昔々の物語*中編☆☆
「ねぇ、レン様…私、どうしても行きたい所があるの。」
それから数日経つと、キョーコは自力でも起き上がれるくらいに回復していました。
キョーコは今ではレンにすっかり心を許して甘えるようにもなりました。
レンはそれが嬉しくて嬉しくてしょうがありません。
キョーコの願いは何でも叶えてあげたいのです。
「うん。いいよ。どこに行きたいの?」
「ふふふ。行くまで秘密です。」
キョーコは何かを秘めるような笑顔を向けました。
レンは、何か隠し事をしてるのだろうか?と首を傾げながらも、キョーコの期待をする様な目に抗えず、キョーコと出掛ける約束をしたのでした。
夜は冷えるので、キョーコが寒くないようにレンはあれこれと世話を焼きます。
そんなレンにキョーコはくすぐったい気持ちになりながら、クスクスと笑いました。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」
「だって、まだ冷えるし、君はやっとベッドから出られるようになったばかりじゃないか…。何かあってから後悔しても遅いだろう。」
「もう!レン様ったら心配症なんですから。」
クスクスと微笑むキョーコは天使のようで、レンは眩しそうにその笑顔を目を細めてみていました。
「じゃあ行こうか。キョーコ姫。」
「はい。レン様。」
レンはキョーコに手を差し出すと、キョーコはその手を取り、ふんわりと微笑みました。
レンの大きな手にエスコートされて、キョーコは生まれて初めて男性に対してドキドキと心臓を高鳴らせていました。
その心臓の音を隠すように、わざと明るくはしゃぎます。
「ほら!レン様!!早く早く!!」
その無邪気な笑顔に、レンは胸の内に生まれる暖かい気持ちを育てながら、キョーコに手を惹かれるままに進むのでした。
「ここは…!!」
レンはキョーコに連れられて着いた場所に大きく目を見開きました。
そこはレンにとっても懐かしく大切な想い出の場所だったのです。
森の奥まった所にある大きな泉。その周りはお花畑になっていました。
泉は、月や星の光が当たっているのか不思議と幻想的な輝きを放っていました。
キョーコは突然駆け出すと、花畑の真ん中で立ち止まりそのままドレスの裾をフワリと翻しながら蓮に嬉しそうに振り返りました。
キョーコの後ろには煌めく泉、夜空には沢山の星と丸い月。
まるで一枚の絵画の様なその姿に、レンは一瞬息をすることも忘れ見惚れてしまいました。
「ここは、私の想い出の場所なんです。私の秘密の場所…。」
そう言って懐かしそうに目を細めて森を見回すキョーコに、レンは胸を高鳴らせました。
「秘密…?」
某然と聞くレンに、キョーコは頬を染めてハニカミます。
「ええ。私とある人の想い出の場所なんです。」
「何で…その場所に俺を?」
言葉を絞り出しながら、緊張の為、レンの喉はカラカラになっていました。
「急にレン様と来たくなったんです。ここの場所をレン様に見てもらいたくなったの。」
何故かは分からないんですけどね。と言葉を続けながら、無邪気に笑うキョーコをみて、レンは幼い日に出会った女の子の笑顔と目の前のキョーコの笑顔が重なりました。
キョーコという名前から、まさか…という思いは元々レンの中にもあったのです。でもそんな都合のいい、運命のような出会いが本当にあるとも思っていませんでした。
あの夏の日のキョーコちゃんとはもう会うことはないだろうとずっと思っていたのです。
クオンは10歳の夏にキョーコちゃんと出会いました。
ずっとお城の中で監視の目がある中、やんちゃな年頃だったクオンはその目を盗んでこっそりお城から抜け出して一人で出かけたいと常々思っておりました。
それが叶った日に、クオンはキョーコちゃんと出会ったのです。
泣いてるキョーコを見つけて優しいクオンは放っておけず、頭を撫でてやりました。
不思議そうに見つめる大きな澄んだ瞳に自分の姿が映ります。
途端に悲しみの涙で濡れていたお顔がパアッと輝き、興奮気味に話しかけられました。
『貴方、妖精さん?!』
王子という肩書きだけで、気を遣われることに疲れていた王子は、キョーコの期待に答えることにしました。
『うん。そうだよ。僕の名前はクオン。君の名前は?』
『私はね、キョーコっていうのよ!』
それが二人の出会いでした。
でも、会うことが出来たのはほんの数日。
抜け出す所を庭師に見つかってしまったクオンは、抜け道に使っていた穴を塞がれてしまったのです。
それからクオンは、その泉のある森に行くことが出来なくなりました。
探そうと思えば、王子の権限を使って、キョーコを探すことが出来たかもしれません。
でも、キョーコちゃんのことは名前と年齢ぐらいしかわかりません。それに、キョーコという名前はこの国では珍しい名前でもなかったのです。
あの時のキョーコちゃんもまだ幼かったので、自分の事など多くいる友達の内の一人で忘れているかもしれないという気持ちも言い訳にして、クオンはキョーコをあえて探すという事もしていませんでした。
そのキョーコが今、目の前にいるのです。
レンはキョーコこそが自分の運命の相手なのではないか。いや、そうであって欲しいと、強く願うようになっていました。
「レン様?レン様、どうなさったの?」
キョーコに顔を不思議そうに覗き込まれ、ようやくレンは、自分の思考に浸っていたということに気付きました。
「いや…なんでもないよ。」
レンはくすっと微笑むと、誤魔化すように、しゃがみこんで綺麗な花を一輪摘みました。
首を傾げるキョーコの髪に、レンはその花を髪飾りのように差し込むと仮面の下に蕩けるような笑みを浮かべてキョーコに言いました。
「あぁ、本当に凄く、綺麗だ…」
レンの言葉に、キョーコは恥ずかしそうにハニカミました。
「キョーコ姫、寒くないかい?」
「ふふ。平気っ。見て見て、レン様!!お星様が降ってくるみたいよ!!あっ!!流れ星!!」
キョーコはレンと花畑の真ん中に腰を下ろして、夜空を見上げていました。
そんなキョーコに微笑んだ蓮は、キョーコの隣にコロンと横になりました。
「レン様?どうされたの?汚れちゃうわ。」
「平気だよ。こうした方が星が見やすいかなぁって思ったんだ。」
「そうね。その方が見やすそう。」
無邪気な顔で言うレンに、クスクスと笑いながら、キョーコもレンを見習ってレンの隣に横になりました。
「キョーコ姫っ!汚れてしまうよ。」
「構いませんわ。ふふふ。本当によく見える。」
「もう…君は…。仕方ない。少し頭を持ち上げてくれる?」
「え?こう…ですか?」
「うん。」
そう言って頭を浮かせたキョーコの首の後ろに、レンは自分の腕を起き、キョーコの頭を守るようにしました。
「れ、レン様っ!!」
キョーコが慌てた声を出すのをレンは可笑しそうに笑いながら言いました。
「ほら、あんまり騒ぐと、星がびっくりして逃げてしまうよ?」
本当に星が逃げ出すなんてことはありませんが、キョーコはレンの言葉を信じたのか慌てて口を塞ぎました。
そんなキョーコが可愛くて、愛しくて堪らないレンは、キョーコをそっと抱き寄せて、キョーコの額にちゅっと優しく口付けました。
顔をカァッと頬を赤らめたキョーコに、レンは蕩けるような笑みを浮かべます。
「君は…本当に可愛いね。キョーコ姫。」
「れ、レン様!!レン様も…かっこいいですよ?」
レンはそんなキョーコに、ここ最近ずっと秘めていた想いを口にすることに決めました。
「キョーコ姫、本当に君を攫ってもいいかい?私は、君が欲しい…。」
レンはそう言うと、キョーコの頬を手で包み込んで、驚きで目を見開いているキョーコの唇にそっと唇をかさねたのでした。
(続く)
「ねぇ、レン様…私、どうしても行きたい所があるの。」
それから数日経つと、キョーコは自力でも起き上がれるくらいに回復していました。
キョーコは今ではレンにすっかり心を許して甘えるようにもなりました。
レンはそれが嬉しくて嬉しくてしょうがありません。
キョーコの願いは何でも叶えてあげたいのです。
「うん。いいよ。どこに行きたいの?」
「ふふふ。行くまで秘密です。」
キョーコは何かを秘めるような笑顔を向けました。
レンは、何か隠し事をしてるのだろうか?と首を傾げながらも、キョーコの期待をする様な目に抗えず、キョーコと出掛ける約束をしたのでした。
夜は冷えるので、キョーコが寒くないようにレンはあれこれと世話を焼きます。
そんなレンにキョーコはくすぐったい気持ちになりながら、クスクスと笑いました。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」
「だって、まだ冷えるし、君はやっとベッドから出られるようになったばかりじゃないか…。何かあってから後悔しても遅いだろう。」
「もう!レン様ったら心配症なんですから。」
クスクスと微笑むキョーコは天使のようで、レンは眩しそうにその笑顔を目を細めてみていました。
「じゃあ行こうか。キョーコ姫。」
「はい。レン様。」
レンはキョーコに手を差し出すと、キョーコはその手を取り、ふんわりと微笑みました。
レンの大きな手にエスコートされて、キョーコは生まれて初めて男性に対してドキドキと心臓を高鳴らせていました。
その心臓の音を隠すように、わざと明るくはしゃぎます。
「ほら!レン様!!早く早く!!」
その無邪気な笑顔に、レンは胸の内に生まれる暖かい気持ちを育てながら、キョーコに手を惹かれるままに進むのでした。
「ここは…!!」
レンはキョーコに連れられて着いた場所に大きく目を見開きました。
そこはレンにとっても懐かしく大切な想い出の場所だったのです。
森の奥まった所にある大きな泉。その周りはお花畑になっていました。
泉は、月や星の光が当たっているのか不思議と幻想的な輝きを放っていました。
キョーコは突然駆け出すと、花畑の真ん中で立ち止まりそのままドレスの裾をフワリと翻しながら蓮に嬉しそうに振り返りました。
キョーコの後ろには煌めく泉、夜空には沢山の星と丸い月。
まるで一枚の絵画の様なその姿に、レンは一瞬息をすることも忘れ見惚れてしまいました。
「ここは、私の想い出の場所なんです。私の秘密の場所…。」
そう言って懐かしそうに目を細めて森を見回すキョーコに、レンは胸を高鳴らせました。
「秘密…?」
某然と聞くレンに、キョーコは頬を染めてハニカミます。
「ええ。私とある人の想い出の場所なんです。」
「何で…その場所に俺を?」
言葉を絞り出しながら、緊張の為、レンの喉はカラカラになっていました。
「急にレン様と来たくなったんです。ここの場所をレン様に見てもらいたくなったの。」
何故かは分からないんですけどね。と言葉を続けながら、無邪気に笑うキョーコをみて、レンは幼い日に出会った女の子の笑顔と目の前のキョーコの笑顔が重なりました。
キョーコという名前から、まさか…という思いは元々レンの中にもあったのです。でもそんな都合のいい、運命のような出会いが本当にあるとも思っていませんでした。
あの夏の日のキョーコちゃんとはもう会うことはないだろうとずっと思っていたのです。
クオンは10歳の夏にキョーコちゃんと出会いました。
ずっとお城の中で監視の目がある中、やんちゃな年頃だったクオンはその目を盗んでこっそりお城から抜け出して一人で出かけたいと常々思っておりました。
それが叶った日に、クオンはキョーコちゃんと出会ったのです。
泣いてるキョーコを見つけて優しいクオンは放っておけず、頭を撫でてやりました。
不思議そうに見つめる大きな澄んだ瞳に自分の姿が映ります。
途端に悲しみの涙で濡れていたお顔がパアッと輝き、興奮気味に話しかけられました。
『貴方、妖精さん?!』
王子という肩書きだけで、気を遣われることに疲れていた王子は、キョーコの期待に答えることにしました。
『うん。そうだよ。僕の名前はクオン。君の名前は?』
『私はね、キョーコっていうのよ!』
それが二人の出会いでした。
でも、会うことが出来たのはほんの数日。
抜け出す所を庭師に見つかってしまったクオンは、抜け道に使っていた穴を塞がれてしまったのです。
それからクオンは、その泉のある森に行くことが出来なくなりました。
探そうと思えば、王子の権限を使って、キョーコを探すことが出来たかもしれません。
でも、キョーコちゃんのことは名前と年齢ぐらいしかわかりません。それに、キョーコという名前はこの国では珍しい名前でもなかったのです。
あの時のキョーコちゃんもまだ幼かったので、自分の事など多くいる友達の内の一人で忘れているかもしれないという気持ちも言い訳にして、クオンはキョーコをあえて探すという事もしていませんでした。
そのキョーコが今、目の前にいるのです。
レンはキョーコこそが自分の運命の相手なのではないか。いや、そうであって欲しいと、強く願うようになっていました。
「レン様?レン様、どうなさったの?」
キョーコに顔を不思議そうに覗き込まれ、ようやくレンは、自分の思考に浸っていたということに気付きました。
「いや…なんでもないよ。」
レンはくすっと微笑むと、誤魔化すように、しゃがみこんで綺麗な花を一輪摘みました。
首を傾げるキョーコの髪に、レンはその花を髪飾りのように差し込むと仮面の下に蕩けるような笑みを浮かべてキョーコに言いました。
「あぁ、本当に凄く、綺麗だ…」
レンの言葉に、キョーコは恥ずかしそうにハニカミました。
「キョーコ姫、寒くないかい?」
「ふふ。平気っ。見て見て、レン様!!お星様が降ってくるみたいよ!!あっ!!流れ星!!」
キョーコはレンと花畑の真ん中に腰を下ろして、夜空を見上げていました。
そんなキョーコに微笑んだ蓮は、キョーコの隣にコロンと横になりました。
「レン様?どうされたの?汚れちゃうわ。」
「平気だよ。こうした方が星が見やすいかなぁって思ったんだ。」
「そうね。その方が見やすそう。」
無邪気な顔で言うレンに、クスクスと笑いながら、キョーコもレンを見習ってレンの隣に横になりました。
「キョーコ姫っ!汚れてしまうよ。」
「構いませんわ。ふふふ。本当によく見える。」
「もう…君は…。仕方ない。少し頭を持ち上げてくれる?」
「え?こう…ですか?」
「うん。」
そう言って頭を浮かせたキョーコの首の後ろに、レンは自分の腕を起き、キョーコの頭を守るようにしました。
「れ、レン様っ!!」
キョーコが慌てた声を出すのをレンは可笑しそうに笑いながら言いました。
「ほら、あんまり騒ぐと、星がびっくりして逃げてしまうよ?」
本当に星が逃げ出すなんてことはありませんが、キョーコはレンの言葉を信じたのか慌てて口を塞ぎました。
そんなキョーコが可愛くて、愛しくて堪らないレンは、キョーコをそっと抱き寄せて、キョーコの額にちゅっと優しく口付けました。
顔をカァッと頬を赤らめたキョーコに、レンは蕩けるような笑みを浮かべます。
「君は…本当に可愛いね。キョーコ姫。」
「れ、レン様!!レン様も…かっこいいですよ?」
レンはそんなキョーコに、ここ最近ずっと秘めていた想いを口にすることに決めました。
「キョーコ姫、本当に君を攫ってもいいかい?私は、君が欲しい…。」
レンはそう言うと、キョーコの頬を手で包み込んで、驚きで目を見開いているキョーコの唇にそっと唇をかさねたのでした。
(続く)