今回のお話は正直アメンバー申請でもUPしていいのか悩みました。
でもこれ以外に泉さんを改革する方法が見つからなかったんです。
メッセージを頂きアメンバー申請出来ないがせめてラストを読みたいというお声を頂きまして、中編と後編をアメンバー様以外でも読めるように少し編集しましたが、やはりあまり内容を書き換えることができませんでした。
ギリギリセーフなのかアウトなのかも不明。
このような場でこのような重いテーマを持ち出してしまうことを先に謝罪いたします。
そして場合によってはこの中編と後編を予告なく削除することもあることをご了承頂きたく思います。
それでは覚悟の出来た方からどうぞ。
*****
貴方からの距離ーそれぞれの現在(いま)ー後編《リクエスト》
トラックに乗り込み孤児院へ向かう。
山のように積まれた文房具などはそのためかと理解した。
それでも、孤児院に行くのに100個も必要なのだろうかとこの時までは泉は首を傾げていた。
トラックの中で泉は何も話せなかった。
そしてたどり着いた孤児院。泉が考えた孤児院はせいぜい20~30人。
しかし、そこには300人以上もの孤児達がいたのだ。
泉はそこでも立ち尽くす。
「うそ…親のいない子供がこんなに…?」
「そうよ。この施設だけでこんなにいるの。」
そして文房具の配布がまた始まった。
元気で明るくて思いやりのあるいい子供達だった。
大きい子供は小さな子供の後ろに並び、プレゼントをもらった子供はもっと小さな子供に渡していた。
教えられているわけではない。彼らの生まれながらに持っている思いやりだった。
大きな子供は自分に両親がいないことを理解している。でも小さな子供はまだ知らない。
親に会えずに不安になる子供を元気付けるように渡しているのだ。
そしてそんな子供達は皆笑顔だった。
その笑顔を見て、泉は唇を噛みしめる。自分は今まで何をしていたんだろうという気分になり、胸が熱くなる。
子供に囲まれ、楽しそうにマラウイの言葉で話している人を見て、泉が美沙に尋ねた。
「彼は何を聞いてるの?」
「子供達に夢を聞いてるわ。」
「…夢…?」
「うん。あの子はお医者さん、あの女の子は学校の先生、その後ろの子は看護師さん…皆、人の役に立つしごとばかりね。」
「そうね。」
そうしていると、くいくいと泉は手を引かれた。それに気付いて視線を合わせるようにしゃがみ込む。
それに気付いた美沙も一緒にしゃがみこんで、笑いかけた。
「レニーちゃん。お久しぶりね!」
美沙の笑顔にレニーちゃんと呼ばれた女の子も嬉しそうに笑った。
マラウイの言葉はわからないが、美沙はマラウイの言葉でレニーちゃん話しかけ、レニーちゃんは頷いたり首を振ったりして、意思表示をする。
最後に手を振って別れてから、美沙がレニーちゃんの境遇を教えてくれた。
「あの子は、幼い頃に両親を無くして、家もなくして、ずっと橋の下でお婆さんと二人で暮らしていたの。だけどその後、お婆さんも亡くなって一人ぼっちになってしまった。そしてね、人からものを恵んでもらって生きいてる人に拾われたの。でも、それは、人としてではなく、道具として…。」
「え…?!道、具…?」
泉は信じられないという目で美沙を見つめた。
「悲惨な子供がいれば、物を恵んでもらえるの。そして道具として使われるだけ使われた後は、瀕死の状態になって捨てられたの。」
泉は先ほどの少女の笑顔を思い出して胸が苦しくてたまらなくなった。
「酷い…」
「でも、なんとか、この食料を食べさせてから元気になったわ!あんな笑顔を見せてくれるまで回復したの。」
泉はレニーちゃんと呼ばれた女の子を見つめていた。
小さな子供と一緒にクレヨンでお絵かきを楽しんでいる。
あの笑顔の影にそんな暗い過去など微塵も見えない。
今を心から楽しんでいる。そんな笑顔だった。
「あそこにほら、小さな男の子がいるでしょ?」
美沙は今度は別の子供に目を向けさせた。
泉も言われたままその子に視線を移す。
「あの子は四人兄弟の末っ子で、両親を亡くしてるの。あの子と、あの子の一つ上のお兄さんはここの孤児院にいるんだけど、もう1人のお兄さんは他の孤児院にいるわ。そして一番上の10歳のお姉さんは孤児院に入ることを拒んだの。」
泉がそれを聞いて目を見開く。
「え…?どうして?」
「そのお姉さんはね、孤児院が18歳までしかいられないのを知って、3人の弟達が孤児院を出ても安心して暮らせるように、1人食料の配給のない村で働いてるの。」
「え?10歳の女の子なんでしょ?」
「そうよ。弟たちを守ろうと必死なのよ。」
「10歳の、少女が…?孤児院にいれば食料が貰えるってわかってるのに…?自分の弟達の為に…?」
泉は呆然とその楽しそうな男の子を見て、とうとうポロリと涙を流した。
1人を救っても意味がない。それはわかってる。だけど、救いたい。出来るだけ多くの子供達を救いたい。あの笑顔を守りたい。
泉の中にそんな思いが湧き上がって来た。
泉の心が変わった瞬間だった。
それから二ヶ月後、泉はLMEの社長室で深々と頭を下げていた。
「私にやり直すチャンスをくださって本当にありがとうございました!!」
「随分、いい顔するようになったじゃねぇか。」
泉の顔を見て、ローリィは嬉しそうににやりと笑う。
「何か大切なことがわかったみてぇだな。」
「えぇ。それで社長にご相談が…」
「ん?なんだ?」
「LMEとの契約の件ですが、ここまでバックアップして下さったのに申し訳ないのですが、白紙に戻していただけないでしょうか?」
泉の言葉に、ローリィは目を丸くした。
「そりゃまた…どうして?」
「私…もっと彼らの役に立ちたい!もう少し向こうで…生活してみようと思います。」
泉がローリィを見つめる目には、力強い想いが篭っていた。
それの真意を探るようにジッと見つめたローリィが、ふっと口許を綻ばせる。
「後悔はしないか…?」
「わかりません。でも、行かない方が後悔すると思います。」
「そうか…。じゃあ、やれるとこまでやってみろ!」
ローリィの返事に、泉はパアッと顔を輝かせた。
「あ、ありがとうございます!!」
泉は深々と頭を下げた。
そこへ二つのノックが響く。
「入れ!」
かちゃりと開いたドアから体を室内に入れたのはセバスチャンだった。
「お二人が到着されました。」
「おぅ!入るように言ってやれ!」
「畏まりました。」
セバスチャンはドアを開き、二人の客人を招き入れる。
現れたのが蓮とキョーコで泉は目を丸くした。
「失礼します。社長、お話と言うのは…」
蓮は言いかけて、先客がいたことに気付き口を噤む。
「まぁ掛けろや。泉君もこっちへ。」
ローリィが泉と呼んだことで漸く二人は目の前にいるのが白石泉だと分かった。
その変わりように二人揃って目を見開き驚愕の表情で固まる。
「え…?泉、さん?!」
「…!」
透き通るように白かった肌は日に焼け黒くなり、美しかった長い髪は一括りにされ、手入れもあまり施されていないことが見受けられ、服装もかなりラフな格好になっている。
「えっと…」
あまりの変わりようにかける言葉が見つからずにいる二人に、泉は身体を向け深々と頭を下げた。
「敦賀君、京子ちゃん、本当に本当に二人には申し訳ありませんでした!!」
「い、泉さん?!」
泉の態度に蓮も何も言えず困惑し、キョーコも慌てた。
「私、本当に子供だったわ!自分のことしか考えてなかった。引っ掻き回すような真似して本当に…っ」
「泉さん…」
必死で謝り倒す泉に、眉を下げて、蓮とキョーコは困ったように顔を合わせた。
そして蓮はキョーコの肩を抱き自分へ引き寄せると、泉に向かって微笑んだ。
「泉…」
付き合っている時も呼ばれたことがないような柔らかな声に泉は弾かれたように顔を上げる。
蓮はキョーコの肩をしっかりと抱いたまま、言葉を掛けた。
「俺がキョーコに気持ちを伝えることが出来たのも、キョーコの気持ちを知ることが出来たのも、泉のおかげだ。」
「え…」
「そうですよ。泉さんがいなかったら私達は先輩と後輩のままでした。」
「キョーコを手に入れることが出来て今、凄く幸せなんだ。まぁ色々引っ掻き回されはしたが、だからこのことに関してだけは感謝してる。」
泉の目からポトリと熱い雫が流れた。
向こうで自分の生活を見直しているうちに蓮とキョーコへの自分の行いを思い起こしてずっとずっと後悔していたのだ。
謝って済むものではないと思いながらも、二人にはどうしても謝罪したいと思った。
勿論その二人だけでなく、その他の泉が狂わせた人たち全てに謝罪しなければと思った。
許されるとは思ってなかった。
それなのに、蓮もキョーコも柔らかい言葉を掛けてくれた。
それが堪らなく嬉しかったのだ。
こんなにも心優しい人達だったとは…泉は漸く二人の本質に触れることができた。
近くにいて見ようとすれば見れた部分を見ようとはしていなかったのだ。
感極まって泣きじゃくる泉を見てオロオロするキョーコの肩を蓮はしっかり抱いて抱き締める。
「れ、蓮さんっ!泉さんを泣かせちゃいました!どうしましょう!」
顔を青ざめさせてるキョーコに、蓮は安心させるように微笑んで、落ち着かせるようにその腕に収める。
「うん。大丈夫だから。」
ポンポンと一定のリズムで背中を叩いて、キョーコの髪に顔を埋める。
泉と対峙してこんな穏やかな気持ちになれるとは思ってなかった。
これもキョーコの力もあるんだろうななんて思いながら、キョーコの温もりを堪能する。
「あ、あのっ!皆さん見て…ます…」
蓮に宥められて落ち着いたキョーコは、漸くローリィやセバスチャン、泉がいる前で蓮に抱きしめられてることに気付いて真っ赤になって恥じらう。
「ん…。知ってる。」
「し、知ってるじゃなくてですねー!!」
キョーコの様子にクスッと笑った蓮は、はいはいと返事を返しながらキョーコの拘束を問いた。
「それにしても泉さん、どうしてこんな…」
少し面影はあるものの、全然別人に見えてしまう。
「なんと言うか、サバイバーな感じに?」
キョーコの言葉に泉は目尻の涙を拭いながら、ふふふと笑った。
その笑顔は女優白石泉のキョーコが憧れてた時よりも随分と柔らかい笑顔に見えた。
「貴方達の社長のお陰でね。マラウイって国に行ってきたのよ。私はそこで人としての心を取り戻すことが出来たわ。」
「マラウイ…?」
泉の話をにキョーコと蓮は暫し耳を傾けるのだった。
話が落ち着いてきたのを見計らってローリィは泉に声をかけた。
「もしまた日本での芸能活動に戻る気になったら、俺のとこまで連絡するように。」
ローリィの言葉に泉は嬉しそうに笑う。
「はい!ありがとうございます!その時はよろしくお願いします!!」
すっかり人が変わってしまった泉に、蓮とキョーコは顔を見合わせて微笑み合う。
「またマラウイに行かれるんですか?」
お別れの握手を交わしながらキョーコが問えば、泉は「ええ。決めたの。」と美しく微笑んだ。
日に焼けても髪が前ほど整ってなくても、その美しさは健在のようだ。
「お元気で。」
「気をつけて。」
「貴方達も。お幸せにね。貴方達の活躍を楽しみにしてるわ。」
泉を見送り、二人も帰宅をする。
帰りの蓮の車の中で、キョーコはぼんやりと外を眺めていた。
「泉さん変わってましたね。」
「あぁ。」
「何だか凄く綺麗になった気がします。」
「そうだね。自分のやりたいことをちゃんと見つけたからじゃないかな?」
そう柔らかく笑う蓮にキョーコはじとっとした目を向ける。
「ん?何かな?何か言いたそうだね?」
「蓮さん、実はちょっと思ったんじゃないですか?勿体無いことしたなって…」
ポツリと落ちたキョーコの意外な言葉に蓮は目を見開く。
「クスクス。思わないよ。俺にはキョーコだけが特別だから。他は、皆…そうだな…マンゴーに見えるよ?」
「ぷっ。何ですかそれ。普通ジャガイモとかかぼちゃとか言いません?って、マンゴーって高級フルーツじゃないですか!」
「女性をジャガイモに例えるのは失礼だろう?でもキョーコはメロンとか桃とかマスカットとか色んなフルーツが集まってるイメージだな。」
「え…?」
「一粒で何度も美味しいってあるだろ?キョーコはどこ食べても甘…」
ーーバシッ
キョーコは真っ赤な顔で運転中の蓮の肩を叩いた。
「もうっ!!信じらんない!!蓮さんのエッチ!!スケベ!!スケコマシ!!」
ーーポカポカポカ
キョーコが叩く。
「わわっ!キョーコ、危ないから。くく。ごめんごめん。でも本当のことだしっ!」
「もう!!ここでいいです!!」
「え?ちょ、キョーコ?!」
「下ろしてくださいっ!」
「冗談だから!冗談!!」
「ヤです!!明日は朝早くからロケがあるんですから、今日は家で寝ます!!帰ります!!止めないなら飛び降りますからっ!!」
「キョーコ!!」
蓮は真っ青になって狼狽えた。慌てて路肩に車を寄せるが、このまま帰すなんて冗談じゃない。何のために今日は早く撮影を終わらせたのか。
蓮の狼狽え様を見て、キョーコはドアに手を掛けたまま、肩を震わせた。
「ふ…くく…くくく…くすくすくす。」
キョーコから漏れた笑い声に蓮は一瞬ポカンとしていたが、その後、蓮から発せられる空気の温度が一気に下がるのを感じて、キョーコは流石にヤバイと察した。
そろりと蓮を見れば、無表情で口元に笑みだけ作った。
「いい度胸だね。キョーコ…」
「ひっ!れ、蓮さ…」
「帰ったらお仕置き…それともここでが御所望かな?」
「へ?!なっ!」
「車の中でって…まだしたことないよね?」
覆いかぶさりながらニッコリ笑う蓮にキョーコは赤や青に顔色を変える。
「あのっ…そ、外から見えちゃいますし!ここではダメですっ!!」
「ん…でもここで降りるんだろ?だったらお仕置きはここでしか…」
言いながら手際良く助手席のシートを倒してしまった蓮に、キョーコは慌てて叫んだ。
「い、行きます!!蓮さんのマンションに行きますからぁ!!ダメです!ここだと警察に連行されちゃいますぅ!!」
キョーコの言葉に蓮は再び目を見開いた。
「プッククッ…君は相変わらず面白いね。」
「へ?!」
「普通突っ込む所は違うだろう。」
クスクスと笑い蓮はキョーコの頭を優しく撫でる。
「こんな所でしないよ。大事なキョーコの肌を他の男になんて見せたくないし。でも、これくらいは許してね?」
そう言って蓮はキョーコに優しく口付けた。
「ん…」
深く味わい満足してから顔を離す。
「ん。ご馳走様。」
「もうっ!こんな所で…」
「キョーコが騙すのが悪い。」
真っ赤な顔で膨れるキョーコの座席を戻す。
もう一度だけ軽く口付けて蓮は上機嫌でアクセルを踏んだ。
その時不自然に光った光。
それが何を意味するのか、その光に気付かなかった二人にはまだ知る由がないのだった。
END
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*****
中で出来てたマラウイの子供たちの現状はそのまま書かせて貰いました。
子供たちの夢、レニーちゃんの話、10歳の少女が3人の弟達の為に働きに出たり…今の日本では考えられませんよね。
貧しさゆえに生き抜く為に中には盗難も多発しているそうです。
貴重品だけでなく、靴なども奪われるといいます。
自分の身は自分で守るしかないので、もしも行く方がいれば充分お気をつけください。
食糧支援の話も現実のことです。食糧支援について知りたい方は風月までメッセージ頂ければ簡単にご案内いたします。
本当にこのような場で重いテーマになってしまってすみません!!
最後までお付き合い頂いた皆さん、ありがとうございました。
でもこれ以外に泉さんを改革する方法が見つからなかったんです。
メッセージを頂きアメンバー申請出来ないがせめてラストを読みたいというお声を頂きまして、中編と後編をアメンバー様以外でも読めるように少し編集しましたが、やはりあまり内容を書き換えることができませんでした。
ギリギリセーフなのかアウトなのかも不明。
このような場でこのような重いテーマを持ち出してしまうことを先に謝罪いたします。
そして場合によってはこの中編と後編を予告なく削除することもあることをご了承頂きたく思います。
それでは覚悟の出来た方からどうぞ。
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貴方からの距離ーそれぞれの現在(いま)ー後編《リクエスト》
トラックに乗り込み孤児院へ向かう。
山のように積まれた文房具などはそのためかと理解した。
それでも、孤児院に行くのに100個も必要なのだろうかとこの時までは泉は首を傾げていた。
トラックの中で泉は何も話せなかった。
そしてたどり着いた孤児院。泉が考えた孤児院はせいぜい20~30人。
しかし、そこには300人以上もの孤児達がいたのだ。
泉はそこでも立ち尽くす。
「うそ…親のいない子供がこんなに…?」
「そうよ。この施設だけでこんなにいるの。」
そして文房具の配布がまた始まった。
元気で明るくて思いやりのあるいい子供達だった。
大きい子供は小さな子供の後ろに並び、プレゼントをもらった子供はもっと小さな子供に渡していた。
教えられているわけではない。彼らの生まれながらに持っている思いやりだった。
大きな子供は自分に両親がいないことを理解している。でも小さな子供はまだ知らない。
親に会えずに不安になる子供を元気付けるように渡しているのだ。
そしてそんな子供達は皆笑顔だった。
その笑顔を見て、泉は唇を噛みしめる。自分は今まで何をしていたんだろうという気分になり、胸が熱くなる。
子供に囲まれ、楽しそうにマラウイの言葉で話している人を見て、泉が美沙に尋ねた。
「彼は何を聞いてるの?」
「子供達に夢を聞いてるわ。」
「…夢…?」
「うん。あの子はお医者さん、あの女の子は学校の先生、その後ろの子は看護師さん…皆、人の役に立つしごとばかりね。」
「そうね。」
そうしていると、くいくいと泉は手を引かれた。それに気付いて視線を合わせるようにしゃがみ込む。
それに気付いた美沙も一緒にしゃがみこんで、笑いかけた。
「レニーちゃん。お久しぶりね!」
美沙の笑顔にレニーちゃんと呼ばれた女の子も嬉しそうに笑った。
マラウイの言葉はわからないが、美沙はマラウイの言葉でレニーちゃん話しかけ、レニーちゃんは頷いたり首を振ったりして、意思表示をする。
最後に手を振って別れてから、美沙がレニーちゃんの境遇を教えてくれた。
「あの子は、幼い頃に両親を無くして、家もなくして、ずっと橋の下でお婆さんと二人で暮らしていたの。だけどその後、お婆さんも亡くなって一人ぼっちになってしまった。そしてね、人からものを恵んでもらって生きいてる人に拾われたの。でも、それは、人としてではなく、道具として…。」
「え…?!道、具…?」
泉は信じられないという目で美沙を見つめた。
「悲惨な子供がいれば、物を恵んでもらえるの。そして道具として使われるだけ使われた後は、瀕死の状態になって捨てられたの。」
泉は先ほどの少女の笑顔を思い出して胸が苦しくてたまらなくなった。
「酷い…」
「でも、なんとか、この食料を食べさせてから元気になったわ!あんな笑顔を見せてくれるまで回復したの。」
泉はレニーちゃんと呼ばれた女の子を見つめていた。
小さな子供と一緒にクレヨンでお絵かきを楽しんでいる。
あの笑顔の影にそんな暗い過去など微塵も見えない。
今を心から楽しんでいる。そんな笑顔だった。
「あそこにほら、小さな男の子がいるでしょ?」
美沙は今度は別の子供に目を向けさせた。
泉も言われたままその子に視線を移す。
「あの子は四人兄弟の末っ子で、両親を亡くしてるの。あの子と、あの子の一つ上のお兄さんはここの孤児院にいるんだけど、もう1人のお兄さんは他の孤児院にいるわ。そして一番上の10歳のお姉さんは孤児院に入ることを拒んだの。」
泉がそれを聞いて目を見開く。
「え…?どうして?」
「そのお姉さんはね、孤児院が18歳までしかいられないのを知って、3人の弟達が孤児院を出ても安心して暮らせるように、1人食料の配給のない村で働いてるの。」
「え?10歳の女の子なんでしょ?」
「そうよ。弟たちを守ろうと必死なのよ。」
「10歳の、少女が…?孤児院にいれば食料が貰えるってわかってるのに…?自分の弟達の為に…?」
泉は呆然とその楽しそうな男の子を見て、とうとうポロリと涙を流した。
1人を救っても意味がない。それはわかってる。だけど、救いたい。出来るだけ多くの子供達を救いたい。あの笑顔を守りたい。
泉の中にそんな思いが湧き上がって来た。
泉の心が変わった瞬間だった。
それから二ヶ月後、泉はLMEの社長室で深々と頭を下げていた。
「私にやり直すチャンスをくださって本当にありがとうございました!!」
「随分、いい顔するようになったじゃねぇか。」
泉の顔を見て、ローリィは嬉しそうににやりと笑う。
「何か大切なことがわかったみてぇだな。」
「えぇ。それで社長にご相談が…」
「ん?なんだ?」
「LMEとの契約の件ですが、ここまでバックアップして下さったのに申し訳ないのですが、白紙に戻していただけないでしょうか?」
泉の言葉に、ローリィは目を丸くした。
「そりゃまた…どうして?」
「私…もっと彼らの役に立ちたい!もう少し向こうで…生活してみようと思います。」
泉がローリィを見つめる目には、力強い想いが篭っていた。
それの真意を探るようにジッと見つめたローリィが、ふっと口許を綻ばせる。
「後悔はしないか…?」
「わかりません。でも、行かない方が後悔すると思います。」
「そうか…。じゃあ、やれるとこまでやってみろ!」
ローリィの返事に、泉はパアッと顔を輝かせた。
「あ、ありがとうございます!!」
泉は深々と頭を下げた。
そこへ二つのノックが響く。
「入れ!」
かちゃりと開いたドアから体を室内に入れたのはセバスチャンだった。
「お二人が到着されました。」
「おぅ!入るように言ってやれ!」
「畏まりました。」
セバスチャンはドアを開き、二人の客人を招き入れる。
現れたのが蓮とキョーコで泉は目を丸くした。
「失礼します。社長、お話と言うのは…」
蓮は言いかけて、先客がいたことに気付き口を噤む。
「まぁ掛けろや。泉君もこっちへ。」
ローリィが泉と呼んだことで漸く二人は目の前にいるのが白石泉だと分かった。
その変わりように二人揃って目を見開き驚愕の表情で固まる。
「え…?泉、さん?!」
「…!」
透き通るように白かった肌は日に焼け黒くなり、美しかった長い髪は一括りにされ、手入れもあまり施されていないことが見受けられ、服装もかなりラフな格好になっている。
「えっと…」
あまりの変わりようにかける言葉が見つからずにいる二人に、泉は身体を向け深々と頭を下げた。
「敦賀君、京子ちゃん、本当に本当に二人には申し訳ありませんでした!!」
「い、泉さん?!」
泉の態度に蓮も何も言えず困惑し、キョーコも慌てた。
「私、本当に子供だったわ!自分のことしか考えてなかった。引っ掻き回すような真似して本当に…っ」
「泉さん…」
必死で謝り倒す泉に、眉を下げて、蓮とキョーコは困ったように顔を合わせた。
そして蓮はキョーコの肩を抱き自分へ引き寄せると、泉に向かって微笑んだ。
「泉…」
付き合っている時も呼ばれたことがないような柔らかな声に泉は弾かれたように顔を上げる。
蓮はキョーコの肩をしっかりと抱いたまま、言葉を掛けた。
「俺がキョーコに気持ちを伝えることが出来たのも、キョーコの気持ちを知ることが出来たのも、泉のおかげだ。」
「え…」
「そうですよ。泉さんがいなかったら私達は先輩と後輩のままでした。」
「キョーコを手に入れることが出来て今、凄く幸せなんだ。まぁ色々引っ掻き回されはしたが、だからこのことに関してだけは感謝してる。」
泉の目からポトリと熱い雫が流れた。
向こうで自分の生活を見直しているうちに蓮とキョーコへの自分の行いを思い起こしてずっとずっと後悔していたのだ。
謝って済むものではないと思いながらも、二人にはどうしても謝罪したいと思った。
勿論その二人だけでなく、その他の泉が狂わせた人たち全てに謝罪しなければと思った。
許されるとは思ってなかった。
それなのに、蓮もキョーコも柔らかい言葉を掛けてくれた。
それが堪らなく嬉しかったのだ。
こんなにも心優しい人達だったとは…泉は漸く二人の本質に触れることができた。
近くにいて見ようとすれば見れた部分を見ようとはしていなかったのだ。
感極まって泣きじゃくる泉を見てオロオロするキョーコの肩を蓮はしっかり抱いて抱き締める。
「れ、蓮さんっ!泉さんを泣かせちゃいました!どうしましょう!」
顔を青ざめさせてるキョーコに、蓮は安心させるように微笑んで、落ち着かせるようにその腕に収める。
「うん。大丈夫だから。」
ポンポンと一定のリズムで背中を叩いて、キョーコの髪に顔を埋める。
泉と対峙してこんな穏やかな気持ちになれるとは思ってなかった。
これもキョーコの力もあるんだろうななんて思いながら、キョーコの温もりを堪能する。
「あ、あのっ!皆さん見て…ます…」
蓮に宥められて落ち着いたキョーコは、漸くローリィやセバスチャン、泉がいる前で蓮に抱きしめられてることに気付いて真っ赤になって恥じらう。
「ん…。知ってる。」
「し、知ってるじゃなくてですねー!!」
キョーコの様子にクスッと笑った蓮は、はいはいと返事を返しながらキョーコの拘束を問いた。
「それにしても泉さん、どうしてこんな…」
少し面影はあるものの、全然別人に見えてしまう。
「なんと言うか、サバイバーな感じに?」
キョーコの言葉に泉は目尻の涙を拭いながら、ふふふと笑った。
その笑顔は女優白石泉のキョーコが憧れてた時よりも随分と柔らかい笑顔に見えた。
「貴方達の社長のお陰でね。マラウイって国に行ってきたのよ。私はそこで人としての心を取り戻すことが出来たわ。」
「マラウイ…?」
泉の話をにキョーコと蓮は暫し耳を傾けるのだった。
話が落ち着いてきたのを見計らってローリィは泉に声をかけた。
「もしまた日本での芸能活動に戻る気になったら、俺のとこまで連絡するように。」
ローリィの言葉に泉は嬉しそうに笑う。
「はい!ありがとうございます!その時はよろしくお願いします!!」
すっかり人が変わってしまった泉に、蓮とキョーコは顔を見合わせて微笑み合う。
「またマラウイに行かれるんですか?」
お別れの握手を交わしながらキョーコが問えば、泉は「ええ。決めたの。」と美しく微笑んだ。
日に焼けても髪が前ほど整ってなくても、その美しさは健在のようだ。
「お元気で。」
「気をつけて。」
「貴方達も。お幸せにね。貴方達の活躍を楽しみにしてるわ。」
泉を見送り、二人も帰宅をする。
帰りの蓮の車の中で、キョーコはぼんやりと外を眺めていた。
「泉さん変わってましたね。」
「あぁ。」
「何だか凄く綺麗になった気がします。」
「そうだね。自分のやりたいことをちゃんと見つけたからじゃないかな?」
そう柔らかく笑う蓮にキョーコはじとっとした目を向ける。
「ん?何かな?何か言いたそうだね?」
「蓮さん、実はちょっと思ったんじゃないですか?勿体無いことしたなって…」
ポツリと落ちたキョーコの意外な言葉に蓮は目を見開く。
「クスクス。思わないよ。俺にはキョーコだけが特別だから。他は、皆…そうだな…マンゴーに見えるよ?」
「ぷっ。何ですかそれ。普通ジャガイモとかかぼちゃとか言いません?って、マンゴーって高級フルーツじゃないですか!」
「女性をジャガイモに例えるのは失礼だろう?でもキョーコはメロンとか桃とかマスカットとか色んなフルーツが集まってるイメージだな。」
「え…?」
「一粒で何度も美味しいってあるだろ?キョーコはどこ食べても甘…」
ーーバシッ
キョーコは真っ赤な顔で運転中の蓮の肩を叩いた。
「もうっ!!信じらんない!!蓮さんのエッチ!!スケベ!!スケコマシ!!」
ーーポカポカポカ
キョーコが叩く。
「わわっ!キョーコ、危ないから。くく。ごめんごめん。でも本当のことだしっ!」
「もう!!ここでいいです!!」
「え?ちょ、キョーコ?!」
「下ろしてくださいっ!」
「冗談だから!冗談!!」
「ヤです!!明日は朝早くからロケがあるんですから、今日は家で寝ます!!帰ります!!止めないなら飛び降りますからっ!!」
「キョーコ!!」
蓮は真っ青になって狼狽えた。慌てて路肩に車を寄せるが、このまま帰すなんて冗談じゃない。何のために今日は早く撮影を終わらせたのか。
蓮の狼狽え様を見て、キョーコはドアに手を掛けたまま、肩を震わせた。
「ふ…くく…くくく…くすくすくす。」
キョーコから漏れた笑い声に蓮は一瞬ポカンとしていたが、その後、蓮から発せられる空気の温度が一気に下がるのを感じて、キョーコは流石にヤバイと察した。
そろりと蓮を見れば、無表情で口元に笑みだけ作った。
「いい度胸だね。キョーコ…」
「ひっ!れ、蓮さ…」
「帰ったらお仕置き…それともここでが御所望かな?」
「へ?!なっ!」
「車の中でって…まだしたことないよね?」
覆いかぶさりながらニッコリ笑う蓮にキョーコは赤や青に顔色を変える。
「あのっ…そ、外から見えちゃいますし!ここではダメですっ!!」
「ん…でもここで降りるんだろ?だったらお仕置きはここでしか…」
言いながら手際良く助手席のシートを倒してしまった蓮に、キョーコは慌てて叫んだ。
「い、行きます!!蓮さんのマンションに行きますからぁ!!ダメです!ここだと警察に連行されちゃいますぅ!!」
キョーコの言葉に蓮は再び目を見開いた。
「プッククッ…君は相変わらず面白いね。」
「へ?!」
「普通突っ込む所は違うだろう。」
クスクスと笑い蓮はキョーコの頭を優しく撫でる。
「こんな所でしないよ。大事なキョーコの肌を他の男になんて見せたくないし。でも、これくらいは許してね?」
そう言って蓮はキョーコに優しく口付けた。
「ん…」
深く味わい満足してから顔を離す。
「ん。ご馳走様。」
「もうっ!こんな所で…」
「キョーコが騙すのが悪い。」
真っ赤な顔で膨れるキョーコの座席を戻す。
もう一度だけ軽く口付けて蓮は上機嫌でアクセルを踏んだ。
その時不自然に光った光。
それが何を意味するのか、その光に気付かなかった二人にはまだ知る由がないのだった。
END
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中で出来てたマラウイの子供たちの現状はそのまま書かせて貰いました。
子供たちの夢、レニーちゃんの話、10歳の少女が3人の弟達の為に働きに出たり…今の日本では考えられませんよね。
貧しさゆえに生き抜く為に中には盗難も多発しているそうです。
貴重品だけでなく、靴なども奪われるといいます。
自分の身は自分で守るしかないので、もしも行く方がいれば充分お気をつけください。
食糧支援の話も現実のことです。食糧支援について知りたい方は風月までメッセージ頂ければ簡単にご案内いたします。
本当にこのような場で重いテーマになってしまってすみません!!
最後までお付き合い頂いた皆さん、ありがとうございました。