お待たせしました!!
続きです!
*****
貴方からの距離 8《リクエスト》
突然のキョーコの乱入に、蓮と泉が驚いた表情のまま固まっていた。
「も…がみ…さん…?」
キョーコも思わず飛び出してしまった自分に驚いたのか固まっていた。
三人の間に緊張感が走った。
一番最初に我に返ったのは蓮だった。泉を組みしこうとしていた己の体勢に気付いて、慌てて泉から離れる。
それを見て、キョーコもハッと我に返り、真っ青になったり真っ赤になったりと顔色を変えながらオロオロと逃げ道を探す。
「あ…えっと…その…」
今更、身を隠すことも出来なくて、内心狼狽えながら、ドッキリ大成功と書かれた板を胸に抱き締める。
ーーーわ、私のばかっ!!考えなしに飛び出しちゃうなんて…でも、見たく…なかったんだもん…。
蓮がベッドに泉を押し倒した瞬間、キョーコは飛び出していた。
蓮が泉の良いようにコントロールされるのをこれ以上見たくないと思って咄嗟に出てしまったのだ。
キョーコはギュウッと板を抱き締めた。
いつの間にかベッドに押し倒されていた泉もその体制から慌てて身を起こした。
バスタオルをしっかりと手で押さえてキョーコがいることに少し困惑の表情を浮かべた。
「きょ、京子ちゃん?!な、何でここ、に…?!」
そして言いながらキョーコの抱えた『ドッキリ大成功!!』という文字に気付いた泉は慌てて視界を巡らせ真っ青になった。
「ま…さか…!!」
泉がたじろいだのを見て、キョーコは己を奮い立たせた。
ここで負けたらいけない。そう思ったのだ。
キョーコは一度目を閉じると、気持ちを落ち着け、キッと泉に強い視線をむけた。
ドッキリ大成功の看板をドンっと床に下ろし、それをしっかり読めるように掲げる。
そしてキョーコは静かに言った。
「泉さん、貴方には敦賀さんは相応しくありません!」
キョーコのズバリという言葉に泉の顔が引き攣る。
「な…によ…それ…!私に相応しくないなら誰が蓮に相応しいって言うの?!」
「少なくとも、貴方に敦賀さんは渡しません!!」
キョーコの強い視線に、泉はキョーコの中の泉への憧れがなくなっていることに気付いた。
全てがバレた。カメラに撮られた。
何処から?どんな風に?
泉の足元がガラガラと崩れ落ちて行くような感覚になる。
それでも泉はまだ何処かに何かの間違いだと言う期待を持っていた。
「は、はは、ははは!何を言ってるの?キョーコちゃん!蓮はもう私の彼よ?貴方のものじゃないわ!ねぇ、そうでしょう?蓮…。」
ベッドのそばにいる呆然と佇む蓮に泉が手を伸ばすが、蓮はその手に巻き付かれながら、呆然とキョーコを見つめていた。
蓮の身体を這う泉の手がまるで蛇のように見えて、キョーコの背筋に寒気が走る。
「敦賀さんに触らないでっ!!!!」
咄嗟に叫んだキョーコの言葉に、蓮が目を見開き、信じられないというようにキョーコを見つめた。
「蓮は私のものなの。誰にも渡さないわ。」
「私のものって…敦賀さんを物みたいに…っ!!許せないっ!!敦賀さんは敦賀さんのものよ!!他の誰のものでもないわっ!!」
「離せっ!泉!!」
「きゃあ!蓮!」
泉は蓮に追い縋ろうとするが、キョーコから発せられた何か見えない力に蓮から強制的に引き剥がされた。
見えない何かと泉が格闘していることよりも、蓮はキョーコがここにいることの方が気になったらしく、恐る恐る問いかけていた。
「最上さん…なんで、ここに?今夜は、光君と、デート…なんじゃ…?」
蓮の言葉を受けてキョーコは身の潔白をはっきりと訴えた。
「デートの約束なんてしてません!!第一、光さんとはお付き合いすらしてません!!」
「え…だって…泉が…。」
キョーコの言葉に蓮が狼狽えた。
「う、嘘よ!!何言ってるの?京子ちゃん!」
泉が顔を引きつらせて声を荒らげて半狂乱になって叫んだ。
「デートだって言ってたじゃない!!さっき会った時に嬉しそうに今夜デートするって!」
「そんなこと一度も言ったことありません!泉さんの勝手な作り話です!!それに、今まで光さんと二人っきりで何処かに出掛けたこともありませんし、光さんが好きだと思ったこともありません!そりゃ…先輩として尊敬してはいますけど、光さんに恋心は一切抱いてません!!」
キョーコのぶれない真っ直ぐな目が泉に反論したあとに蓮を見つめる。
「信じてください!敦賀さん…!」
蓮がキョーコの言葉を理解するまでに数秒を要した。
泉が後ろで何やら喚いているが、蓮は目を見開きただただ呆然とキョーコを見つめる。
「本当…に…?」
ゆっくりゆっくり慎重に蓮の脳に入ってきた言葉。全ての言葉を理解して初めに零れた確認の言葉は掠れていた。カラカラに渇いた喉から絞り出した声は弱々しい力でキョーコの耳に辿り着いた。
キョーコは信じてください!という表情を崩さずしっかりと蓮の目を見つめながら頷いた。
「本当です。」
「光君と付き合ってるって話は?」
「でたらめです!」
「光君が好きだというのは…?」
「そんな事実は一切ありません!!だって…だって!!私が好きなのは…敦賀さんなんですっ!!」
真っ赤になって訴えたキョーコの言葉に蓮は目を見開き固まると、数秒後その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
キョーコは慌てて蓮に近寄る。
「ちょ、つ、敦賀さん?!」
大丈夫ですか?!と続けようとした言葉は、蓮に抱き寄せられた勢いで忘れ去られた。
「きゃっ!」
「…良かった…。」
頭を抱え込まれるように抱き締められて、蓮の腕が僅かに震えていることに気付き、キョーコは目を見開き固まりかけたが、久しぶりの敦賀セラピーにゆっくりと目を閉じた。
暫し、その温もりに身を委ね、キョーコが穏やかな気持ちになりかけたところで邪魔が入った。
「ちょっと!なにしてるのよ!私の蓮から離れなさいよっ!!」
泉のヒステリックな叫びは最後の悪足掻きのようだ。
全てを失う恐怖から、正気を失ってしまったらしい。
ベッドのサイドテーブルに置かれたガラスの灰皿を徐に掴むと、それを振り上げ、キョーコ目掛けて振り降ろそうとしたことに蓮がいち早く気付き、キョーコを庇うように身を丸めた。
このままでは蓮が危ない!キョーコがそう思った時だった。
「そこまでだ!!」
ホテルがひっくり返るかと思うほどの迫力のあるドスの効いた声が部屋に響いた。
それと同時にローリィの側近から取り押さえられた泉。
「いやっ!何するの?!離しなさいよ!!いや!!いやっ!!蓮っ!!蓮っ!!」
暴れまくる泉のせいでバスタオルも身体を隠すことを諦めてしまったようにハラリと落ちる。
余りの無様な泉の姿を、蓮はキョーコを抱き締めたまま、キョーコも蓮の腕の中から複雑な表情で見ていた。
「全く、これじゃ映像としては使い物にならんな。折角途中まで面白そうなのが撮れてたのにつまらん。」
社長の言葉に蓮が恨めしそうな目を向ける。
「社長…」
「ふん!スキャンダル知らずのお前が初スクープ撮ったんだ。しっかもお前ともあろうものがまんまと弱みに付け込まれやがって。これは遊ばねぇ手はねえだろ!」
「しゃ、社長、じゃあ敦賀さんが泉さんに遊ばれてるって初めから知ってたんですか?!」
キョーコの驚いたような問いかけにローリィがフンっと鼻で笑う。
「ったりめーだ!俺を誰だと思ってる!愛の伝道師だぞ!本物の愛かそうじゃねぇ愛か見抜けねぇわけねぇだろ!ったく、おい、蓮!お前がいつまでもヘタレてるからこんなややこしいことになったんだろうが!シャキッとしやがれ!」
「………。」
「ふんっ。なっさけねー面しやがって。どうやって泉君を断ち切って最上君に思いを伝えるのかと思って見てればズルズルズルズルと引き摺られやがって。」
「社長…じゃあ泉がホテルに現れたのも…」
「お前のアクションを期待してわざと情報を流してたに決まってんだろ?俺が用意したホテルの部屋が早々見つかってたまるかよっ!!ったく情けねぇ!!大体お前はーーー」
蓮の腕の中で、ローリィの蓮への説教を聞いていたキョーコは居心地の悪さを感じていた。
蓮にこんな風に抱き締められるだけでも恥ずかしいのに、人が見てる前で…しかも蓮のシャツは肌蹴たままで、抱きしめられているのだ。
頬に蓮の素肌が触れていてキョーコの心臓はバクバクだった。
キョーコがもぞもぞと動いたので、蓮はハッとしてキョーコを抱き締める腕を僅かに緩めた。
「あ、あの…は、離してくださ…」
真っ赤な顔で腕の中でワタワタするキョーコが可愛くて、蓮は思わず暫し見つめ、ポツリと否定の言葉を呟いた。
「イヤだ…」
「ふぇ?!」
「最上さんを離したくない。このままがいい…」
「ふえぇぇぇ?!」
「おい蓮!調子に乗るな!お前自分が何やったかわかってねぇわけじゃねぇよな?」
「わかってますけど…離したくないんですよ…。仕方ないじゃないですか。」
プイっと子供のように拗ねたような蓮の仕草を間近で見て、キョーコは目を見開く。
キョーコに至近距離から見つめられてることに気付いて、チラリとキョーコを見た蓮は頬を染めてキョーコを抱き寄せてキョーコの肩に顔を隠した。
「あんまり…見ないで…。」
「わっ!す、すみません!!」
キョーコはハッとして慌てて真っ赤になって答える。
蓮に抱きしめられて肩に蓮の高い鼻が当たる。肩に蓮の顔があると思ったらドキドキと心臓が暴れ出していた。
「ん…。ねぇ、最上さん…。」
「は、はいっ!な、何でしょう?!」
「俺が情けない男で…軽蔑した?」
「い、いえ!してません!軽蔑なんてそんなこと…」
「本当?嫌いになったりしてない…?」
「嫌いになんて…なれたら苦労してません。」
キョーコの返事に蓮が顔を上げた。
キョーコの目をジッと至近距離から覗き込む。
「う、な、なんですか?」
今度はキョーコが恥ずかしくなって目を逸らす。
「ねぇ、さっきのは本当…?」
「さ、さっきのとは…?」
「最上さんが、俺を好きだって話…。」
蓮の言葉にキョーコの顔がボンッと音を立てて真っ赤になる。
「えっと…あの、その…えっと…は、はい…。」
慌てながらも最終的には観念してか細い声で答えながら恥ずかしそうに小さく頷いたキョーコに蓮は嬉しそうに微笑みかけた。
「うれしいよ。俺も、最上さんが好きだ。」
「はぅっ!!えっと…あの…」
泉との会話で聞いていたとはいえ、面と向かって言われた言葉にキョーコは恥ずかしくて真っ赤になるとしどろもどろになった。
それを見ながら蓮が少しだけ寂しそうに眉を下げる。
「ごめんね…。」
サラリとキョーコの頬を撫でながら、蓮がキョーコの髪を耳にかける。
蓮の突然の謝罪にキョーコは首を傾げてキョトンと蓮を見上げた。
「え…?」
「もっと早く、伝えてれば良かった…。」
そんな蓮の言葉に、キョーコは淡く微笑み、蓮の手に己の手を被せた。
「過ぎてしまったことは、悔やんでも仕方ないですよ。大事なのはこれから…だ、と…」
キョーコが言葉を発する唇に蓮が顔を傾けて近付いた。
キョーコは目を見開き咄嗟に慌てて止める。
「にゃ!つ、敦賀さんっ!!」
「…何で、止める…?」
両手でガードして蓮の唇の接近を食い止めると、指の隙間から蓮の不満そうな声が漏れた。
グググググと会話を交わす2人の間で静かな攻防が繰り返される。
「だって…その…」
キョーコがチラリと恥ずかしそうに周りを見て、蓮は漸く周りにいたローリィ達を思い出したとばかりに顔を離した。
「あぁ…。」
蓮がキョーコを抱き締めたまま恨めしげにローリィを見る。
「ったく。余裕なさすぎなんだよ。おめーは!」
ローリィに呆れたように言われて、蓮はむすっと口を結ぶ。
「だって両想いってわかったらキスぐらいするじゃないですか普通…。」
「バーカ!少しは最上君の気持ちも考えろって言ってんだ。ほらっ!」
ローリィが何かを投げ、蓮がそれをキャッチした。
「これは…?」
「ここから3つ上の階の部屋だ。好きに使え。ただし、ガッツいたら嫌われると思え。以上!」
そう言ってポイっと2人一緒に部屋の外に投げ出された。
「泉君のことはこっちで話をつける。ドラマは…残念だが打ち切りになるかもしんねぇな…ま、監督がどう判断するかだがな。」
「そうですね…。」
「最上君、蓮から何か嫌なことされたら拒絶するんだぞ。君にはその権利がある。」
「は、はい!」
「じゃ、俺はこれから泉君と泉君の事務所の社長と話しつけなきゃならねぇからな。もうそろそろあちらさんの社長が来る頃だ。お前らはさっさと行け。」
「はい。あの、社長。」
「あぁ?なんだ?」
「ありがとうございました!そしてこの度はお騒がせし、ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした!」
蓮が深々と頭を下げると、ローリィはふっと口元に笑みを浮かべた。
「本当に大馬鹿ものだ。おめーはよ。ま、後は任せとけ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「あぁ。最上君、こいつはどーしようもねぇ馬鹿野郎だが、蓮を頼めるのは君だけだ。頼んだぞ。」
「は、はい!」
ローリィは最後にもう一度だけふっと笑みを浮かべると、扉を閉めようとした。
ドアの向こうではまだ暴れているのか泉の喚き声が聞こえている。
キョーコは意を決して社長を呼び止めた。
「あの、社長さん!」
「ん?」
「最後に一度だけ泉さんと話せませんか?」
少し驚いたような顔をしたローリィだったが、僅かに頷いた。
「よかろう。」
「ありがとうございます!あの、敦賀さんはここで待っててください。」
「え…でも。」
「お願いします。」
「…わかった。」
ローリィや側近達がいるから大丈夫だろうと己を納得させて、蓮は渋々部屋の外に残った。
そして泉の恐怖に塗れた絶叫が聞こえたと思ったら、キョーコがにこやかな笑顔を浮かべて部屋から出てきた。
「最上さん、何したの…?」
「ふふ。ちょっと。」
キョーコの表情からあまり深く突っ込まない方がいいかも。と思った蓮は、キョーコの手を取る。
「じゃあ…行こうか。」
「!はいっ。」
蓮がキョーコの手をギュと握り歩き出し、キョーコも掴まれた手に頬を染めながら着いて行くのだった。
(続く)
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*****
キョーコさんが何をしたのかは皆様の想像にお任せします!
漸く終わりが見えてきました!!次でラスト…かな?!(*´艸`)
長かった…!!約3年?!それなのに8話って…どんだけ(笑)
続きです!
*****
貴方からの距離 8《リクエスト》
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「も…がみ…さん…?」
キョーコも思わず飛び出してしまった自分に驚いたのか固まっていた。
三人の間に緊張感が走った。
一番最初に我に返ったのは蓮だった。泉を組みしこうとしていた己の体勢に気付いて、慌てて泉から離れる。
それを見て、キョーコもハッと我に返り、真っ青になったり真っ赤になったりと顔色を変えながらオロオロと逃げ道を探す。
「あ…えっと…その…」
今更、身を隠すことも出来なくて、内心狼狽えながら、ドッキリ大成功と書かれた板を胸に抱き締める。
ーーーわ、私のばかっ!!考えなしに飛び出しちゃうなんて…でも、見たく…なかったんだもん…。
蓮がベッドに泉を押し倒した瞬間、キョーコは飛び出していた。
蓮が泉の良いようにコントロールされるのをこれ以上見たくないと思って咄嗟に出てしまったのだ。
キョーコはギュウッと板を抱き締めた。
いつの間にかベッドに押し倒されていた泉もその体制から慌てて身を起こした。
バスタオルをしっかりと手で押さえてキョーコがいることに少し困惑の表情を浮かべた。
「きょ、京子ちゃん?!な、何でここ、に…?!」
そして言いながらキョーコの抱えた『ドッキリ大成功!!』という文字に気付いた泉は慌てて視界を巡らせ真っ青になった。
「ま…さか…!!」
泉がたじろいだのを見て、キョーコは己を奮い立たせた。
ここで負けたらいけない。そう思ったのだ。
キョーコは一度目を閉じると、気持ちを落ち着け、キッと泉に強い視線をむけた。
ドッキリ大成功の看板をドンっと床に下ろし、それをしっかり読めるように掲げる。
そしてキョーコは静かに言った。
「泉さん、貴方には敦賀さんは相応しくありません!」
キョーコのズバリという言葉に泉の顔が引き攣る。
「な…によ…それ…!私に相応しくないなら誰が蓮に相応しいって言うの?!」
「少なくとも、貴方に敦賀さんは渡しません!!」
キョーコの強い視線に、泉はキョーコの中の泉への憧れがなくなっていることに気付いた。
全てがバレた。カメラに撮られた。
何処から?どんな風に?
泉の足元がガラガラと崩れ落ちて行くような感覚になる。
それでも泉はまだ何処かに何かの間違いだと言う期待を持っていた。
「は、はは、ははは!何を言ってるの?キョーコちゃん!蓮はもう私の彼よ?貴方のものじゃないわ!ねぇ、そうでしょう?蓮…。」
ベッドのそばにいる呆然と佇む蓮に泉が手を伸ばすが、蓮はその手に巻き付かれながら、呆然とキョーコを見つめていた。
蓮の身体を這う泉の手がまるで蛇のように見えて、キョーコの背筋に寒気が走る。
「敦賀さんに触らないでっ!!!!」
咄嗟に叫んだキョーコの言葉に、蓮が目を見開き、信じられないというようにキョーコを見つめた。
「蓮は私のものなの。誰にも渡さないわ。」
「私のものって…敦賀さんを物みたいに…っ!!許せないっ!!敦賀さんは敦賀さんのものよ!!他の誰のものでもないわっ!!」
「離せっ!泉!!」
「きゃあ!蓮!」
泉は蓮に追い縋ろうとするが、キョーコから発せられた何か見えない力に蓮から強制的に引き剥がされた。
見えない何かと泉が格闘していることよりも、蓮はキョーコがここにいることの方が気になったらしく、恐る恐る問いかけていた。
「最上さん…なんで、ここに?今夜は、光君と、デート…なんじゃ…?」
蓮の言葉を受けてキョーコは身の潔白をはっきりと訴えた。
「デートの約束なんてしてません!!第一、光さんとはお付き合いすらしてません!!」
「え…だって…泉が…。」
キョーコの言葉に蓮が狼狽えた。
「う、嘘よ!!何言ってるの?京子ちゃん!」
泉が顔を引きつらせて声を荒らげて半狂乱になって叫んだ。
「デートだって言ってたじゃない!!さっき会った時に嬉しそうに今夜デートするって!」
「そんなこと一度も言ったことありません!泉さんの勝手な作り話です!!それに、今まで光さんと二人っきりで何処かに出掛けたこともありませんし、光さんが好きだと思ったこともありません!そりゃ…先輩として尊敬してはいますけど、光さんに恋心は一切抱いてません!!」
キョーコのぶれない真っ直ぐな目が泉に反論したあとに蓮を見つめる。
「信じてください!敦賀さん…!」
蓮がキョーコの言葉を理解するまでに数秒を要した。
泉が後ろで何やら喚いているが、蓮は目を見開きただただ呆然とキョーコを見つめる。
「本当…に…?」
ゆっくりゆっくり慎重に蓮の脳に入ってきた言葉。全ての言葉を理解して初めに零れた確認の言葉は掠れていた。カラカラに渇いた喉から絞り出した声は弱々しい力でキョーコの耳に辿り着いた。
キョーコは信じてください!という表情を崩さずしっかりと蓮の目を見つめながら頷いた。
「本当です。」
「光君と付き合ってるって話は?」
「でたらめです!」
「光君が好きだというのは…?」
「そんな事実は一切ありません!!だって…だって!!私が好きなのは…敦賀さんなんですっ!!」
真っ赤になって訴えたキョーコの言葉に蓮は目を見開き固まると、数秒後その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
キョーコは慌てて蓮に近寄る。
「ちょ、つ、敦賀さん?!」
大丈夫ですか?!と続けようとした言葉は、蓮に抱き寄せられた勢いで忘れ去られた。
「きゃっ!」
「…良かった…。」
頭を抱え込まれるように抱き締められて、蓮の腕が僅かに震えていることに気付き、キョーコは目を見開き固まりかけたが、久しぶりの敦賀セラピーにゆっくりと目を閉じた。
暫し、その温もりに身を委ね、キョーコが穏やかな気持ちになりかけたところで邪魔が入った。
「ちょっと!なにしてるのよ!私の蓮から離れなさいよっ!!」
泉のヒステリックな叫びは最後の悪足掻きのようだ。
全てを失う恐怖から、正気を失ってしまったらしい。
ベッドのサイドテーブルに置かれたガラスの灰皿を徐に掴むと、それを振り上げ、キョーコ目掛けて振り降ろそうとしたことに蓮がいち早く気付き、キョーコを庇うように身を丸めた。
このままでは蓮が危ない!キョーコがそう思った時だった。
「そこまでだ!!」
ホテルがひっくり返るかと思うほどの迫力のあるドスの効いた声が部屋に響いた。
それと同時にローリィの側近から取り押さえられた泉。
「いやっ!何するの?!離しなさいよ!!いや!!いやっ!!蓮っ!!蓮っ!!」
暴れまくる泉のせいでバスタオルも身体を隠すことを諦めてしまったようにハラリと落ちる。
余りの無様な泉の姿を、蓮はキョーコを抱き締めたまま、キョーコも蓮の腕の中から複雑な表情で見ていた。
「全く、これじゃ映像としては使い物にならんな。折角途中まで面白そうなのが撮れてたのにつまらん。」
社長の言葉に蓮が恨めしそうな目を向ける。
「社長…」
「ふん!スキャンダル知らずのお前が初スクープ撮ったんだ。しっかもお前ともあろうものがまんまと弱みに付け込まれやがって。これは遊ばねぇ手はねえだろ!」
「しゃ、社長、じゃあ敦賀さんが泉さんに遊ばれてるって初めから知ってたんですか?!」
キョーコの驚いたような問いかけにローリィがフンっと鼻で笑う。
「ったりめーだ!俺を誰だと思ってる!愛の伝道師だぞ!本物の愛かそうじゃねぇ愛か見抜けねぇわけねぇだろ!ったく、おい、蓮!お前がいつまでもヘタレてるからこんなややこしいことになったんだろうが!シャキッとしやがれ!」
「………。」
「ふんっ。なっさけねー面しやがって。どうやって泉君を断ち切って最上君に思いを伝えるのかと思って見てればズルズルズルズルと引き摺られやがって。」
「社長…じゃあ泉がホテルに現れたのも…」
「お前のアクションを期待してわざと情報を流してたに決まってんだろ?俺が用意したホテルの部屋が早々見つかってたまるかよっ!!ったく情けねぇ!!大体お前はーーー」
蓮の腕の中で、ローリィの蓮への説教を聞いていたキョーコは居心地の悪さを感じていた。
蓮にこんな風に抱き締められるだけでも恥ずかしいのに、人が見てる前で…しかも蓮のシャツは肌蹴たままで、抱きしめられているのだ。
頬に蓮の素肌が触れていてキョーコの心臓はバクバクだった。
キョーコがもぞもぞと動いたので、蓮はハッとしてキョーコを抱き締める腕を僅かに緩めた。
「あ、あの…は、離してくださ…」
真っ赤な顔で腕の中でワタワタするキョーコが可愛くて、蓮は思わず暫し見つめ、ポツリと否定の言葉を呟いた。
「イヤだ…」
「ふぇ?!」
「最上さんを離したくない。このままがいい…」
「ふえぇぇぇ?!」
「おい蓮!調子に乗るな!お前自分が何やったかわかってねぇわけじゃねぇよな?」
「わかってますけど…離したくないんですよ…。仕方ないじゃないですか。」
プイっと子供のように拗ねたような蓮の仕草を間近で見て、キョーコは目を見開く。
キョーコに至近距離から見つめられてることに気付いて、チラリとキョーコを見た蓮は頬を染めてキョーコを抱き寄せてキョーコの肩に顔を隠した。
「あんまり…見ないで…。」
「わっ!す、すみません!!」
キョーコはハッとして慌てて真っ赤になって答える。
蓮に抱きしめられて肩に蓮の高い鼻が当たる。肩に蓮の顔があると思ったらドキドキと心臓が暴れ出していた。
「ん…。ねぇ、最上さん…。」
「は、はいっ!な、何でしょう?!」
「俺が情けない男で…軽蔑した?」
「い、いえ!してません!軽蔑なんてそんなこと…」
「本当?嫌いになったりしてない…?」
「嫌いになんて…なれたら苦労してません。」
キョーコの返事に蓮が顔を上げた。
キョーコの目をジッと至近距離から覗き込む。
「う、な、なんですか?」
今度はキョーコが恥ずかしくなって目を逸らす。
「ねぇ、さっきのは本当…?」
「さ、さっきのとは…?」
「最上さんが、俺を好きだって話…。」
蓮の言葉にキョーコの顔がボンッと音を立てて真っ赤になる。
「えっと…あの、その…えっと…は、はい…。」
慌てながらも最終的には観念してか細い声で答えながら恥ずかしそうに小さく頷いたキョーコに蓮は嬉しそうに微笑みかけた。
「うれしいよ。俺も、最上さんが好きだ。」
「はぅっ!!えっと…あの…」
泉との会話で聞いていたとはいえ、面と向かって言われた言葉にキョーコは恥ずかしくて真っ赤になるとしどろもどろになった。
それを見ながら蓮が少しだけ寂しそうに眉を下げる。
「ごめんね…。」
サラリとキョーコの頬を撫でながら、蓮がキョーコの髪を耳にかける。
蓮の突然の謝罪にキョーコは首を傾げてキョトンと蓮を見上げた。
「え…?」
「もっと早く、伝えてれば良かった…。」
そんな蓮の言葉に、キョーコは淡く微笑み、蓮の手に己の手を被せた。
「過ぎてしまったことは、悔やんでも仕方ないですよ。大事なのはこれから…だ、と…」
キョーコが言葉を発する唇に蓮が顔を傾けて近付いた。
キョーコは目を見開き咄嗟に慌てて止める。
「にゃ!つ、敦賀さんっ!!」
「…何で、止める…?」
両手でガードして蓮の唇の接近を食い止めると、指の隙間から蓮の不満そうな声が漏れた。
グググググと会話を交わす2人の間で静かな攻防が繰り返される。
「だって…その…」
キョーコがチラリと恥ずかしそうに周りを見て、蓮は漸く周りにいたローリィ達を思い出したとばかりに顔を離した。
「あぁ…。」
蓮がキョーコを抱き締めたまま恨めしげにローリィを見る。
「ったく。余裕なさすぎなんだよ。おめーは!」
ローリィに呆れたように言われて、蓮はむすっと口を結ぶ。
「だって両想いってわかったらキスぐらいするじゃないですか普通…。」
「バーカ!少しは最上君の気持ちも考えろって言ってんだ。ほらっ!」
ローリィが何かを投げ、蓮がそれをキャッチした。
「これは…?」
「ここから3つ上の階の部屋だ。好きに使え。ただし、ガッツいたら嫌われると思え。以上!」
そう言ってポイっと2人一緒に部屋の外に投げ出された。
「泉君のことはこっちで話をつける。ドラマは…残念だが打ち切りになるかもしんねぇな…ま、監督がどう判断するかだがな。」
「そうですね…。」
「最上君、蓮から何か嫌なことされたら拒絶するんだぞ。君にはその権利がある。」
「は、はい!」
「じゃ、俺はこれから泉君と泉君の事務所の社長と話しつけなきゃならねぇからな。もうそろそろあちらさんの社長が来る頃だ。お前らはさっさと行け。」
「はい。あの、社長。」
「あぁ?なんだ?」
「ありがとうございました!そしてこの度はお騒がせし、ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした!」
蓮が深々と頭を下げると、ローリィはふっと口元に笑みを浮かべた。
「本当に大馬鹿ものだ。おめーはよ。ま、後は任せとけ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「あぁ。最上君、こいつはどーしようもねぇ馬鹿野郎だが、蓮を頼めるのは君だけだ。頼んだぞ。」
「は、はい!」
ローリィは最後にもう一度だけふっと笑みを浮かべると、扉を閉めようとした。
ドアの向こうではまだ暴れているのか泉の喚き声が聞こえている。
キョーコは意を決して社長を呼び止めた。
「あの、社長さん!」
「ん?」
「最後に一度だけ泉さんと話せませんか?」
少し驚いたような顔をしたローリィだったが、僅かに頷いた。
「よかろう。」
「ありがとうございます!あの、敦賀さんはここで待っててください。」
「え…でも。」
「お願いします。」
「…わかった。」
ローリィや側近達がいるから大丈夫だろうと己を納得させて、蓮は渋々部屋の外に残った。
そして泉の恐怖に塗れた絶叫が聞こえたと思ったら、キョーコがにこやかな笑顔を浮かべて部屋から出てきた。
「最上さん、何したの…?」
「ふふ。ちょっと。」
キョーコの表情からあまり深く突っ込まない方がいいかも。と思った蓮は、キョーコの手を取る。
「じゃあ…行こうか。」
「!はいっ。」
蓮がキョーコの手をギュと握り歩き出し、キョーコも掴まれた手に頬を染めながら着いて行くのだった。
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