたご様子)

「はい お野菜たっぷりのおみそ汁作りますから、食べる楽しみを思い出してくださいね」

「よろしくお願いします じゃあ、またね 愛してるよ」

「はい 私も…あ、あい…」

 うう。周りの言ってあげなよって視線が痛い。

「ん?」

「愛してますっ!」

「うん」

 画面ごしでも浄化されそうな笑顔を放出しながら通話が切れた。


 観衆の女性達は敦賀さんの甘やか笑顔の余韻に浸っていた。

「はあああ 完璧だわ 王子様は実在したのね」

「超イケメンで、仕事でも大成功してて、そのうえカノジョ一筋で……京子さん、羨ましすぎる!」


 違うのよね。

 今日も温厚紳士な敦賀蓮だった。人の目があるから仕方ないんだけど。

 私が恥ずかしがっただけでおざなりな愛の言葉ひとつで済ませてくれる人じゃない。
 素のあの人だったら、ちゃんと心を込めて愛してるって言わないと拗ねるはずだもの。
 実際に、渡米してから数日は私が投げキスを返すまで通話を終らせないって脅してきたわ。

 仕事に厳しいあの人が、私に寂しい思いをさせないように、私の入りに合わせてのモーニングコールをオファーを受ける条件にしてくれた。
 それがどれだけ私を想ってくれてのことか分かっているはずなのに。

 やっぱり、画面ごしのキスじゃ足りない。
 頼もしいぬくもりも、コロンのにおいも、液晶画面からは感じられない。

 元気が出ないなんて言って子犬顔で私からのをねだるように浴びせてくるキス。
 ちょっとしたことでヤキモチを焼いて大魔王顔でしてくる強引なキス。
 自分に都合の悪いことを夜の帝王顔で迫ってうやむやにしようとする狡いキス。

 そんな困ったキスたちでさえ恋しい。


 ※

 撮影が早めに終わった。夕暮れ前には東京に着くから空いた時間に仕事を入れてもらおうとしたのだけれど、優秀なるマネージャー様にそんな状態で無理に仕事しないで休みなさいと言われてしまった。

 マンションに帰ると、ふたりでだって広すぎる部屋に夕陽が射し込んでいた。4日間誰も過ごすことのなかったせいで、そこからは人の気配も途絶えてしまっていた。

(そうだ、リラックスモードのコーン人形!)

 黒髪碧眼の人形に彼のコロンを拝借して纏わせた。
 いじめっこで、天然たらしで、でも、誰よりも私を愛してくれている人。


 人形を手にお帰りの挨拶を辿った。

 彼が額から頬に擦り寄るようなキスをする。そして、私の唇を啄む。私がキスを返すのを彼は少し悪い顔で待っていて――


「違う…」

 大きさどころか、コロンのにおいさえあの人の纏うものとわずかに違った。
 妄想は得意なはずなのに、このときは頭に詳細に浮かぶ光景を再現することができなかった。
 うっかり泣いてしまいそうになった瞬間、すっかり聞き慣れた着信音を耳が拾った。


「コーンっ!」

 目もとに滲んだ水滴も拭かずに通話を求めて指を動かした。

「やあ、キョーコ 半日ぶりだね」

「うんっ!」

 画面ごしだけど、コーンに会えた。さっきまで感じていた寂しさが嘘のように消えていった。


「明日の夜、日本に着くよ」

「本当!?」

「うん 今日中に俺の撮影が終わるか微妙だったし、周りに人もいたから、朝には言えなかったんだけど、もうチケットもとってあるから」

「飛行機ってことは、100%コーンの姿よね?」

「うん そうだけどそれがどうかしたの?」

「空港で待ってて 迎えに行くわ! 私も早く終わったから明日はオフなの」

 オフの日が重なるなんて、なんて運がいいの!
 単純なことに、沈みかけていたところから、空も飛べそうなくらいに浮上した。

 コーンを迎える準備と妄想で、その夜は眠れなかった。朝の彼からのコールで我に帰って急いでベッドに潜り込んだけど、なかなか寝付けなかった。


 ※

 彼の代わりに運転するのもすっかり慣れた車で空港に向かう。

「帰りは貴方のご主人様が運転してくれるからね~」

 鼻歌混じりに車に語りかけたりもして。


 長い手足の常人離れした体格。光輝く金の髪。サングラスで顔を隠していても、コーンはすごく人目を引くからすぐ見つけられる。

 駆け寄って声をかけようとする前に、目が合って、
「キョーコ!会いたかった!」
 間に人もいっぱいいたのに、いつの間にか彼がサングラスごしの瞳まで見透かせそうなほど近くにいた。


 まるで高い高いをするように軽々と抱き上げられる。
 押し付けられ、吸い付かれ、口を塞がれたものだから何も言えやしない。
 口から離れたと思えば、キスをスタンプを捺すみたいに浴びせかけられる。

 再び私の唇にキスが落ちる。上唇を挟みこんで柔らかく食んでくる動き。思わず弛んでしまった唇に彼が侵入りこもうとする。

(コーンったら、変わってないんだから――)

 長くロケで会えなかったときによくされるキス。
 私に侵入りこんで、唾液が交じるまでに馴染ませて、痺れを覚えるまでになかを食んで、そして、私がまともに立てなくなったところで抱きかかえてベッドへ進む。
 まるでフルコースみたいに続くキス。

 久しぶりの感触。懐かしさで胸がきゅっとなる。頭がふわふわとろとろするのも、悔しいといつもは頭の隅で思うけど、今はただ心地いい。


 だけど、口蓋を舌がなぞりだしたところで重大事実を思い出した。

(待って、ここは空港!)

 慌てて胸を叩いてストップをかける。それで、彼はしまったという表情になって、注目されてしまった場から優雅歩行で離れた後、私を努めて優しく降ろした。


「ただいま さっきはごめん キョーコがいるって思ったら、つい、理性の紐がプッツリ切れて これから埋め合わせするから、許して?」

 大きな体躯が小さくみえるしょんぼり顔。役では求められたことのない彼の一面。
 画面ごしじゃなくて、本当にコーンがいる。

「怒ってないわ 観客には見せられない貴方が恋しかったの」

 恥ずかしくて叫びだしたい気分ではあるけれども。


「今日は近くで泊まろう」

 いきなり真顔になったと思ったら、彼はこんなことを言って駐車場とは違う方に向かう。

「えっ せっかく、おみそ汁作っておいたのに」

 そして、なぜ手も繋がず腕組み高速歩行なの?

「こっちはキョーコ欠乏症状がでるほどなのに、こんな可愛い表情にこんな可愛い言葉で煽るのが悪いんだよ あと1時間以上ハグ禁止なんて拷問」

 こういうところ、懲りない人よね。暴走の罰として、さんざんお預けとかもしているのに。
 本当に仕方のない人なんだから。

 しっかり組まれた腕を握る。

「お部屋に入るまでは"敦賀蓮"でも憑けておいてくださいよ?」



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最近、子供を膝だっこしてあやすつもりが、うとうとしています(´Д`;)
子供は柔らかいわ温かいわで、だっこ中はすぐ眠気虫にやられます。

脳も肉体もだらけてヤバイことになっています( ´•ω•` )