今回のお話は正直アメンバー申請でもUPしていいのか悩みました。
でもこれ以外に泉さんを改革する方法が見つからなかったんです。
メッセージを頂きアメンバー申請出来ないがせめてラストを読みたいというお声を頂きまして、中編と後編をアメンバー様以外でも読めるように少し編集しましたが、やはりあまり内容を書き換えることができませんでした。
ギリギリセーフなのかアウトなのかも不明。


このような場でこのような重いテーマを持ち出してしまうことを先に謝罪いたします。
そして場合によってはこの中編と後編を予告なく削除することもあることをご了承頂きたく思います。

それでは覚悟の出来た方からどうぞ。


*****


貴方からの距離ーそれぞれの現在(いま)ー中編《リクエスト》


「泉、おはよう!」

「…おはよう。美沙。」

「ふふ。相変わらず冴えない顔してるわね!!さぁ!今日も忙しくなるわよー!早く支度しましょう!」

美沙は泉より一つ下の年の女の子。
泉がホームスティのような形でお世話になってる家の少女だ。
母親を早くに亡くし、父親と2人きりで生活をしていたのだが、ある日ジャーナリストの父親が最貧国と呼ばれる国に住むことを決めたのだと言う。
美沙は父に着いて日本を離れることを決意し、そこで暮らし始めたのだ。
明るく活発で能天気。泉はそう評価していた。
憂鬱な日々の中で、真っ直ぐで穢れをしらないような美沙が泉は少し苦手だった。




泉がローリィから初めに与えられたミッションは介護老人ホームで働くことだった。
目に痛いドピングのダサい繋ぎを着せられ、エプロンをして、お年寄りの世話をする。

ーーーなんで、私がこんなことしなきゃいけないのよ!!

泉は笑顔の仮面の下でそんな毒を吐きながら一人で歩けないお爺さんをお風呂に入れていた。

「姉ちゃんも一緒に入ろうや」と歯の抜けた顔でニイッと笑いながら言う言葉を躱しながら、身体を洗うのを手伝う。
ドサクサに紛れて胸を触られ、泉はゾッとした。

「なにすんのよ!!」

パァンとお風呂場に響いた大きな音。
思わず引っ叩いてしまったので当然のように問題になってしまった。
先輩介護師から説教をくらい、老人の相手はまださせられないと、汚物処理や匂いのキツいシーツや着替えの洗濯など裏の仕事を手伝わされる。

初めに考えていた以上の肉体労働と精神的ストレスに泉は耐えられず、一週間もせずに逃げ出してしまった。

泉は世にも恐ろしい形相でローリィに食ってかかった。

「私は女優なのよ?!なんであんなことしなきゃいけないのよ!!臭いし汚いし、気色悪いし!耐えられない!!私には無理だわ!もっと別の私に相応しいミッションに変えて!!」

ローリィはクルクルと椅子で周りながら思考を巡らし、葉巻をギュッと灰皿に押さえつけて一言だけ言った。

「明日、朝10時にここに来い。次のミッションを用意しよう。」

「…わかったわ。」

泉はこれ以上に酷い仕事はないだろうと、頷くとそのままその場を後にした。


翌日、泉は老人ホームの時と同様、目に痛いドピング繋ぎを着て、その上から頭に三角巾とエプロンを身につけて公園に立っていた。目の前にズラリと人が並んでいるが、握手会やサイン会などでは決してない。
泉は今、ホームレスに向けた炊き出しボランティアに参加していたのだ。
先日までの老人ホームの仕事に比べれば幾らかはマシではある。
強烈な匂いに鼻が曲がりそうだと思いながらも作業としては食事の配膳だけ。
笑顔の仮面を貼り付けて何とか仕事を熟す。

それからは毎日日替わりで色々な仕事をやらされた。

そう、やらされているという気持が強く、泉はローリィの目から見ても全く成長が見れなかった。

優秀な側近からの報告書を確認したローリィは、「最終手段か…」と呟いた。


「今度は何をさせるおつもりですか?」

にっこり笑顔に青筋を立てて泉がローリィに毒を吐いた。
ローリィに笑顔はなく、感情は読み取れない。

「泉君。海外に興味はあるか?」

ローリィの言葉に泉は数回瞬きを繰り返した後、目を輝かせて身を乗り出した。

「海外?!海外ですか?!」

「あぁ。ちなみに明日からだ。行くか?」

「あ、明日ぁ?!」

泉は突然のことに少し戸惑ったが、頭の中は海外=ハリウッドという単語で埋め尽くされた。

ーーーい、いきなりハリウッドなの?!それってそれだけ社長は私に期待してるってことよね?!やだ!どうしよう!!こ、心の準備がっ!!

泉の胸はドキドキと高鳴っていた。

「これがラストチャンスだ。行くなら二ヶ月。交通費はこちらで全面的に負担しよう。」

相変わらずローリィに表情はなかった。
ジッと静かに泉を見つめ、泉の反応を試すかのように静かに問いかける。
泉はゴクリと喉を鳴らした。

「行くか。行かないか。君の答えを聞こう。」

「行くっ!!あ…いえ、行きます!!行かせてください!!」

泉は頬を紅潮させて答えた。
ローリィはそうか。と答えると立ち上がり、側近に何かの合図を送ると、泉に背を向け、大きな窓から空に目を向けた。

その背後で泉がローリィの側近から航空券を受け取ると中を確かめる。
そして、泉は目的地を見て首を傾げた。

「…?マラ、ウイ…?」

口に出して見ても何処だかよくわからず、答えを求めてローリィを見やれば、ローリィがゆっくりと振り返った。

「マラウイ共和国、通称マラウイ。アフリカ大陸南東部に位置する共和制国家だ。首都はリロングウェ、最大の都市はブランタイヤ。アフリカ大地溝帯に位置する内陸国で、世界最貧国の一つだ。君にはそこでボランティアに参加してもらう。」

「な?!ま、またボランティア?!」

「俺の知り合いがいてな、ちょうどボランティアを募ってるんだ。衣食住はそいつのとこで保証する。」

「そ、そんなこと…急に言われても…。」

泉は行き先がハリウッドではなかったことにガッカリして乗り気ではなくなった。

しかし、ローリィは泉に最終通告だとばかりに言った。

「行くか、行かないかだ。…行かないというのなら、ウチとの契約の話は忘れてもらおう。今の君には人としての可能性も魅力も感じない。しかし、行くというのなら…」

ローリィは真っ直ぐ真剣な目で泉を見つめた。
ローマ帝王のような衣装を来ているから迫力満点な視線が泉を射る。

「君の可能性をもう少し信じて見てもいい。」

どうするかね?と問われて、固まっていた泉はハッと顔を上げ、反射的に答えていた。

「行きます!行かせてください!」


そして泉はマラウイ共和国に来たのだが、着いて早々、早くも自分の行動に後悔し始めていた。



たかが2ヶ月。たったそれだけ我慢すればLMEに置いてもらえるかもしれない。そう思っていた数時間前の自分が恨めしいとさえ思ってしまう。

空港に着いて早々、迎えに来ているはずのローリィの知り合いを探してキョロキョロしていたら、引ったくりにあってしまったのだ。

後ろから押し倒され、キャリーバッグに帽子、サングラスと靴を脱がされ持って行かれてしまったのだ。
手に持っていたハンドバッグはなんとか死守出来たので無事だったが、バッグから飛び出した携帯電話まで盗られてしまった。

「ちょ、ちょっと!!返しなさいよ!!!!」

余りに突然過ぎて、そう叫べたのは3、4人の男達の背中が見えなくなってからだった。

靴まで取られたことに暫し呆然と座り込んでいたら後ろから声をかけられた。

「あちゃー。やられちゃったわね。立てる?」

日本語で声をかけられ振り返るとそこには目がクリンとした可愛らしい日本人女性が立っていた。

「え…あ、ありがとう…。」

「どういたしまして。もしかして貴方が泉?」

「え…?何で私の名前…」

「やっぱり!私美沙よ!貴方のホームスティ先の架橋美沙。」

それが美沙と泉の最初の出会いだった。




「今日は何処に行くの?」

「子供達の学校よ!食料配布に人が足りないんですって。」

「ふーん。」

最初に引ったくりに遭ってから、泉はこの国が苦手だった。早く帰りたい。そればっかりが頭を占める。
もう役者の道を諦めてしまおうかとも考えたが、一日振り回されてクタクタになってベッドにだいぶすればまた次の朝がやってくるという繰り返しで、帰るに帰れないのが現状だった。

泉はため息を吐きながら支度を始める。
本当にどうしてこんなことをやらされなければいけないのかと被害者意識が育つばかりだ。
キャリーバッグが盗まれたため、オシャレな洋服もなく、美沙に借りた地味な服に地味な靴を履いてる。
動きやすい服装なのでボランティアにはこれくらいラフな方がいいのもわかっているが、盗まれたという不快感が消えるわけではない。
泉は全く興味がないのだが、食料を積んだトラックの中で美沙が泉にこの国のことを説明をする。

「マラウイは格差社会なの。富裕層の人と貧困層の差が激しいから、食事もまともに食べられない子が多くって…」

「そうなんだ。」

「この国ではね、HIV感染が急激に広まってしまったの。小さい頃から学校にも行かず、勉強も出来ずに働いてる人たちが多いから、教育が全く浸透してないのよ。」

長い道のりの中、美沙はこの国の現状を伝えた。

「貧しいから働き口にするために子供を多く作るわ。だけど感染していることを調べずに子供を次々と作るから生まれながらにして感染して生まれてくる子が急増して爆発的に感染者が溢れてるの。その繰り返し。悪循環よ。この国には根本的な改革が必要だわ。」

泉はゾッとした。HIV感染をしている人たちがこの国にはかなりの割合で存在してるというのだ。もし自分に移ったら…?何で美沙はこんなに平気な顔しているのかわからない。

ある企業がその国を変えようとしているらしい。そしてその取り組みが始まり数年で飢餓で亡くなる子供の数がゼロになったのだという。
一企業が一つの国を飢餓から救ったのだ。
だけどそれでもまだこの国が根本的に救われたわけではない。
この食料支援を打ち切ればまた元に戻ってしまうだろう。
それで今は食裏支援をしつつ、村を作りかえる為のファミリー向けの学校を作っているのだという。
それぞれの村から代表の家族を集め、その学校で父親は農業を学び、母親は料理を習い、子供は読み書きを学ぶ。
それを一年かけて学んだ人達がそれぞれの村に帰り、村の仲間に農業や料理など学んで来たことを村の皆に広げて行くというのだ。
これはまだ始まったばかりの段階でこれから成果を見て言うのだという。

「へぇ…たいそうな考えね。」

この時までは、泉はかなり冷めた様子で話を聞いていた。
ネズミを食料として売り歩くこの国を泉はどうも好きになれず、救いたいという人の気が知れない。
こんな人達を救ってどうなるのかとさえ思っていた。
企業の取り組みは立派だと思うが、話が大き過ぎて現実味が全く感じられなかったのだ。
右から左に聞き流したかのように興味も感じなかった。

美沙の目にはその企業への尊敬の念がキラキラと出ているのが有り有りとわかるのだが、結局はお金があるからやっているだけなのではないかと泉は捻くれた考え方で思ってしまう。

しかし、食料支援の場所にたどり着いたとき、泉は言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
そこには広大な土地を埋め尽くさんばかりの子供達が何百と集まっていたのだ。
皆裸足で、皮膚は日に焼け、髪も赤茶げている。
しっかりと並んで座って行儀良く食料が届くのを待っていたのだ。

そこで美沙は固まっている泉にこっそりと話しかける。

「この国の子供達は勉強するより働きなさいって言われるの。でもね、この食料を配る場所は学校って決めてるから、皆この食料を取りに来るために学校に来て勉強が出来るのよ。この食料をもらうために、二つや三つ村を超えてくる子供達もいるわ。片道4時間以上かかる距離から来る子も珍しくない。」

「なんで…こんなに…?ここに並んでも配れるのは一人一袋だけなんでしょ?」

「それでも、この一袋があれば、子供一人の一ヶ月分の食料になるわ。この袋はこの国の子供達にとって命なのよ。でもここで配布する数は決まってる。その数以上の配布は認められないわ。」

「どうして…?だってこれじゃ、足りないわよ?!」

泉は声を荒らげた。百聞は一見にしかずとはまさにこのことだろう。
こんなに沢山の子供達が…ボロボロの衣服を見にまとい、こんなに照りつける太陽の下で大人しく待っている。
本当に少年少女と呼ばれるような子供達だ。
この数台のトラックの中身全て合わせても足りるとはどうしても思えなかった。

「決まりなの。可哀想だからって1人認めて渡してしまったら暴動が起きる。ルールをしっかり守らないとダメなのよ。」

「でも!こんなに沢山いるのにっ!」

「私たちに出来るのは、決められた数を子供達に配布するだけよ。食料支援をしてくれた人達の一人ひとりの想いを届けるだけ。」

そう美沙がいったところで配布の合図が鳴り響いた。
わっと集まる子供達に一人ひとりに一生懸命配る。
受け取った子供達はキラキラと瞳を輝かせて、袋を頭の上に乗せたり抱き締めたりと色々だ。
マラウイの言葉だろうか、お礼を言われた気がした。

配る袋はあっという間になくなってしまった。
もらえなかった子供たちの中には何時間もかけてここまで足を運んだ子供もいるのだという。
泣き出す子供、肩を落とす子供を慰める子供。
奪い合いをする子供達もいた。
泉の中にやりきれない思いが生まれた。
もっと何か出来ることがあるんじゃないのか、もっと何か自分に出来ることはないんだろうか?
そんな気持ちが生まれた。

トラックの中にまだ食料が残っている。

「これっ…」

美沙に向けて配れないのかと言ってみれば、美沙は静かに首を振った。

「これは次の場所で調理して配る分だから…。」

泉は拳をギュと握る。何故か涙が溢れそうだった。

場所を移動し、調理した食料を配る。
そこにもまた気が遠くなるほどの長い子供達の列が待っていた。
一人ひとりが持参した容器を持って列に並ぶ。
泥だらけの容器で、容器の蓋で、何もないから手の中で…。
泉は漸くこの国の現状を理解した。
目の前の光景に涙が出そうになった。

次の現場へ向かうためトラックの準備を整ったと美沙が泉に声をかける。

「次は孤児院よ。」



(続く)

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