Kenny Rankin / A Song For You | WONDERFUL ROCK

Kenny Rankin / A Song For You

text by kazgadd

情報に疎いというのは、まったく困ったものです。

ケニー・ランキンが今年の6月7日に肺癌で亡くなっていたそうですね。
1940年2月生まれですから、享年69歳でした。

デビューは意外と早く、ファースト・アルバムをリリースしたのが1967年。それから40年あまり、息の長い活動を続けてきましたが、残したアルバムは(ベスト盤をふくめて)15枚ですから、決して多作の人ではありません。

2002年に発表したこのアルバムが遺作となるのでしょうか。

ア・ソング・フォー・ユーア・ソング・フォー・ユー
ケニー・ランキン

ユニバーサル ミュージック クラシック
2002-08-07

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


彼の歌は「上手い」というよりも、マイケル・フランクスやジェフ・マルダーのように「味」と「センス」で勝負する、といった感じ。曲は十分おしゃれなんですが、気負いがなく、気取らず、あくまでも自然体のように感じられます。

歌唱力で勝負するでもなく、オリジナル曲の出来映えで勝負するでもないとなると、いったい何で勝負するのかということになりますが、これはもう「選曲」と「アレンジ」しかないでしょう。あとは「人柄」かな(笑)。

このアルバムは、トミー・リピューマとアル・シュミットの共同プロデュースで、なんとジャズの名門Verveから発売されています。アル・シュミットはもちろん録音とミキシングも担当していて、その献身的な役割に、ランキンから特に謝辞が述べられています。

もうひとり重要な役割を果たしているのが、ギターのディヴィッド・スピノザ。ライナー・ノーツによると、ランキンが鼻歌で「こんな感じ」とやったものを、スピノザがフォー・リズムの楽譜に仕上げたのだとか。律儀なことに、ちゃんと" Scored for quartet by David Spinozza" とクレジットもされています。

そのフォー・リズムは ───

David Spinozza  :  acoustic and electric guitar
Leon Pendarvis  :  keyboards
Christian McBride  :  bass
Lewis Nash  :  drums

このアルバムもオリジナルは1曲もなく、すべて他の人の手によるもの。セロニアス・モンクあり、レノン=マッカートニーあり、ガーシュインあり、そしてタイトル曲のレオン・ラッセルありというように、「名曲を歌いたいように歌いました、お好きな人はどうぞ」という感じ。だから、こちらも気負い無く聴けるのですね。

まずは〈'Round Midnight〉を聞いてみてください。言わずと知れたモンクの名曲ですが、こんなポップなアレンジも珍しい。スピノザのギターが心地よい仕上がりです。

続いては〈Then I'll Be Tired Of You〉。フル・アコのギターはラッセル・マローン。この人も「トミー・リピューマ銘柄」のギタリストですね。

そして、もう1曲。ガーシュインの〈Love Walked In〉。ウッド・ベースとのデュエットは十分おしゃれだけど、何よりも彼の温かい人柄の感じられる曲です。

本当なら、こんな真夏の暑い日ではなく、爽やかな風の吹く、秋の夜長にご紹介したかったアルバムです。
最後になってしまいましたが、ランキン氏のご冥福をお祈りしたいと思います。