⑬大阪弁護士会
大阪弁護士会は、大阪市北区西天満、大阪地方裁判所の通りを隔てて隣だった。中之島に面した新しい建物は、東西に長い薄っぺらい思ったよりも立派なビルだった。建物に入るとすぐに受け付けカウンターが目に入り、そこで案内を受けて弁護士紹介のカウンターへ向かった。簡単な相談内容を記載し、順番を待った。
別の窓口では大声で怒鳴っている中年の男性がいた。
「なんで紹介できんのや!宣伝してるやないか、紹介するて。前に紹介された弁護士はかすや。嘘ばっかりついて、仕事せんからクビや。別の弁護士紹介しろ。そやから言うとるんや、今まで紹介された弁護士は3人ともクビや。人の話聞こうとせんし、依頼人を信用せえへん。・・・・」
職員らしき男性が二人がかりで、別室にその男性を連れて行った。
⑭法律事務所
二人は弁護士会で紹介を受けた弁護士事務所を訪ねた。
憲一も和子も,期待と緊張で血の気が引くような思いでドアをノックした。
「どうぞ」
女性の柔らかい声に促され、ドアを開けるとカウンターの向こうでにこやかな若い女性が迎えてくれた。
弁護士会からの紹介である旨告げると、すぐに奧の部屋に案内された。
部屋に入ってきた弁護士は30代前半、憲一よりも和子よりも若かった。若ければ悪い、とは思わないが、未熟すぎるのでは、という不安が憲一によぎった。その一方で弁護士には若々しいすがすがしさや清潔感、誠実さがひしひしと感じられた。
「縫合不全から感染症になって亡くなるとは・・・・まだ高校生なのに,許せないですね。医療過誤訴訟を考えておられるのですね。」
「そうなんです。お願いします。」と和子がはっきりとした声で訴えた。
憲一が尋ねた。
「失礼ですが先生は、今までに医療過誤訴訟の経験はどれくらいおありでしょうか、その・・・・実績というか」
「これといった実績はまだありません。これから頑張りたいと思います。」
・・・・
「先生申し訳ないですが、今日のところは留保させて下さい。他の先生の意見も聞いた上で先生にお願いするかどうかを決めさせて下さい。」
「わかりました。今日のところはご相談料は結構です。」
「そんなわけにはいきませんので」
「そうですか、では5000円と消費税を相談料で頂きます。」
憲一と和子は法律事務所を後にした。
和子にも、憲一の言わんとするところは理解できた。陽子の事件を託するには余りに未熟に思えた。
別の弁護士にも当たってみよう、それが二人の一致した意見だった。