オラ!マナです。
現在チリの首都サンチャゴ滞在中です!
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<1月16日 スクレ~ポトシ@ボリビア>
朝7時、
マナ、リュータさん、トモさん、コースケ、しぶけんの5人パーティは、
スクレのバスターミナルにいた。
これからあの、世界最高峰にある都市ポトシを経由して、塩湖のあるウユニという町に行くためだ。
スクレからポトシに向かうバスでの注意事項はひとつ。
「眠ってはいけない。」
ということ。
ここから1500mくらい、一気に標高が上がる。
ここで眠ってしまっては、高山病が発症する可能性がぐんと上がるのである。
(睡眠中は呼吸数が減る為、ただでさえ薄くなる酸素を満足に吸えなくなってしまう。)
幸い、スクレからポトシへのバス移動は、たったの3時間だ。
朝が早かった為、極度に眠たかったが、3時間くらいなら耐えられるだろう。
若干の不安と緊張を抱えつつも、5人はポトシ行きのバスに乗り込んだ。
いつもなら、貴重品の入ったリュックは、足元に置く。
しかし今回、私とコースケが座る座席の下が、なぜか、水で濡れていた。
私は買ったばかりのリュックだし、ちょっとここに置く事に気がひけた。
そして、上の棚にリュックを置いた。
自分の席より少し前、見える所だ。
コースケは、その隣、私達の席の真上に。
たった3時間。
夜行バスでもない。絶対に眠らない。
一人じゃない。
油断した。まさか。
一睡もしていないのに?
これだけ周りに人がいるのに?
「リュックがない!!!」
ポトシ到着直後、コースケの声がバス内に響いた。
まさか。
コースケの顔色がみるみる変わっていく。
棚の上を隅まで探す。
乗客全員のバッグの中身もチェックし、
膝をついて、足元まで隈なく探した。
それでもバスの中から、コースケのリュックは出てこない。
コースケが混乱しているのが痛いほど伝わってくる。
ビリビリとした空気が充満する。
「中に何が入ってたの!?」
「・・・・・全部!!!」
ipad、一眼レフ、現金、パスポート、クレジットカード・・・
旅中に失っては困るもの。
全てだった。
どこで持って行かれたのか?
思い返す。
考えられるのは一箇所。
ポトシに到着して、このターミナルに着くまでに一度だけ止まった場所がある。
とあるガソリンスタンドの前で、10人くらいの乗客が降りて行った。
そこでやられたとしか思えない。
乗客全員が、バスを降りて散り散りに町へ消えていく。
コースケは、とにかく問題のガソリンスタンドへ、タクシーを飛ばして行くという。
混乱して、もう、ほとんど叫んでいる。
私達4人も、頭が回っていなかった。
慌てるコースケに、この後どうやって動いたらいいかアドバイスをする。
お金を渡す。
たったこれだけのことしかしてあげられなかった。
あっと言う間に、コースケを乗せたタクシーは走り去って行った。
暗い沈黙。
あと1時間後にここからウユニへ向かうバスのチケットを持っていた。
コースケももちろん持っている。
コースケが、もしかしたらその時間までに、ここへ戻ってくるかもしれない。
残った4人は、とにかくその場で待った。
太陽が、近い。
ギラギラと容赦なく照り付ける直射日光、帽子がないと今にもぶっ倒れそうなくらいだ。
人も車も、とにかく往来が激しい。
排気ガスと砂埃で満ちた路肩に、座り込んだ。
人の声が、バカみたいに五月蝿くて、耳に障る。
だんだんと、冷静になってきた。
あの、コースケが、冷静になってものを考えられるようになるまで、一体どれくらいの時間がかかるだろう?
焦って叫ぶ、コースケの顔が浮かんだ。
・・・・・・・。
なんで、一人で行かせたんだ?
私は、馬鹿か?
分かってるハズじゃないか。
盗難に遭った直後、どんな風に精神が壊れていくか。
容赦なく襲ってくる疑心難儀。
目に映る人間、誰一人として信用できなくなる。
冷静な判断なんて何一つ出来ない。
良かれと思ってやった行動、全てが裏目にでる。
ひたすらに考えることと言えば、
なぜ回避出来なかったのか、
あの時こうしていれば、もっと注意していれば、ああしていれば・・・・
自分の行動ひとつひとつを、責めて、責めて、責め抜くこと。
そして、
恐怖、不安、緊張。
頭ん中、ぐちゃぐちゃに掻き乱されるんだ。
全部、経験したことだろう。
ギリシャのアテネで、強盗に遭って。
私はあれから何一つ、学んでいなかったの?
自分が、本当に情けなくて情けなくて、悔しくて。
コースケの気持ちを考えると、辛くて堪らなくて。
訳の分からない涙が、目の淵に溜まって来た。
何とかしたい。何とかしてあげたい。
私に出来ることはなにもないのか?
必至になって、あの時の自分の気持ちを思い出す。
心臓がバクバクしてきた。
あの時は、一人で外を歩くのも怖かったし、
見知らぬ土地で、信じられる人が誰一人いないということが、とても辛かったんだ。
恐いんだ。
不安なんだ。
自分を責めるんだ。
ただ、
誰か、信用できる誰かに、一緒に居て欲しかったんだ。
私が強盗に遭った次の日に、
旅仲間のジュンさんが来てくれたことを思い出す。
どれだけ安心したか。
ただ一緒に歩いてくれる、一緒にご飯食べてくれる、話を聞いてくれる。
それだけで、随分気持ちが落ち着いたんだ。
私は彼が居なかったら、アテネから抜け出せていなかったかもしれなかった。
「私、もしコースケがここに戻って来なかったら、ポトシに残るわ。」
決断した。
辛いときに一緒に居てあげるのが、友達でしょう?
残った4人、全員の意見が一致した。
1時間後、ウユニ行きのバスが来た。
コースケは、結局戻っては来なかった。
私達は、バスチケットを捨てた。
二手に分かれる。
ケータイもない見知らぬ土地でまた5人が再会する為、
リュータさん・トモさんは、この場に留まる。
私としぶけんはタクシーを拾い、コースケを探しに行く。
まずは警察署だ。
おそらくガソリンスタンドでは見つからなかったはず。
その後に行くとすれば、警察しかない。
もしこの1時間で警察を出ていたとしても、
その後の足取りの手掛かりくらいは残しているはずだ。
警察署に到着。
外観は、ここで本当に合ってるのか?というボロさだ。
中で暇そうにしている警察官に、日本人の男の子を知らないかと聞くが、スペイン語が分からない。
警察官もポカンとしている。
しぶけんが何とかそいつらと喋っているうちに、
私は走り回って、目に付く部屋全ての扉を開け、コースケの名を叫んだ。
扉を開けたら修羅場真っ最中という場面にも出くわしたが、
そんなのに構っている余裕もない。
とにかくコースケと叫ぶ。
しぶけんも自分で探し出した。
しかしこれでは埒があかない。
もう一度冷静になって、スペイン語の単語帳を開き、
さっきのポカン警察官に問う。
「日本人の男の子、友達」「今日」「黒、かばん」「盗まれた」「ここ」「来た?」
やっと通じたらしい。
奥の部屋に案内される。
ひどく落ち込んだ後ろ姿が見えた。
机に向かい、頭を抱えている。
・・・間違いなくコースケだ!
とりあえず話を聞く。
今は盗難証明書を作ってもらっている所らしい。
「俺、もう、すぐに日本帰るわ。」
コースケが言った。
そういう気持ちになるのは当然だろう。
私だって、カメラとiphone盗られただけで、帰りたくなったもの。
「そっか。」
沈黙気味な会話だった。
何を言ったらいいか分からない、というよりも、
こういう時の浅い慰めの言葉なんか、頭に入らないものだから。
黙って一緒にいてあげることの方が重要だと思った。
ただひとつ、水を飲むことだけは勧めた。
仮にも、ここは高山都市。
この状況で高山病にでもなったら、目も当てられない。
私がここでしてあげられたことなんて、これくらいだ。
警察での手続きが済んだ後は、
コースケを連れて、リュータさん・トモさんが待つ場所へ戻り、合流。
みんなで一緒にご飯を食べる。
コースケは、今日はポトシに一泊し、明日すぐに、首都ラパスへ向かうという。
そして大使館でパスポートを再発行して貰って、帰国という道を選んだ。
私達4人は、今日の夜の便で、ウユニへ向かうことにした。
コースケがこの町を出るまで一緒に居る事も出来たが、
“自分のせいで他の4人を足止めさせてしまった”なんて、コースケが自分を責めてしまいそうだったので。
お別れの時、彼はずっと、「ありがとう」と「ごめん」を繰り返していた。
その姿が、痛々しく、見ていられなかった。
こうして、
仲間が一人減ってしまった一行は、夜7時、ポトシを後にした。
ポトシの街。
後ろに聳える銀山で発展した、鉱山都市だ。
山に同化するようにへばり付く町並み。
町の雰囲気は良かっただけに、残念だ。
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夜、10時頃だったか。
ポトシを出発したバスは、うねうねと急カーブを繰り返す山道を走っていた。
ウユニまでの道のりは、平均標高4800m。
ポトシの標高を裕に超える。
バスの中の4人には、まだ暗い沈黙が落ちていた。
クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、そしてパラグアイ、ボリビア・・・
何度も一緒に行動を共にした仲間の、旅の終わり。
残念な気持ちでいっぱいだった。
5人揃って、ウユニ塩湖に行きたかった。
とても、残念だ。
それは、みんな同じ気持ちだろう。
山道の酷さも、標高も、きっとピークに差し掛かった頃。
5000mを超えたのだろうか。
周りの乗客の何人かが、嘔吐を繰り返している。
急に、おかしな耳鳴りが来た。
キィィィイーーーン
その音はどんどん大きくなり、次第に強烈な頭痛へと変わっていく。
ズンと、いきなり、何かで頭を割られるかのような痛みが走ったかと思えば、
全身が痺れだし、呼吸器が痛くなり、満足に息が出来なくなる。
油断した。やられた。
呼吸が出来ない。苦しい。
肺の動きが、荒く、短く、早くなる。
もうてっきり、高地順応したと、思い込んでいた。
皮膚の下で、無数の虫達が蠢いているかのような、気持ちの悪い手足の痺れ。
頭が割れそう。
そして次の瞬間には、強烈な嘔吐感。
こんなにいきなり、来るものなのか。
こんなにも、苦しいものなのか。
アンデス山脈、標高5000m付近のバスの中。
マナ、高山病発症。
負の連鎖は止まらない。