携帯からだと見れない方がいたようなので、分けてアップしております♪


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昔々の物語*中編☆


クオンが城に戻ると、長い廊下の先からヤシロが飛んできました。

幼い頃からクオン王子のお守り役、親友であり、クオンにとっては兄とも呼べる存在の側近のヤシロは、目を釣り上げて、足音荒くクオンに近付いたのです。

「クオン様!一体今までどちらに行ってらしたのです?!夜中に勝手に抜け出して!!何か御用があるなら、遣いを出せばいい物を!!貴方の御身に何があったらどうするのです!!王国の一大事となるのですよ!!」

ヤシロの怒りも最もでしょう。クオンは誰にも何も言わずに、城を抜け出していたのです。

普通は王族が外出する時は、万全の警備を敷くために、従者を引き連れて行くのが常識なのにも関わらず。

いくらヒズリ国が平和であろうと、隣国からのスパイや荒くれ者が街には息を潜めているかもしれないのです。

「勝手な行動は謹んで頂きたい!!」

「ヤシロ…そんなに目くじら立てる必要はないだろう?こうして無事に戻ってきたんだし…」

「何かあってからでは遅いのですよ!!自覚してくださいませ!クオン王子!!何度言ったらわかるんだ!!」

声を荒くして言うヤシロが心配していると言うことがわかるので、クオンは申し訳なさそうに眉尻を下げながら、ヤシロを部屋へ誘いました。

朝食の支度に起き出した女中が、クオンの姿を見て、姿勢を正すと、次々と挨拶をして行きます。

ヤシロは、クオンの誘いに頷いて、クオンの部屋へ入りました。

「さぁ、説明してくれるんだろうな!!クオン!!」

「ヤシロ、そんなにカリカリ怒ってないで座らないか?」

爽やかな笑顔で紅茶を勧めるクオンを、ヤシロはじと目で睨みました。

どうやら話を聞くまでは動かないという意志を決め込んでいるようです。

入り口に突っ立ったまま腕を組んで佇んでいました。

そんなヤシロを見て、クオンはため息を一つこぼすと、おもむろに口をひらきました。

「実は、気になる女性がいまして…。」

クオンが語り始めた内容に、ヤシロは虚を突かれて、驚きの表情で話を聞きました。



「それで?!その姫とはその後どんな話をしたんだ?!」

やや興奮気味に前のめりに話を聞き始めたヤシロを制して、クオンは落ち着くように紅茶を勧めました。
勧められた紅茶を一気に飲み干して、ヤシロはクオンに続きを促します。


「それで?明日も会いに行くって?」

「はい…。なのでヤシロには協力を願いたい。」

「ふむ。そうか…。なるほどな。それは骨が折れそうだ。国王や、王妃にこのことは…」

「まだ、黙っていて欲しい。彼女の意志もない内に勝手に話を勧められても困るんだ。それに私が本当に彼女を好きになってるのかもまだわかっていない。」

「何言ってんだ!そんな顔して!!俺はそんな顔してるお前を見たことがないぞ!!…ん?いや…待てよ…前にもあったな…。確か、10年くらい前に良くお前が城を抜け出していた時に…。」

ヤシロに指摘され、クオンは心の中であの暑い日々のことを思い出して暖かい気持ちになっていました。
自然が豊かな城の外れにある森で出会った小さな女の子…"キョーコちゃん"。
今、あの子はどうしているのだろうか?

「そう、その顔だ!!」

クオンが頭の中で思い出を辿っていると、急にヤシロから指摘されました。

「良かったなぁ!!クオン!!漸くお前もお前の恋を見つけたのか!!」

狂喜乱舞するヤシロにクオンは苦笑しました。




その日から、レンと名乗る黒髪仮面の怪盗は毎夜のようにキョーコの家に現れるようになっておりました。

「こんばんは。レン様。また…いらしてくださったのね?」

キョーコはベットの中から開いた窓に視線を向けて小さく微笑みました。

「うん。こんばんはキョーコ姫。あぁ、大分顔色も良くなったね?」

レンと呼ばれた青年は、微笑みながらキョーコに近付くと、その頬を大きな手で包みました。

初めてレンとしてキョーコと出会ったあの日、キョーコは随分と長い間食事を取っておらず、ベッドからも身を起こせない程にとても弱っていたのです。

心配したレンは、それから毎日軽食を持って、キョーコの元を訪れるようになりました。


「もう、大分気分はいいのですよ?」

「そうは言っても、今日も何も食べてないのだろう?」

「いいえ、今日はちゃんと食べましたわ。」

「本当に?」

レンは言いながら、キョーコの眠るベッドに腰掛けました。

キョーコが身体を起こすのを手伝いながら、レンはさり気無く、キョーコの身体が冷えないように布団を引き上げ肩を抱きます。

「貴方が使いを寄越してくれたのでしょう?私が食事を取らないと、口うるさく叱られるんです。あまりにもモーモーって連発するんで、モー子さんって呼んでるんです。」

キョーコはレンの腕のなかで嬉しそうにはにかみました。

「そうか。彼女とは上手くやれそうかな?」

「はい!とっても!!モー子さんって冷たいようで、凄く親切にしてくださって、文句ばっかり言うんですけど、凄く愛を感じると言うか、今まで出会って来た方々とは何か違うものを感じるんですよね!」


一週間前のあの日までずっとベッドの中にいたキョーコはベッドから出る気力も失っており、仮面舞踏会の時のドレスのまま過ごしていたのです。

男であるクオンがキョーコを湯浴みに入れることが出来るはずもなく、せめて風呂にくらいは入れてあげたいと思ったので、ヤシロに相談して、ヤシロの勧める女中のカナエをキョーコの元へと送ったのでした。

すると、カナエはキョーコの
ことを殊の外気に入ったらしく、クオンが今後の昼間のキョーコの世話係を願い出た際に、思っていたよりもあっさりと引き受けてくれたのです。

心の底から楽しそうにカナエのことを話すキョーコを見て、レンは仮面の中から優しく微笑みました。

「レン様…どうしてレン様は私にここまで親切にして下さるの?」

キョーコは不意にレンを見上げて言いました。

レンはキョーコの髪を優しく指で弄びながら微笑みます。

「さぁ?何故かな…。君に、興味を持ったから…かな?」

レンの言葉に、キョーコは不思議そうに首を傾げました。

「私に?いつ??」

「クオン王子の20歳の仮面舞踏会で、俺は君に出会ってるんだよ?」

「そう…。」

仮面舞踏会ときいて、キョーコの顔が一気に曇りました。
涙を堪えるように唇を噛み締め、肩を震わせているキョーコに気付いたレンはしまった!と慌てて、キョーコを安心させるようにコメカミにキスを送りました。

ほんのりと頬をピンクに染めたキョーコが、恥ずかしさから身をよじりレンから離れようとすると、レンはそのキョーコの身体をグッと優しく引き寄せました。

「君は覚えてないかもしれないけど、君が泣きながら走ってきた時に広間でぶつかってね?」

そこでキョーコはようやくその時ぶつかった相手がレンだということを知り、顔を真っ青にしました。

「あ、あの時の?!あの時は、とんだ御無礼を…!!」

「いや、いいから。気にしてないよ。それに、あのお陰で俺は君に出会うことが出来たんだし。」

レンは嬉しそうに答えました。

「あの時は…」

キョーコは何かを言いかけて、口をつぐみました。
続きが出てこず、沈黙が続きます。
蓮はそんなキョーコを優しい目で見つめて言いました。

「いいんだよ。無理に話す必要はない。言いたくなった時にいつでも聞いてあげるから。」

キョーコは、今までこんなにも優しくされたことがなかったので、どう反応したらいいのか分からずに、困ったように微笑みました。

「そうだ。今日は星が綺麗に出てるんだよ。一緒に見ないかい?」

「え?」

レンの提案に、キョーコが同意する前に、レンはキョーコをヒョイっと抱き上げました。

「きゃあ!!」

突然横抱きにされたキョーコはレンの首にしがみつき、小さく悲鳴をあげました。
キョーコの夜着は薄手の布で出来ている為、窓に近付くとヒラヒラと風で揺れていました。

レンは不安気に見上げてくるキョーコの額に唇を寄せ、軽くキスを送ると、安心させる様に微笑みました。

「ほら、キョーコ姫、見てご覧。」

久しぶりに見る外の景色と、夜の風。
レンと一緒に見上げた夜空にはまるで宝石が散りばめられたような沢山の星が輝きを放っていました。

「素敵…。」

キョーコが感嘆の溜息を漏らすのを、レンは優しい眼差しで見つめました。
そっとキョーコを腕から下ろしてバルコニーに持たれかけさせると、レンはキョーコを守るように後ろに立ち、キョーコが冷えないように抱きしめて一緒に空を見上げました。
風月のスキビだより



それから暫く無言で星を眺めていたキョーコでしたが、そのキョーコはポツリと呟きました。

「ねぇ、レン様は御存知ですか?人は死ぬと、お星様になるというの。こんな私でも、死んだらあの星達のように輝けるのかしら…」

キョーコは、首元にあるレンの腕に手をかけて、諦めを含んだ声で言いました。
そんなキョーコをレンは悲しそうな目で見つめました。

「キョーコ姫…。」

「レン様…私は、疫病神なのよ。この家にとっても、誰にとっても…。生きてこのかた私は不幸しかもたらさない。こんな私に生きている価値なんてあるのかしら?」

「……。」

「お母様からも、婚約者のショー様からも見向きもされない。私はレン様が現れたあの日、天からお迎えが来てくれたのかもと期待していました。でも、貴方は私を生かした…。生きる価値など私には…何もないのに…!」

キョーコは涙を流すこともせず、耐えるように唇を噛み締めていました。

レンはそんなキョーコを後ろから強く抱きしめ顔をキョーコの肩に埋めました。
そのキョーコの肩は震えていました。

いきなり強く抱きしめられた事に驚いたキョーコは目を見開きレンを振り返ります。
レンも何故か泣いてるように感じたのです。

「レン…様?」

するとキョーコの肩に埋めていた顔を上げたレンが、本当に淋しそうな目をして言いました。

「そんな…悲しいこと言わないで…。君は疫病神なんかじゃない…。俺にとってはだれよりも美しい女神だ…。」

「レン様…。」

言いながらレンの腕に力が篭ります。
キョーコの瞳には涙が溜まりました。

「私には、価値などないのに…優しくされると勘違いしてしまいます。私は幸せになれるのかもと、ありもしない期待を持ってしまうんです。それがとても…とても怖いの。」

キョーコは輝く星空の元で、レンに抱きしめられたことで少しだけ素直に本音と共に涙を零しました。

その涙はまるで宝石のようで、レンはそれを愛おしそうに拭います。

「価値があるかないかなんていえば、俺だって価値があるのかどうか分からない。幸せになるのを怖がらないで。君は今まで沢山悲しい思いをしてきたから、誰よりも幸せになる権利があるんだ。」

優しく抱き締めてくれるレンに、キョーコは身を任せました。

ポロポロと流れる涙をレンは一つ一つ丁寧に指で拭ってくれたのでした。


(続く)