貴方と出逢うその日の為に《中編》


「キョーコ。そろそろ起きようか?」
「お母さん、お腹空いた~!!」
二人の声でハッと我に返ったキョーコは慌てて返事をする。
「あ、そ、そうね!」
「じゃあ、翔、顔を洗って歯磨きしてきなさい。」
「はぁーい。」
聞き分けのいい翔は、そのお父さんの言葉に返事をすると洗面所へと向かった。

それを見送るお父さんと呼ばれてる男の顔を伺うように見る。

ーーー私がお母さんで、この人がお父さんってことは…私の旦那さんってこと?!こ、こんなに綺麗な人が?!

キョーコに見られてることに気付いたのか、翔のお父さんがキョーコを見つめた。
不思議そうな顔で、キョーコの顔をマジマジと見つめる。
至近距離で見つめられたキョーコは頬を赤く染めながら上目遣いでお父さんを見た。

「キョーコ…本当にどうしたの?」

心配そうなその顔をむけて、指でキョーコの頬を撫でたり、髪を弄んだりしながら問いかける。

「あ、あの…私も何が何だか…。」
混乱した顔をキョーコも向ける。

「君は、タレントの京子であり、俺のキョーコだろう?」

片方の手は、保冷剤を使って頬を冷やしている。
不安に揺れる目で見つめられて、キョーコも益々不安になる。

「あの、それがよくわからなくて…たしかに、私はタレントの京子ですが…貴方は…一体あの…どなたなんでしょうか?」

その言葉に、蓮は目を見開いた。

「なっ?!それは…どういうこと?!」
「あ、あの、私…結婚なんて…それに、貴方は誰なんです?敦賀さんにしては、目と髪が違いすぎるし…でも、とってもそっくりで…。」
「…俺が…わからないの?!も、もしかして記憶喪失?!」
驚いた顔でマジマジとキョーコを見つめる。
「俺は君の夫の、久遠ヒズリだよ。日本での芸名は、敦賀蓮。幼い頃、俺はコーンとして君と出会って、敦賀蓮として事務所で再会を果たしたじゃないか。」
「ええええぇ?!つ、敦賀さん?!敦賀さんがコーンなの?!」
「うん。そうだけど…何処までなら記憶があるの?」
「え?!何処までって…?」
「君は、今いくつなの?」
「今年…19歳になりました。さっきまで敦賀さんと共演中で、確か…。あっ!私、ふらついちゃって、セットを倒してしまって…そ、それに敦賀さんの声が最後にっーーー」
キョーコの顔がさぁっと青褪めた。

セットを壊しただけで飽き足らず、もしかしたら大先輩を事故に巻き込んでしまったかもしれない。
その事が恐ろしくて、キョーコが狼狽えてる間に、蓮は考え込んだ。
「あぁ…あの時かーー。」
記憶の糸を辿ると、思い浮かぶ出来事があったのだろう。蓮は、それを思い出すと、ふっと口元を綻ばせて安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だよ。あの時は怪我と言ってもかすり傷程度だし、今もこの通りピンピンしてるよ。セットも倒れただけで、壊れたりしてないし、大丈夫だったよ?」
蓮の言葉に、キョーコは少しだけ申し訳なさそうに眉を下げて謝った。
「本当に、申し訳ありませんでした。」
「うん。大丈夫だよ。あの時は君の意識が中々戻らなくて、生きた心地がしなかったけど、ちゃんと戻ってきてくれたから安心したんだ。」
蓮の微笑みに、キョーコは頬を赤くしておずおずと見上げる。
すると、蓮は片手で顔を覆って、赤くなる頬を隠した。
「だから、その顔は反則だって。」
ぽそりと呟いた蓮の言葉にキョーコはキョトンと小首を傾げた。
蓮は、大きく息を吐き出すともぞもぞと動いた。
「とりあえず、着替えようか…。今の君にはちょっと刺激が強すぎるだろうから少しだけ目を瞑っててくれる?」
「え??」
蓮は、そう言うとのそりと身体を起こした。そこに見えたのは鍛え抜かれた綺麗な背中で、キョーコの心臓がバクバクと激しく動く。
真っ赤にした顔を慌てて逸らして、蓮に背中を向けて目を瞑る。
服を身に付ける音をドキドキと意識しながら聞いていた。知らぬ間にクッションをギュッと抱え込んでいた。

「もう服を着たからいいよ。」
そう声を掛けられて、ホッとして後ろを振り向いてみたところ、そこにはスラックスを穿いて上半身裸の状態の蓮がいた。
「きゃー!!!!つ、敦賀さんの嘘つきぃ!!着るなら上までしっかりきてくださぁぁぁぁい!!」
真っ赤になったキョーコが布団の中から叫んだ。
「うん。ちょっと待ってね。その前に君が着るものが必要だろう?」
そう言うと、蓮が下着を物色して、その中から無難そうなのを引っ張り出した。
合わせて服も見繕い、キョーコに渡すと、キョーコは真っ赤になって固まって口をパクパクさせてしまった。
「はい。これを着て?じゃあ俺は顔を洗ってくるよ。」
良いながら蓮がTシャツを身につける。
「なっ!なっ!!」
「ん?もっと際どい下着が良かった?」
「は、破廉恥よぉ~~!!!!」
そうやって叫ぶキョーコをからかう様に楽しそうに笑いながら、蓮は、部屋を出ていったのだった。


ドアを閉めた所で、蓮はニコリと蕩けんばかりに微笑んだ。
「これが、キョーコの良く話して聞かせてくれた不思議な出来事かな?だとすると、翔と2人で過去の俺の為に頑張らなきゃな。」
蓮は、息を吐き出すと決意を新たに「よしっ!」と、気合いを入れて洗面所にむかった。


「頂きまぁす。」
「頂きます。」
「はい。どうぞ。召し上がれ。」
今の現状に戸惑いながらも、お腹は空くわけで、同じくお腹を空かせた子がいるわけで…キョーコは家にあった食材で朝食を作った。
「わぁ!!美味しい~。」
嬉しそうに無邪気な笑顔を向けてくれる子供の言葉に少し照れながらも喜ぶキョーコ。
「あ、ありがとう…えっと…翔…君?」
「うん。お母さんの料理は日本一だね。」
「翔。お母さんの料理は世界一だ。残さず食べるんだぞ。じゃないと父さんみたいに大きくなれないからな。」
「うん!僕もお父さんみたいに大きくなりたいからお母さんの料理をいっぱい食べるよ!」
そんな二人の会話を聞いて、思わずキョーコは口にいれていたお味噌汁を吹き出しそうになった。
慌てて飲み込んで、咳込むと蓮が心配そうに覗き込んで、大きな手が背中を摩った。

「キョーコ?どうしたの?大丈夫?」
ごほっごほっと咳き込みながらも、先程の会話が面白くて堪らないキョーコは、クスクスと笑いながら、蓮の手を制した。
「ぷっ。ふふっ。つ、敦賀さんが食事の大切さを子供に諭すだなんて…。」
クスクスクスクス笑うキョーコに、蓮は、バツが悪そうに視線を逸らす。
「それは…君と一緒に住むようになってからは、毎日三食しっかり食べるようになったんだよ?」
「ふふ。そうなんですね。嬉しいです。」
「うん。君のお陰だ。本当にありがとう。」
神々スマイルで微笑まれて、キョーコの頬が真っ赤に染まる。
「も、もう。敦賀さん…。」
「"久遠"」
「え?」
「ここでは久遠って呼んでね?いつもキョーコはそう呼ぶんだ。」
「く、久遠?」
「そう。久遠。」
キョーコに名を呼ばれて嬉しそうに微笑んだ蓮に、キョーコは不思議な感覚を覚えるのだった。
「ごちそうさまでした!」
久遠と会話をしていたら、いつの間にか息子は食べ終わっていたらしい。
満足そうな笑顔で両手を合わせると、カチャカチャと食器を重ねて立ち上がった。
それを見てキョーコが目を見張る。

キッチンには翔専用の台があるらしくガタガタと音がしたかと思うと、水を流す音が聞こえた。

「わぁ!翔君、偉いですね!!」
「あぁ、お利口さんだろ?可愛くて優しくて、運動神経も抜群なんだ。頭も良いし、何より笑顔が宝石のような輝きだ。」
誇らしく言う久遠にクスクスと笑いながらキョーコも翔を褒める。
「ふふふ。敦賀さんって子供好きだったんですね?翔君って本当に、敦賀さんにとってもソックリです。敦賀さん二世って感じがします。流石は敦賀さんのお子さんですね!」
ホクホクとした顔で言うと、じっと甘やかな顔で頬杖付いて見つめられていることに気付いた。
「え…あの?」
「君の子供でもあるんだよ?」
「へ?」
「俺と君の子だから、翔は本当に可愛くて可愛くて堪らないんだ。」
目を細めて心底愛おしいという視線を向けられ、キョーコの心臓が跳ね、頬がカァッと赤くなる。
「君は、きっと過去からタイムスリップして来たんだろう?いつ戻れるかなんて考えても始まらないし、とにかく今日は翔と一緒に遊んであげて?俺も君も今日は奇跡的にオフだし、翔を遊びに連れて行く約束もしてたしね。」
「あ…はい。」
キョーコは久遠の提案に頷いた。
「多分、今の俺を見て色々疑問に思うことはあるだろうけど、それは過去に戻ったときに過去の俺に直接聞くと良いよ。とにかくここでは今、俺の名前は久遠ヒズリで、君も俺のことは久遠って呼んでる。君の名前はキョーコヒズリ。翔は君の息子で今年6歳になったばかりだ。翔のことも、呼び捨てで呼んでるよ。」
「は、はい。」
「さてと、じゃあ出掛ける支度をしようか。何か手伝うことある?」
「あ!洗濯機の中の洗濯物。お願い出来ますか?」
「了解。」
そう言って、久遠は去り際にさも当然とばかりにキョーコのコメカミにキスを落とした。
あまりにもナチュラルにキスをされ、一瞬ポカントなってしまったが、すぐにポンっと音を立てて真っ赤になった。
そんな姿が新鮮に写ったのか、本当に楽しそうに久遠はクスクスと笑うと、洗濯機へと向かうのだった。


(続く)


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さぁ、家族でお出かけです♪
どこにいかせましょうか?(笑)
希望ある方いるかな??

※この作品は風月のブログ半年記念andアメンバー様400人で募集したリクエストを元にした作品です。
アメンバー様に捧げますので、お持ち帰りは一声かけてご自由にどうぞ♪