ひかりさんとの初コラボ作品、携帯からだと見えないというご指摘を頂いたので、わけて再度UPしております。
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昔々の物語*後編★
木陰から二人の様子を伺っていたヤシロは、クオン王子の言葉と行動に大量の砂を吐いておりました。
ちゅっという密かな音を残して離れた唇に、キョーコはパアッと頬を薔薇色に染めます。
慌てて口を手で覆いましたが、まだレンから贈られたキスの感触が忘れられません。
どんどん真っ赤になるキョーコをレンはぎゅうっと抱き締めました。
その抱擁は本当に大切な宝物として抱きしめられているようで、キョーコはドキドキと打ち鳴らす心臓を抑えるのが大変でした。
「れ、レン様っ!い、今…のは…。」
「ごめんね。君の唇が余りにも美味しそうで、我慢が出来なかったんだ。」
レンはキョーコに、本音をわざとイタズラっぽく零しました。
「お、おいしっ?!?!」
キョーコがプチパニックになって狼狽えるのを、レンは苦笑しながら眺めていました。
いつまでも自分の思考にハマったまま、戻ってこないキョーコに、レンはキョーコを現実の世界に戻すために、キョーコの頬に口付けました。
「れ、レン様っ!!」
キョーコが真っ赤になって批難の声を飛ばしても、レンには効果がありません。何故ならキョーコの態度や様子を見ても、嫌がっているような素振りが見られなかったからです。
「キョーコ姫…返事を聴かせて?私は君をモガミの家から攫って、私だけのものにしたい。」
「わ…たしが、レン様のものに…?」
「キョーコ姫…、私は怪盗だ。もし、君が、このどこの誰とも分からない男の、仮面の下に何を隠してるか分からないこの私の妻になると約束してくれるなら、私は君を不幸に縛るモガミの家から開放してあげよう。」
キョーコはそのレンの提案に目を見開きポトリと涙を零しました。
「私を…必要として下さるの?」
「あぁ、私はこの世界や国を敵に回したとしても、君を幸せにしたい。君の笑顔を守りたい。」
「レン、さま…」
キョーコの目からはポロポロポロポロと涙が溢れました。
初めて人に必要とされたキョーコは嬉しくて溜まりませんでした。
そんなキョーコをレンは優しく抱きしめます。
キョーコは泣き止むと、ようやくレンに返事をしました。
「貴方が、どこのどなたでも構いません。貴方のその隠れたお顔に何か隠してることがあったとしても、私は貴方と一緒にいたい。」
キョーコ姫は、ギュッと縋るようにレンに抱きつきました。
「どうか、私を攫って下さいませ。レン様っ!」
「一生…モガミの家と縁を切っても?」
「構いません。私は母に見捨てられてるの。誘拐されても、きっと気付きもしないわ。」
「君が俺から離れたいと言っても、俺は君を離さないかもしれないよ?」
「私が貴方から離れたくなるなんてあり得ませんよ?」
「…私はとっても貧しい暮らしをしているかもしれないよ?」
「貴方が側にいてくださるなら、私はどんな世界でも生きていけます。」
キョーコのはっきりとした意志のある言葉を聞いて、レンは喜びで震えました。
「キョーコ姫っ!やっと見つけた!!私だけの…女神っ!!」
レンはキョーコをぎゅうぎゅうに抱き締めました。
「れ、レン様っ!苦しいです。」
「あ、ご、ごめんね。嬉しくってつい。」
そう言ってレンは慌ててキョーコの身体を開放しました。
暫し時が止まったように見つめ合う二人。
レンの顔がキョーコに近付き、キョーコの目がそっと閉じられます。
二人は何処までも甘いキスを交わしながら、これから先の未来を約束するのでした。
「今から君を、攫ってもいいかい?」
「ええ、レン様。嬉しいです。」
キョーコは頬を染めて微笑みました。
「じゃあ、君に私の本当の姿を見せなければならないね。いつまでも仮面のままと言うわけにはいかない。」
「え…!いいのですか?」
キョーコは驚きで目を見開きました。
レンに惹かれれば惹かれるほど、レンの全てが知りたくなり、例え何か大きな傷があったとしても構わないから仮面の下のお顔を拝見したいと思っていたのです。
レンはそんなキョーコに優しく微笑むと、そっと、キョーコの目を布で覆いました。
「キョーコ姫。しばらくは外を見ないで。君を驚かせたいんだ。私の家に連れて行くから黙って私に捕まってね。」
レンは、キョーコに首に腕を回させて横抱きにすると、キョーコを抱いたまま夜の闇の中消えて行きました。
視界を遮られているキョーコは、どこに連れていかれるのかわからないながらも、レンのことは信用していたので、不思議と恐怖心はありませんでした。
レンの体温と香りだけがキョーコを安心させてくれます。
「ヤシロ、姫を我が妃に迎える準備を。あと、モガミの家にこの文を届けて欲しい。」
「御意。」
レンの言葉に、手短に反応したヤシロは、さっと身を翻していきました。
レンからそっと降ろされたのはとても柔らかい場所で、それがベッドであることにキョーコは気付きました。ふかふかの柔らかいベッドは心地良く、絹のような滑らかさがあり、キョーコはうっとりとしておりました。
スルッと目に当てた布が取り払われ、視界が開けたキョーコが目を開くと、レンが近くからキョーコの顔をキラキラとした目で嬉しそうに覗き込んでいました。
キョーコの頬に優しく口付けて、レンはキョーコに背を向けると、その仮面を外す仕草をします。
キョーコの心臓がドキドキと鼓動を刻みました。
ゆっくりとキョーコを振り返るその姿が、まるでスローモーションのように、キョーコの目に映りました。
「レン…さまっ」
初めて見るレンの顔は、息を飲むほどの美しさで、キョーコは魅入られたように目を見開いて見つめました。
そんなキョーコにクスリと微笑んだレンはキョーコを寝かせたベッドの隣にいそいそと入ってきました。
「あ、レ、レン様?!」
「うん?どうしたの?」
「いえ、あの…」
モゴモゴと真っ赤になって口籠るキョーコの唇に、レンはそっとキスを贈ります。
「大丈夫だよ。今日はこれ以上のことはしないから。ただ君の温もりを感じて眠りたいんだ。」
レンの言葉に、キョーコは嬉しそうにこっそりハニカムと、レンに身を寄せました。
レンはそのキョーコの温もりを抱きしめると、指を鳴らしました。
その音を受けてフっと部屋から灯りがなくなると、レンとキョーコは互いの鼓動を子守唄に二人仲良く夢の世界へと旅立って行きました。
翌朝、キョーコの母親には怪文書が届けられました。
『親愛なるサエナ=モガミ。
私は昨晩、モガミから一際輝く宝石を頂戴いたしました。
モガミで必要ないと言うのであれば、私は麗しき姫をそなたの家に返すつもりはありません。
その時はキョーコ=モガミは、モガミと縁を切り、私の嫁にいたす所存である。
怪盗 レン』
そんな怪しげな文を届けられても、サエナは興味を示しませんでした。
ふん。と、一瞥すると狼狽えることなく、苦々しげに言い放ったのです。
「せいせいするわね。あんな娘、何処かに売り飛ばされたって文句言わないわよ。」
サエナの言葉に、文を届けたヤシロは渋い顔をして帰路に着いたのでした。
(続く)