朱烙様より頂いた尚編です♪どうぞお楽しみくださいませー♪






**********************







 遠くから真っ赤な顔で走って来た女が、キョーコだったなんて俺は全然気付かなかったんだ
 俺は祥子さんと共に収録のあるこの局へと来ていた
 車から降りて他愛もない話をしながら2人で歩く
 そんな時ふと後ろから聞こえた足音に、また強引なファンがきやがった?思ってた
 だが、チラリと目を向けて驚きに目を見張る
 素晴らしい脚力ながらも、均整のとれた綺麗な体付き
 そして自分の手で両頬を抑えながら真っ赤になる姿は庇護欲と嗜虐欲を刺激する程色っぽく

「すげぇ・・・上物じゃねぇか・・・」

 無意識のうちにそうポツリと呟き、何かから逃げているようなら庇ってやってお近づきになろうと思っていた
 こちらに気付く事無く走ってくる足音に頬が緩むのが抑えられない
 祥子さんはそんな俺には気付かず足音の方へと顔を上げ・・・そして驚きも露わに呟いた言葉に俺は目を見張った

「え?キョーコちゃん・・・・?」



 祥子の言葉が信じられずに、必死で走ってくる女性を凝視した尚は祥子の言葉が正しい事を知るや否や声を荒げていた

「キョーコっ!?」

 尚の声に反応して止まったキョーコが、驚きに見開いた顔で止まるとすぐに困惑したかのような顔になる
 だが、唯一今のキョーコに関して判る事と言えば



 困惑していようが驚いていようが、その顔は誰もが思わず赤面したくなるほど胸をかき乱すもので


 
 尚はキョーコが自分以外の誰かに対してそんな顔をするのが、許せなくて悔しくてそして知らず知らず渋面になっていた
 それに対して何時もの様な不思議な現象(あれば地味に怖いが)すらなく、ひたすら困惑顔のキョーコについ声を荒げて問い詰めた

「オイっ!キョーコてめぇ・・・俺に復讐するんじゃなかったのかよ!?何そんな腑抜けた顔してんだよ!?」



 お前は俺だけを見て、俺だけを追いかけてくればいいんだよ!!



 何で俺以外の奴にそんな顔してんだよ?



 お前は俺だけに執着して俺だけに憎しみを持って俺だけを追いかけて



 俺だけを見続けてくれるんじゃないのかよ?



 自分の奥底にあった、キョーコに対する絶対的な信頼と安心が何故だか此処にきてスルリと顔を出す
 尚は何故今こんな自分でも気付かなかった奥底の本音が出て来たのか判らないままに、ただ悔しくて苛立たしくてキョーコに対していつも以上の暴言を吐いた
 だが、キョーコは自分を見ているようで全く別のものしか見ていない


 キョーコが目の前に居て、俺を見ているのに・・・


 俺を見てくれない


 それは何故だか、昔キョーコが母親から手酷く振り払われ辛そうに泣いている時と同じ感情で
 それを認めるのが怖くて、認めてしまえば何かが崩れる気がして尚は更に焦った
 何で何時まで俺を無視するんだよ!?
 いい加減こっちを向けよ!
 それはまるで子供の癇癪で、隣に居た祥子が驚いた様子で尚を見ているが尚はそれにすら気付かない
 そんな事をしていると・・・ようやく、キョーコが真っ直ぐに尚を見つめてようやく尚はキョーコと目が合った

(遅いんだよ・・・ようやく俺を見やがって・・・)

「あれ・・・・・?」

 だが、キョーコが自分を見た瞬間出た言葉に、尚は今度こそ凍り付くかと思った

「オイ!?聞いてんのかよっ!?って・・・何だよ?」

「私・・・・好きだったんじゃなくて・・・・・・・・・依存だった?」

「は?」

 キョーコの言葉に思わず疑問符が出る、チラリと横を見れば祥子も同じく疑問符を飛ばしており
 自分だけが判ってないんではないのだと、尚は胸を撫で下ろしつつも意味不明の言葉を話すキョーコに苛立っていた
 だが、次の瞬間・・・

「私・・・アンタを好きなんじゃなくて、アンタと言う存在に依存してたんだわ・・・・」

 キョーコのその言葉に、尚は足元から何かが崩れ落ちる感じがした
 それは絶対的に安心できる場所が突然崩れ落ちる感じににていて・・・そう、過去に一度だけ味わった
 ヴィーグールの連中に自分の曲を地位を盗まれた時に感じたソレと同じで

「は?何を突然訳の分からねぇ事を・・・」

 知らず知らず声が震えるのを抑えられないままに、何とかそれだけ呟いた
 だが、そんな尚に気付く事無くキョーコは時折考え込むようなそぶりをしながら、尚が聞きたくなかった言葉を紡ぐ

「お母さんに捨てられて・・・身近で心を許せる、違うわね依存出来る相手はアンタしか居なかった・・・アンタの役に立つことで居場所を手に入れようとしていた」

「・・・・・・だから何の話をっ!!」

 嫌だ聞きたくない、キョーコは何を言っている?キョーコは俺が好きで好きで・・・世界中の誰よりも好きでいてくれて

「だって違うんだもの」

 頼むから口を閉じてくれ、何時もみたいに俺を罵倒して真っ直ぐ俺を見つめてくれ

「何がだよ!?」

「アンタを好きだと思っていたこの気持ちと・・・敦賀さんを好きだと思うこの気持ちは・・・全然違うわ」

 真正面にキョーコに断言され、尚は怒りなのか困惑なのか訳の分からい感情のままに叫ぶ

「っ!!って何でよりによって敦賀の野郎なんだよ!?お前みたいな地味で色気の皆無の女に・・・あんなゴージャスターが構う訳ねぇだろうがっ!!!」

 お前を知って認めてやってるのは俺だけ何だよ!何より道してやがるっ!!




 何でよりによって敦賀の野郎なんだよ?




 俺が誰よりも嫌いで誰よりも憎んで・・・そして誰よりも憧れる奴なんだよ?




 手が届かない程遠い存在だから・・・憧れたから嫌った、そして憎んだ



 自分でも認めたくない感情が次から次に溢れ出て、キョーコを必死で繋ぎとめようと尚はキョーコのコンプレックスを刺激する言葉を紡ぐ
 だがキョーコは・・・

「人の気持ちなんて判らない・・・私はアンタに依存してた、それを好きなのだと勘違いしてた。。。。けどそれは違ったわ、敦賀さんを好きって気持ちと全然違うんだもの」
 
 以前のキョーコと違ってた

 地味で色気のないつまらない女
 
 それは自分がキョーコを手元から逃さない為だけに付けた枷だったのに・・・
 それをいつの間にかキョーコがいや、自分からキョーコを奪う誰かが外していた
 その事実に愕然としている時、キョーコの背後に『キョーコの枷を外した難い男』が音も無くキョーコの背後に近付いた
 


 キョーコが取られる、キョーコが俺の前からいなくなる



 キョーコが俺を捨ててしまう



 湧き上がる恐怖と困惑に、言葉も出せず固まっていると

「・・・具体的にどんなところが?」

 男でも思わず聞き惚れる良い声がそっと、キョーコに尋ねた
 キョーコはそんな敦賀の野郎に気付く事無く、自分の想いを紡いでいく

「アンタには・・・嫉妬とか怒りとか無かったもの、寂しいとかはあったけど・・・・けど敦賀さんには・・・近くに居るとドキドキして落ち着かないけど、些細な事で心がドロドロになるもの」

「へぇ・・・嫉妬してたんだ・・・」

 キョーコの口から自分に対する気持ちを聞けた敦賀の野郎は、この世の幸せを噛み締めるかのように頬を緩めてやがる

「そう・・・私、敦賀さんの周りに居た人に嫉妬したんだわ・・・私も好きなのに・・・私の好きな人に近付けてて羨ましい・・・って」

「そう・・・なら君の気持ちは?」

 ヤメロ、それ以上聞くな
 そしてキョーコ気付けよ、俺はさっきから一言も口を開いてないだろう?
 どうして気付かない?どうして・・・お前の前に居るのは、今お前が見ているのは俺のはずなのに
 気付かないキョーコに苛立ち、全てを知っていてなお気付かせようとしない敦賀に苛立ち、そして声さえ出せない自分に苛立つ

「私は・・・敦賀さんが好きなの、アンタにあって確信出来たわ。私はアンタを自分の依存対象として縋ったけど・・・敦賀さんは純粋に一人の男性として好きだわ」

 気付かせてくれてありがとう
 そう言ってフワリと笑うキョーコに、俺はもう・・・ただ凍り付くように立ち尽くすしか出来なかった
 ようやく俺の異変に気付いたキョーコが声を掛けた
 俺を俺だと認識して・・・昔の、あの頃の・・・俺を俺自身をちゃんと見てくれていた頃のキョーコがその時の呼び方で

「松太郎・・・?ショー・・ちゃん?どうしたの・・・?」

 そっと伸ばそうとする手
 その手を早く俺に伸ばしてくれ、俺に触れてくれれば・・・それで俺はこの硬直から解放されるんだ
 
 お前をこの手に抱き締めて・・・そして、胸糞悪い敦賀の野郎から引っぺがせるんだ
 だが、それは敦賀の野郎が許さなかった
 口元に笑みを浮かべ・・・俺に対する明らかな牽制と勝利者の顔をして嫣然と微笑みながら、キョーコをそっと抱き締めたんだ

「たぶん君にフラれてショックを受けているんだよ?それより・・・ようやく君の気持ちを聞くことが出来た」

 嬉しいよ、俺達両想いだったんだね?
 俺に聞こえるか聞こえないかのそんな声
 だが、今重要なのはそこじゃない
 敦賀の野郎に背後からフワリと抱き締められ、耳元でそう囁かれたキョーコはその相手が誰かと言う事に気付いて一気に真っ赤になった
 その表情が態度が驚きが自分が愚か過ぎて、キョーコにさせてやれなかった事だと言う事実

「え?つ・・・敦賀さんっ!?え?えええええ//////い、一体・・・何時からっ!?」

「途中で質問してたの俺だって気付いてなかった?悪いと思ったけど、君も俺の気持ちを立ち聞きで知ったしこれで御相子だね」

 俺に見せた顔とは違う、悪戯っぽく微笑んだ無邪気な・・・年相応の敦賀の野郎の素の表情
 そしてキョーコを自分の方へ向けて抱き締めなおしてから・・・少しだけ隙間を作りそっとキョーコの頬を両手で挟むと、目の位置を合せて口を開いた

「最上キョーコさん・・・俺の世界でたった一人の大切な女(ひと)どうか、俺と付き合ってくれませんか?・・・君が好きだよ」

「//////わ・・・私も・・・好き・・・です//////よ、喜んで・・・」

 真っ赤な顔で、はにかんだ・・・物凄く可愛い顔でキョーコが照れたような、嬉しそうな声で告げた言葉

「ありがとう・・・もう離さないよ?一生・・・君が嫌だと言っても逃がさないから・・・覚悟してね?」

 それを、心底嬉しそうに聞き入れ受け入れ・・・そして、俺の目の前で一度だけチラリと俺を見て


 そしてキョーコにそっとキスをしたんだ


 俺がキョーコにしたキスとは全く違う、キョーコを想って自分の想いを伝えたくてする・・・心からのキスを

「ようやく俺を見てくれた、一度目は役者の法則・・・二度目は・・・・リセット出来ない本物のキス」

 その言葉と共に、先程より強めに唇を押し当る
 いつの間にか頬に添えられていた手はキョーコの後頭部と腰へ移動し、キョーコの手もまた敦賀の野郎の胸元を強く握りしめていた
 唇を触れ合わすだけのキスを優しく何度も繰り返す

「んっ・・・ふぅ・・・・」

「可愛い・・・キョーコ」

 俺には見たことの無い艶やかで色香溢れるキョーコから目が離せない
 そんな上手く呼吸が出来ないキョーコの息が上がったのを見て、敦賀の野郎が最後にチュと唇に軽く触れ・・・そしてキョーコをそっと抱き上げてから、固まったまま自分達を凝視する俺に微笑みかける

「ありがとう不破君、君のお蔭でキョーコを手に入れる事が出来たよ」

 君は俺達のキューピッドだね
 
 勝ち誇った、宝物を手に入れたかのような奴の顔が気に喰わない
 だがそれ以上に・・・自分がいかに愚かで餓鬼だったかを、これでもとばかりに思い知らされた

「これからは、キョーコの幼馴染としてよろしくね?松太郎君」

 それじゃ失礼するよ
 ニッコリ微笑んで、奴の最後の情けなのか同情か・・・キョーコの顔をそっと自分の胸元に押し付けて俺をキョーコの視界から消した奴
 俺はあいつの・・・キョーコの姿が消えるまで、言葉を発する事も出来ずにただ立ち尽くすしか出来なかったんだ








「・・・・・・しょ、尚・・・大丈・・・!?尚っ!?」

 2人の姿が消えてから、祥子さんが俺を心配そうに覗き込んだ
 そして俺の顔を見て、驚愕と同時に周囲をキョロキョロ見回したかと思うと、急に俺の手を掴んで車へと走り出した
 何時もの助手席ではなく、後部座席に放り込まれると同時にフェイスタオルを押し付けられる

「なっ・・・?急に何だよっ!?祥子さんっ!?」

「尚あなた・・・気付いてないの?」

 あなた泣いてるのよ?
 祥子さんのその言葉に、自分が初めて涙を流している事に気付いた
 自覚してみれば、涙は次々と溢れて止まらなくなる
 俺はやるせない気持ちと情けなさに・・・必死で嗚咽だけは漏らすまいと唇を噛み締めながらタオルを顔に押し当てた




 キョーコ・・・お前ずっとこんな気持ちだったんだな



「ごめん・・・・ずっとごめん・・・・」

 産まれて初めて心の底からキョーコに謝罪した
 自分の唯一絶対の存在に、拒絶もしくは無関心にされる哀しみと恐怖を・・・俺はようやく理解出来たんだ
 そしてそれを理解した時・・・世界で一番大切な存在を永久に手に入れる事が出来なくなったのだと言う悲しい事実も、俺に付いて来た



 キョーコが敦賀の野郎のパートナーになったその日から、俺の中で何処かが一部ポッカリと空いた
 それは今までキョーコが占めていてくれた場所
 キョーコが俺を支えて癒してくれた場所
 その傷を癒すために・・・違うな、必死で俺自身が傷付かないように我武者羅になって曲を作りまくり・・・
 そして俺の心の傷と気持ちがモロに溢れ出た曲は皮肉にも俺の名声を更にあげる事になった
 今日も俺は歌手のトップとして芸能界の表舞台に華々しく登場する
 沢山の良い女とそれを羨ましそうに、憎々しげに見る連中
 そんな連中に不破尚と言う、実は作り物だった俺を見せつけそして必死で弱い松太郎(俺)を隠す



 ずっとお前が好きだったんだ、だけどそれに気付かないで手放した愚かな俺
 お前の幸せは望みたくない、望まない
 だって、俺の手で幸せになる未来以外見たくはないから
 けど・・・それがお前を悲しませてお前を苦しめるなら俺はこのまま情けないままでいる


「見てろよ・・・俺を選んでおけば良かったと・・・何時か後悔させてやるかならな」


 きっとそんな日は永遠に来ないのだろうけど


 自分の中でキョーコ以上の存在が出来るなんて思わないけど



「お前の為に・・・俺は潔くフラれ男になってやらぁっ!!!チックショウ!!!」



*******************
朱烙様!!!!
本当に素敵なお話をありがとうございましたー♪♪♪ラブラブ

これにて完結です!!