「雪がとける」「氷がとける」あるいは、「雪をとかす」「氷をとかす」の「とける/とかす」の漢字。
ご存知の人は、いるだろうか?これが調べると、結構難題なのだ。
「とける/とかす」に相当する漢字は、
解、融、溶、熔(鎔)の4種類である。(「鎔」は「熔」の異体字と思われる)
今回は、徹底的に分析して、解決したい。
これについては、NHKの文化研究所のコラムでも悩んでいて、
中国の温家宝首相の来日でマスコミの各社が振り回されました。
「氷を『とかす』旅」という表現を巡ってのことです。
マスコミ各社は「とかす」を「解かす」「溶かす」「とかす」「融かす」と書いていました。
それぞれに理由があったようですが、NHKを含めテレビ局は放送の時期により違う表記を用いた会社がありました。
「新聞用語集」あるいは各社の「用字用語辞典」があるので、このようにばらばらになるとは考えてもみませんでした。
これは、2007年4月の中国温家宝首相が来日の際に中国メディアが「融氷の旅」と表現したことに対する、日本のマスコミの対応であった。
NHK文化研究所も、結局、述べるだけ述べて、解決できずコラムを終わらせている。
NHKはこう言う。
「NHK新用字用語辞典では、
①雪を解かす。雪が解ける。問題が解ける。緊張が解ける。
②絵の具を溶かす、鉄を溶かす。水に溶ける(▲融ける)。地元に溶け(▲融け)込む。
(▲は不使用の意味)
と書いてある」と、言い、
「『氷がとける』は書いていないから分からないし、国語辞典でも解釈が分かれる」と言って結局、あいまいにして終わらせている。しかも「『とける』と『とかす』は漢字が違うという人もいる」と、少数派の意見も書く始末。
さて国語辞典の大辞泉と大辞林では、「とける」を「解ける・溶ける・融ける」と 漢字3つの表記を同じだとして逃げていて、
①物質が液体と一体になる。(水にとける)
②固体が液状になる(雪がとける。氷がとける)
そして注意書きで③金属の場合は熔ける・鎔けるも使われるとする。
国語辞典は完全に逃げているので結局分からない。
さて、どうしようかと思ったが、分からない時は親に聞いてみれば早い。日本だけで解決しようとする人間ばかりだ。親にも聞こうじゃないか。
漢字が生まれた国の言葉。そう、中国語。
もちろん他言語ではあるが、案外話は早かったりするかもしれない。
中国語では、まず「解」は、「問題を解く」、「紐を解く」、「理解する」、「分解する」などの意味でしか使われない。
そして①つまり「液体と一体になること」は「溶」
②固体が液状になることは「融」
③金属の場合は「熔(鎔)」
一発で解決だ。
なお「とける」(自動詞)、「とかす」(他動詞)の違いはない。
これで、中国メディアが報じる「融氷」というのも納得いく。
解決である。「氷が融ける」だ。間違えだと言う人はいないだろう。
しかし、まだ、問題はある。「今」の日本の現状に当てはめなければならない。
現在、日本は「常用漢字」というものに沿って漢字を使用しているからだ。
まず、③「金属がとける」の「熔(鎔)」は、常用漢字に入っていない。日常的にも見ることはないだろう。
これは、「溶」と置き換えるということで解決する。
そして、本来は、雪が「融ける」、氷が「融ける」であるはずだと思うが、常用漢字表には
「融」は、「ゆう」という音読みしか定まっておらず、「とける/とかす」というのは常用漢字外の読みにされてしまう。
そこで、「解ける」が顔を出してくるのだ。
「雪どけ」は、普通「雪解け」と表記されているだろう。
NHK用字用語辞典でも、「雪を解かす」「雪が解ける」と雪については明記している。このコラムでは、「雪はあるが、氷はないから分からない」と言っているが、今まで考察してきて結果として、意味は②であり、雪と氷は同じでいいのだ。
実際、「解氷」という言葉がある。
いろいろ言って来たので、混乱したかもしれない。
まとめてみると、
①物質が液体と一体となること。
水などの液体に入れることによってとけ、一体になる。(溶解)
→溶ける(溶解)
例「塩が水に溶ける」「砂糖を水に溶かす」
NHK辞典でも同じ「 絵の具を溶かす、水に溶ける 」
中国語も同様「溶」。
②固体が液状になること。
媒体不要で常温でもとける。(融解)
→解ける(常用外の読みで、融ける)
例「雪が解ける」「氷を解かす」
NHK辞典でも同じ「 雪が解ける 」「 雪を解かす 」
氷についてももちろん同様でいい。「 氷が解ける 」「 氷を解かす 」
中国語では「融」。日本語では、字は常用漢字だが読みは常用外。
③金属などがとけること。
熱することでとける。(熔解、溶解)
→溶ける(常用外の字で、熔ける、鎔ける。)
例「鉄が溶ける」「アスファルトを溶かす」「プラスチックを熱して溶かす」
NHK辞典と同じ、「 鉄が溶ける 」
中国語「熔(鎔)」。日本語では、常用外。
これで悩まなくて済む。「雪が解ける」だ。各マスコミが悩んだという「氷がとける」旅は「氷が融ける」は許容ではあるが、現在常用外であるから、「氷が解ける」と確信を持って書けることになる。