さて、今回は、稲垣潤一の「夏のクラクション」でいってみましょう。 シングルレビューとしては、初の「アイドルではない男性アーティスト」ということになりますね。
「夏のクラクション」(稲垣潤一)
作詞:売野雅勇、作曲:筒美京平、編曲:井上鑑
[1983.7.21発売; オリコン最高位25位; 売り上げ枚数8.1万枚]
[歌手メジャー度★★★★★; 作品メジャー度★★★; オススメ度★★★★★]
稲垣潤一といえば、世間的には1992年にミリオンセラーとなった「クリスマスキャロルの頃には」の印象が強いかも知れませんが、実際に彼がデビューしたのはさらにその10年も前、シングル「雨のリグレット」でした。肝心の売り上げの方は今ひとつで、ブレイクは翌年の3枚目のシングル「ドラマティック・レイン」まで待つことになります。
今回ご紹介する「夏のクラクション」は通算5作目のシングルで、「ドラマティック・・・」が31.4万枚、4作目の「エスケイプ」も10.8万枚のヒットとなったので、個人的には「これは大ヒットなるか?」と期待していたんですがね。どういうわけか売れませんでした・・・。
1982年頃というのは、フォークソングがすでにかなり勢いを失って、アイドル歌謡が活気づいて来た時代に当たります。1980年代半ばには、フォーク・歌謡曲のいずれのカテゴリーにも入らない「ニューミュージック」と呼ばれるジャンルが台頭してくることになるのですが、
稲垣潤一はちょうどニューミュージックというジャンルに先鞭を着ける存在であったと言えます。
稲垣潤一の音楽は、その洗練された都会的なスタイルから、角松敏生や山本達彦と並んで、「シティー・ポップス」と呼ばれることもありましたが、これはどうなんでしょうかね。私に言わせると、哀愁漂う独特の雰囲気を醸し出す彼のヴォーカルは、角松敏生や山本達彦あたりと比べるとかなり日本的で泥臭い要素を色濃く感じさせるようなところがあって、これらをひと括りにするのはちょっと無理じゃないかと思うんですが・・・。
さて、稲垣潤一のヴォーカルの魅力を一言で言えば、「歌唱力うんぬんではなく、個性ある声質と雰囲気で聴かせる」点にある、ということになりましょうか。今回取り上げた「夏のクラクション」は、そんな彼のヴォーカルの魅力が最大限に発揮された作品です。
♪ 夏のクラクション Baby もう一度鳴らしてくれ In my heart
夏のクラクション あの日のように 聞かせてくれ
跡切(とぎ)れた夢を 揺り起こすように
ポイントはやはり、♪夏のぉぉぉぉ~ の歌い回しのところですね。ここは、「もうこの節回し以外はありえない!」と思わせてくれるほどの必然性と説得力があります。
そして、夏の終わりの切ない雰囲気をこれほど見事に表現した作品はおそらくないでしょう。私がこの曲を聞く時には、部屋を暗くして目を閉じて聴き入るようにしています。発売から30年近く経ったいまの時代に聞いてもまったく古さを感じさせないのは、やはり筒美京平センセの曲が素晴らしいから。これはもうほとんど神業としか言いようがないですね。
そんなわけで、wishy-washyオススメ度は文句なく★5つ。若い世代の人や「クリスマスキャロル・・・」しか聞いたことがない人に、自信を持ってお勧めできる作品なのです。