【お薦めシングルレビュー 32】 “女ごころと秋の空”を巧みに融合した傑作アイドルポップス! | 歌謡曲(J-POP)のススメ

歌謡曲(J-POP)のススメ

音楽といっても数々あれど、歌謡曲ほど誰もが楽しめるジャンルは恐らく他にありません。このブログでは主に、歌謡曲最盛期と言われる70~80年代の作品紹介を通じて、その楽しさ・素晴らしさを少しでも伝えられればと思っています。リアルタイムで知らない若い世代の方もぜひ!

 週末、近畿地方に大きな被害をもたらした台風もようやく本州を抜けて、今日の東京は気持ちの良い秋晴れが空いっぱいに広がりました。台風が来るのはできれば私も御免被りたいモノですが、それだけに、その後に訪れる「台風一過」の爽快感というのは、また格別なものがありますよね

 今回は、ほとんど
季節感に無頓着なこのブログにしては珍しく、タイムリーな作品を取り上げることにします。これですよ~(


「乙女日和」(水谷麻里)
作詞:松本隆、作曲:筒美京平、編曲:武部聡志

[1986.9.25発売; オリコン最高位9位; 売り上げ枚数4.8万枚]
[歌手メジャー度★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★★]





 水谷麻里は、「’86ミスヘアコロン・イメージガール・コンテスト」で、およそ54,000人の中からグランプリに輝いたことがきっかけで、1986年3月21日に「21世紀まで愛して」でソロデビューしました。このコンテストには他にも、酒井法子畠田理恵(将棋の羽生善治さんの奥さんですな)が最終選考まで残って、結局、酒井サンがBOMB賞(←実は、これは“後付け”の賞だったんですけどネ)を、畠田サンがMomoco賞をそれぞれ獲得して、2人とも1987年にソロデビューを果たして歌手として活躍しました。でも実は、今もってなお現役バリバリなのは、準グランプリを獲得してソロデビューしながら当時はさっぱり鳴かず飛ばずだった岡寛恵(デビュー時の芸名は岡谷章子今では洋画&海外ドラマの吹き替えで大活躍)くらいなわけで、いやはや人生というのはつくづく分からないものです・・・

 ちなみに私は当時、大学1年生。例の“歌謡研”にどっぷり浸かっていた時期であり、このコンテストを主催したサンミュージックの特別な計らいもあって、最終選考に残ったメンバー(12人くらいいたかなぁ)に関する意見交換会(・・・というと聞こえはいいけど、要するに学生による“品定め”)をさせて戴きました。もちろん事務所としては、将来レコードを買う層(=学生連中)の反応を合わせ見て、最終判断をしたいという思惑があったんだと思います。 で、私はっつーと、下馬評で上位に来そうだった酒井法子水谷葉子(麻里の本名)、畠田理恵城山美佳子(1987年にアイドルデュオ“パンプキン”としてデビュー)あたりは、私からすると“歌唱力にちっとばかし難アリ・・・”ってことで、最終選考に残った中ではダントツの歌唱力だった須藤和美(1989年に“須藤あきら”としてデビュー)と、その次に上手かった岡寛恵に高い得点を付けましたが、アイドルを選ぼうってのに、歌唱力を重視して点数を付けたサークルメンバーなんぞいるわけもなく、案の定、私の意見は完全スルーされましたとさ

 ま、そんなどーでもいい回顧話はさておき
水谷麻里の話に戻りましょう。とにかく彼女は、最初っからとっても変わったコでねぇ・・・。コンテストの自己アピールの場面で「カラスの鳴き声」を披露する(←しかも、特に上手くも何ともないという・・・)なんて、あたしゃ呆気にとられましたよ。・・・ひと言でいうと不思議ちゃん”ってことになるんでしょうか。変にガツガツしたところがないのは好感が持てるっちゃあ持てるんですが、「そんなんで芸能界の荒波を渡っていけるんかいな・・・」という疑問は拭えませんでしたね

 そんな私の心配が的中するように、彼女が芸能活動を休止したのはデビューからわずか2年後のこと
。1990年には、芸能活動中から交際が噂されていた漫画家の江口寿史と結婚することになりましたもともと江口寿史の描く女のコは彼女にそっくりでしたし、かたや彼女の方もデビュー前から江口画伯のマンガのファンだった・・・ということになれば、1987年の秋に雑誌の対談で出逢った時から、二人の行く末はすでに決まっていたと言えましょう。もともと芸能界に執着のなかった彼女だけに、そのままキッパリと芸能界から足を洗ったのはいかにも“彼女らしかった”なぁと感じたのは、きっと私だけではないはずです

 「乙女日和」は、そんな彼女のデビュー3作目シングルに当たります。デビュー曲「21世紀まで愛して」からこの「乙女日和」まで、3作連続で松本隆筒美京平コンビによる力の入った作品が並びましたが、この「乙女日和」は、その集大成と言っても良い(何と言っても、年末の賞レースを意識するワケですから
)、非常に正統派のアイドルポップスだと思います。

 まず、松本隆センセによる歌詞ですが、これがまた、恋する乙女の心の動きを、変わりやすい“秋の空”に喩えて、巧みに表現している
んですよね。乙女心が揺れ動く原因を、サビの一番最後にちゃんと配置して“オチ”を付けてある(←オッサンが野暮な説明するのは避けたいので、下の歌詞で各自確認して下さいね~ところも、まったく心憎い限りなのです


  ♪ あなたを知るたび 自分を忘れる
    そよ風に踊る 木の葉のように
    行き先の違う バスを待つ二人
    離れてる距離を 縮めないでね
    窓を流れる 涙の雲に
    ペンをひたして 別れの手紙
    乙女心は 晴れのち雨
    変わりやすくて 変わりやすくて ごめんなさい
    乙女心は 晴れのち雨
    そうよあなたが あなたが無理に キスしたせい
    Uh・・・ 乙女日和


  ♪ 友達のままで いられたらもっと
    長く続いたの もう戻れない
    青空を飛んだ 夢のあと不意に
    着陸をしたら 冷静になる
    ”サヨナラ”の文字 乱れてるのは
    バスに揺られて 綴ってるから
    乙女日和の 今日この頃
    笑顔泣き顔 そう愁い顔 もう分からない
    乙女日和は 摩訶不思議ね
    そうよあなたが あなたが無理に キスしたせい
    Uh・・・ 乙女心


 そして、筒美センセの紡ぎ出すメロディも、松本センセの“ワザあり歌詞”を、実にコクのある哀愁メロでガッチリと受けとめてます
メジャーコードを主にして、これにマイナーコードを絶妙な加減で取り混ぜながら曲を展開して揺れる乙女心を表現するテクニックは、まさに筒美京平センセの熟練のワザと言えましょう。中でも本作品のテーマが凝縮されているサビ部分 ♪ 乙女心は 晴れのち雨 変わりやすくて 変わりやすくて ごめんなさい~ あたりの切なく可愛らしいメロディラインに、筒美京平センセの焼き印がくっきりと押されているのが・・・あなたにもきっと見えるはずです



 ‘80年代は、’70年代に熟成されたアイドルポップスがいよいよ華やかに開花した時代でしたが、楽曲クオリティの高さは言うまでもなく、この「乙女日和」ほど、歌い手のキャライメージにもピッタリで、しかも季節感にあふれた作品は、あの頃を振り返ってもなかなかお目にかかれなかった
ように思います。そんなこんなで私は、この傑作が、今後も昭和時代における珠玉のアイドルポップスとして語り継がれるだろうことを確信しているのです

 それでは、今回はこんなところでオシマイ
。またお逢いしましょう~