原作は深町秋生の『果てしなき渇き』


果てしなき渇き (宝島社文庫)/深町 秋生
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お話は2012年夏。


主人公は元刑事の藤島昭和。


彼は精神を病んだことにより刑事の職を辞し、現在は警備会社に勤務していた。


(その影響か?)非常に暴力的な性格の彼は、妻子とも別れ、


独り身の生活を送っていた。


そんな中、ある事件が起こる。


コンビニで3人の男女が身体を複数鋭利な刃物で刺され、


殺されるという事件。


不幸にもその第一発見者となった彼は、


その激しい性格から同時に重要参考人にもなってしまう。


そんなある日、別れた妻である桐子から一本の電話が入る。



「娘の加奈子の行方が分からなくなった。」



桐子は、昭和が連れ去ったと思い込み彼へ電話を掛けたのだが、


身に覚えのない昭和は、その旨を桐子に告げる。


その後昭和は、桐子と加奈子が暮らすマンションに出向き、


加奈子の鞄から『あるもの』を発見する。


『あるもの』を手掛かりに昭和は、娘の現在の友人や過去の友人に会い、


加奈子の行先の手掛かりを掴もうとする。


しかし、話を聞けば聞くほど、自分の娘の事がどんどん分からなくなっていく。


容姿端麗で品行方正な性格だったと聞けば、


自由奔放な行動で、気味悪がられていたとも聞く。


学校で問題児とされている生徒たちとも交友があったと聞けば、


時には学校でいじめられている生徒とも交友があったとも聞く。


自分の娘が自分の知らない顔を持っている事に昭和は恐怖を覚えながらも、


加奈子の足取りを追っていく。


そんな中、彼が第一発見者となった事件もリンクし、


物語は衝撃的な展開を迎えていく。


加奈子は一体何処にいるのか?



というのがこの物語のあらすじです。



監督は『下妻物語』や『告白』の中島哲也監督。


この人の作品は何気に全部劇場で見てると今気付きました。


元々、コミカルさを出しながらリアルに映像化するのが上手な方ですが、


この作品はバイオレンスとポップさのバランスが絶妙でした。


いい意味でのギャップがあって、長時間続くと正直辛いだろう


バイオレンスなシーンを見易くしてくれていたと思います。


個人的に三谷幸喜と並ぶ日本で好きな映画監督です。




この映画を最後まで見て思ったのは、



「少女ってやっぱり美しい」



という事です。


ロリータコンプレックス的な意味ではなく、


その存在自体が美しいと改めて思いました。


自由奔放であり、蠱惑的。


その妖艶な魅力が男子を虜にしていく様は、


男子って馬鹿だなー。と痛感する一方で、


少女とは多くの人が求める『何か』になれる、もしくは『されてしまう』存在なのだと思いました。


脆いが故の鋭さ、未完成故の美しさ。


まぁ、男子の求める少女の一つの理想形が加奈子という登場人物に集約されている。


その危うい美しさとグロテスクな暴力が溶け合い、


この物語は成立している。


21世紀版ナボコフの『ロリータ』を思わせる作品でした。


多分、この作品を映像化するとなったら中島監督に白羽の矢が立ったのは至極当然だし、

中島監督でなければならなかっただろうな。



あと、人と人との希薄性っていうのも思い知らされました。


例え15年間同じ屋根の下で暮らしていても、


自分が育て上げた娘であっても、


その人の本質というものは『知りたい』という強い欲求が無ければ知りえないのだ。


人は外見や行動で幾らでも他人を偽ることが出来る。


そして、人は本来の自分とは違う印象を他人に植え付けたうえで、


日々の生活を送っているのだと思いました。


品行方正や容姿端麗というものの裏に隠れる闇。


そこを知る事こそが他人を理解するという事である。


そんな事を思い知らされた作品でもありました。




この作品は、見る人によって大きくその評価が分かれる作品だと思います。


見てスッキリ!っていう映画ではない。


一般的なカップルが見て面白いと思える映画ではない事だけは確かです。


カップルで行って、これ見た後盛り上がれるカップルは限られる。


お互いにサブカル好き同士じゃないと盛り上がるのは難しいのではないでしょうか?


リア充は『アナ雪』見た方が確実だとは断言しよう!




というのも、万人が見て面白いと思える映画だとは思わない。


実際、劇場で見終わった人が口にしている言葉に耳を傾けてみると、


「よく分からなかった」とか「暴力シーンがエグかった」…


という意見が結構多かった。


個人の創造力や美意識に任せる部分が多く残されているのが意見の分かれる原因だと思う。


実際、ラストは非常に中途半端な所で終わります。


ハッピーエンドともバッドエンドとも取れる。


個人的には見た人同士で語り合いたくなる映画だなと思います。


そして、熱く語り合えるようだったら確実に友達になれる気がする。


僕は見て物凄く面白かったです。



あと、オマケ要素としてはでんぱ組.incの『でんでんぱっしょん』の使い方がピッタリ過ぎて楽しかった。


思わず流れた時は口ずさんでしまったよ…