お待ちかねの皆さん、お待たせしましたー!!
takuさんのお話中編ですー♪
どうぞお楽しみください♪



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【Venus tear&Venus Smile】(中編)

そして、彼女のCM撮影の日を迎えた・・・・

俺は彼女の撮影のことが気になって、昨夜は一睡も出来なかった・・・。
というより、ここ数日、ほとんど眠れなかった。


「蓮、お前ここ数日、ろくに寝てないだろう?大丈夫か?
 まぁ、キョーコちゃんのこと考えたら、気持ちは分からなくもないが・・・・。
 きつかったら、移動中、少しでもいいから寝ろよ!」


「社さん、これくらい、どうってことないですよ。
 でも、そうですね・・・。移動中は、休めたら少し休みますよ・・・。」


社さんにこんなに、心配掛けて・・・。まったく、俺ともあろうものが・・・。

集合場所に着くと、俺達は、すでに来ていた新開さんに挨拶に行った。


「「新開さん(監督)、おはようございます。今日は宜しくお願いします。」」


「おはよう、蓮、社君!相変わらず、早いな。
 今日は、お互い、イメージ作りの為の打ち合わせと、ポラ撮りだけだから
 気楽に行こうな!!」


「はぁ・・・。そうですね。」


俺は、曖昧に笑って答えたが、内心は、それなら、何も今日じゃなくてもとか、
今日、この仕事がなければとか・・・。
普段の俺なら、プロとして、絶対考えないようなことを考えていた・・・。


「んっ?蓮、お前・・・今日なんか、顔色悪くないか?
 それに、心ここにあらずって感じだし、どこか悪いのか?
それとも、何かあったか?」


「そうですか?気のせいですよ。」


この人も、意外に鋭いよな!俺は、新開さんの追求を笑顔で受け流した。
確かに、ここ数日の睡眠不足で顔色悪いかもな・・・。

しかし、何よりも、今こうしているうちにも、最上さんが・・・もしかしたら、アイツと・・・
って思うと、胸が締め付けられるような、焼けるような感覚に襲われて、自分が変になりそうだ!!


「そうか~?本当は、何かあるんじゃないのか?」


まだ、食い下がってくる新開さんに、隣にいた社さんが、助け舟を出してくれた。


「新開監督、すいみません。蓮のやつ、ここ最近、忙しくて、ここにきて、どうも疲れが、出たようで・・・。
移動中、少し、仮眠をとれば、良くなると思いますから。」


「ふ~ん?珍しいな・・・。
 まぁ、蓮も人間だったってことか・・・、ちょっと安心したよ。
移動中はゆっくり休んでていいから。」


「新開さん、俺を何だと思ってたんですか!?
 まぁ、お言葉に甘えて、移動中、少し休ませてもらいます。」


何となく、まだ疑っているような気がするけど・・・。
今は、あれこれと詮索されるのも困るしな、社さんのおかげで助かったな。

そうして、俺達は、車に乗り込み、ロケ地に向った。
一応、仮眠をとろうとしたが、やはり、最上さんのことが、気になり、眠ることは出来なかった・・・。


あれこれと考えているうちに車は、ロケ地に到着した。車を降りたそこは、あの夏キョーコちゃんと過ごしたあの場所によく似た森で、何となく懐かしさがこみ上げてきた。


「どうだ、蓮。なかなか、いい場所だろう?
今の都会では、こんなに自然が多いところはないからな。」


「えぇ、確かに空気も澄んでいて、いい所ですね・・・。
それに、微かですが、水の流れるような音がしますけど、近くに川でもあるんですか?」


「あぁ、良く分かったな。少し奥に入った所に、清流があるんだ。
ちなみに、その川のほとりでポラを撮る予定だから。」


近くに、川まであるなんて、ホントあの頃に戻ったみたいだ・・・。
ただ1つ、違うのは、今ここには、キョーコちゃん・・・彼女だけが、足りないこと・・・

もう、撮影は始まっただろうか?
君の相手は、誰・・・・?


「じゃあ、蓮。俺らは、今から撮影の準備に入るから、メイクだけしてきてくれ!」


「えっ?新開さん、衣装には着替えなくていいんですか?」


「あぁ、実は俺、まだ今回の映画、役柄の個性とか、その他の詳細も、色々と迷っててさ・・・。はっきりとした形になってないんだ・・・。
ただ、今回お前には、等身大のお前の姿を役に、反映して欲しいんだ。
というわけで、今日のポラはその私服で撮るから、宜しくな!」


等身大の俺に・・・、私服で、撮影ねぇ・・・?
今日の俺は、白のカットシャツと、青地のスキニージーンズに、茶系の革靴、そして、黒のレザーコートを羽織った極シンプルな服装で・・・。
本当にこれでいいのか?
まぁ、新開さんが、そう決めたのなら・・・、いいんだろうな。


「はぁ・・・。分かりました。」


それにしても、いつもの新開さんなら、映画の話を持ってきた時点で、細かい設定まで全て決めているのに・・・珍しいな。

俺が、メイクをすませ、社さんと共に、撮影が行われる川原へ着いた時、新開さんは誰かと電話中のようで・・・


「・・・ました。あと、・・・・・ですね。
 こっちは、・・・・てますから、そちらが、・・・・たら、連絡を下さい。」

新開さんが、携帯を切ったところで、


「新開さん、俺の方は準備出来ました。」


「おぉ、蓮!早いな。といっても、メイクだけだから、当たり前か・・・。
ん~っ、悪いな。今日の撮影、ポラとは別に、少しカメラも回したいから、その準備にもう少し時間が掛かりそうなんだ。
 まぁ、その間に、今回の映画と、今日の撮影について打ち合わせするから。」


「えぇ、俺は、別に構いませんよ。」


そうして、俺達は、少し離れた木陰に張ったテントに移動し、打ち合わせを始めた。


「それで、新開さん。今回の映画は、どういう世界を求めているんですか?
 今回、あなたが、どうしても俺を使いたいとおっしゃるので、信頼しているあなたの作品ならばと、即座に受けましたけど・・・。
 内容についいては、先日渡された原作を読んで、友情愛をテーマにした作品なのは分かりましたが・・・。
でも、今回、原作のストーリーはベースだけ使用して、新開さんが脚本も手掛けて、ストーリーを組み立て直すんでしたよね?
だから、今回、原作に書いてある役の個性は、参考にならないとも言いましたよね?
俺、今日のポラの役作りとか、あなたが求めるものが何か、現段階で、理解出来ていませんよ・・・。」


「あぁ、俺の中でベースは出来上がってるんだが・・・。
 さっきも言ったように、色々と迷っててさぁ、正直困ってるんだ。」


困ってるって・・・。そんな中途半端な段階で、オファーどころか、ポラ撮影するなんて!!
新開さんとは思えない、行き当たりばったりの答えに、俺は驚きを隠せなかった。


「まさか、ストーリーも決まってないんですか?」


「いや、おおまかなストーリーは、勿論、決まってるよ。
ただ、原作と違って、映画は、友情物でなく、恋愛物に変更したから、役の人物像もかなり、違ってきてね・・・。」


ちょっと、待った!!
・・・友情物を、恋愛物に変えるだって!?


「恋愛物に・・・って、勝手にそんなことして、原作者の了承貰えるんですか?」


「あぁ、それは、問題ないよ。いくら変えようと、文句は出ないから♪」


いや、そんな作者はいないだろう?
普通は、原作の世界感を壊されるのを嫌がるはずだ!!


「本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫~♪
 だって、これの原作者、俺だもん♪♪
自分で創った世界を、自分がどう変えようが勝手だろう?」


・・・・・!?はぁ?この人・・・今、何て言った?
新開さんが、原作者~~!!!


「何の、冗談ですか?」


「ひどいな~、蓮、本当だよ。これ、俺が大学の映研で、書いた作品♪
ちなみに作者名は、当時の俺のペンネームだから!!」


「・・・・・・・。はぁ・・・・。」


相変わらず、掴みにくい人だ・・・。
しかも、今日まで黙っていたなんて、きっと、俺を驚かせたいとか、そんな理由だろう。
まったく・・・


「で、原作との話の違いや、あなたが考える主役の人物像は・・・どんな設定ですか?」


「何だ、その薄い反応は・・・、せっかく今日まで黙ってたのに、面白くないなぁ。」
  

「・・・。それで?設定は?」


新開さんのこんな悪ふざけに付き合っている間にも、着々と、最上さんの撮影が、進んでいるかもしれないっていうのに!!


「まぁ、そう焦るなって。
 さっきも、言ったけど、原作は友情物だったが、それは恋愛物に変換する。
といっても、お前がこの前やったDark Moonみたいな、どろどろした愛憎劇じゃない。むしろ正反対の、純愛物だよ。」


「純愛ですか・・・。」

 
あのドラマ…というより、彼女のおかげで恋愛重視の作品に出ることへの不安はなくなった。
しかし、純愛か・・・。
今、生まれて初めて本物の恋というものをしている俺には、何が純愛とか、その違いが、いまいちよく分からないんだが・・・。
彼女に関する些細なことで、ドロドロとした昏い気持ちに引きずり込まれる俺の場合は、純愛とは・・・言わないよな・・・。


「そう、純愛♪
長年、夢の中でしか会うことのない人物をお互いに、運命の相手と信じて恋をする。
 幻想的な部分も残しつつ、互いに惹かれ合い、その愛を手にしようとする二人の姿に、透明感のある純粋さを表現したい。
そして、この映画を見た全ての人に、二人の魂と魂が結びつく奇跡の、目撃者になってもらう。」


「運命の相手・・・?」


「あぁ、誰にだって、そう蓮、お前にだって!
『一生涯、唯一この女だ!』って思える運命の相手が必ずいると俺は思っている。」


俺の運命の相手、唯一の女性・・・。それは、最上さん・・・彼女しかありえない・・・。
だが、彼女の運命の相手が、俺とは限らない・・・。
確か、彼女のCMのコンセプトも『運命』だと言っていたよな?
じゃあ、今日、彼女の相手役をやる男が、最上さんにとって、運命の男になるんだろうか?

そんな風に、俺が、また、彼女のことを考えていると、


「その顔だと、蓮・・・お前。自分の運命の相手に、心当たりがありそうだな?
 興味あるな~、どんな子なわけ?」


顔・・・?まさか、表情に出ていた・・・?いや、きっと、新開さんのことだ。
俺に、鎌をかけたに決まってる。
 

「ご期待にそえなくて残念ですが、俺はまだ、運命の相手には巡り会ってませんよ。
 ところで、映画の中の運命の相手は、誰が演じるんですか?」


「いや、それがさ・・・。他のキャストは、全て決まってるんだが、肝心のお前の
ヒロイン役がなぁ・・。俺の求める人物像にしっくりくる人物が見つからなくてさ・・・。
正直、困ってるんだよなぁ。」


「えっ、ヒロイン役、まだ決まってないんですか?」


クランクインが、まだ1ヶ月以上先とはいえ、肝心のヒロインが決まってない・・・?
それは・・・・まずいだろう。


「といっても、ちょっと気になっていて、まだ、当たってない子もいるしな・・・。
 まっ、取り敢えず、ヒロインのことは俺に任せてくれ。
それに、今日のお前のポラ撮りの出来次第では、思わぬ収穫があるかもしれないしな?」


今日のポラの出来次第で、思わぬ収穫・・・?
新開さんの言葉に、疑心を持ちつつも、配役は彼が決めることだからと俺は深くは、訊かなかった。

そして、新開さんは、撮影に入る前に、俺に新開さんが新たに考える映画のストーリーと、役柄の設定や、今日の撮影について説明を始めた。


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打ち合わせの最後に、新開さんは、


「俺がこの映画で蓮、お前に求めるのは、これまでのような完璧な役作りをする俳優としてのお前じゃない。
 20歳の男としての飾らないお前自身の姿をそのまま役に使いたい。
 だから、今日のポラは、理想でもいい、お前の描く運命の女を思って、自然体で撮影に臨んで欲しい。」


そう俺に、言った。

こうして、打ち合わせは、1時間ほどで終了した。
だが、撮影準備にもう少し時間が掛かるから、もう暫く俺と社さんには、ここで待っていて欲しいと言い残し、新開さんは、スタッフの元へ戻って行った。

俺は、撮影が始まるまでの間に、さっきの新開さんの言葉を受け、この映画のストーリーと俺が演じる役に自分を重ねてイメージしてみることにした。

俺が演じる青年は20歳の大学生で、この10年、毎日、夢の中でこのロケ現場のような清流で会う名前も顔も分からない女の子に、いつしか恋をし、運命の相手と信じ、一途な想いを寄せ・・・・。
ふっ、多少の設定は違うにしても、俺にとっても、一途な恋心を抱いたのは、キョーコちゃんだけで、俺にとっての運命の人は、やはり彼女・・・だよな。

俺は、無意識に、相手役を最上さんに変換して、ストーリーを展開していった。
そして、いつしか俺の中で、役作りの概念は消え、役には俺自身の姿が投影されていた。

あぁ、新開さんが、俺に求めたのはきっとこの感じだ。
俺は、妙に納得した。

役が掴めた旨を新開さんに伝えようと、俺が立ち上がった時、携帯を切った新開さんが言った。


「よぉ~し、準備完了だ!
蓮、今から撮影始めるから、位置についてくれ。」


その指示を受け、清流のほとりにスタンバイする俺に、


「準備はいいか、蓮?
このポラでは、映画とは逆に、男が、運命の相手がやって来るのを信じて、このほとりで待つ設定だ。
あとは基本的に、お前の好きなように演技じてくれて構わない。」


「俺の好きにしていいんですか?」


「但し、一つだけ条件がある。
 蓮、お前の背後にスタッフが立つ気配がするまで、お前は背後を決して振り向かないこと。
 振り返る際は、待ち望んだお前の相手が来たという想いを表現してくれ。」


「はい。分かりました。」


俺は、再び、立ち位置につくと、役に入り込む為、軽く目を閉じ、合図を待った。
そして、監督が持ち場に戻り撮影が開始された。


「よぉ~い、スタート!!」


                 〈後編へ続く〉