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The chain reaction⑤:環33才、遼26才


<遼サイド>

「やっぱり、2日の夜、来ます。車で。」

「車で?一旦、家に帰るの?」

「はい、僕、決めたんです。なるべく、環さんの家にスーツでは、来ないって。」

「スーツでは来ないって・・・・会社の帰りとかに直接来ないってこと?」

「はい。自宅に帰って着替えてきます。もし、ここに泊まっても・・・自宅に帰ってから出勤します。」

「うん?・・・どうして?」

泊まるって言葉に、赤くなる。その反応、33歳には見えないんだけど・・・。

「その方が、僕の心の入れ替えがしやすいから。」

「そうなの?」

「はい。実は・・・結構、弱いんです。恋愛に。よく言えば、恋人が何より一番。悪く言うと・・その、プライベートにも仕事にも支障をきたすタイプ。だから、かんなから別れ話がでた時、環さんにばれました。でも、環さんとは、そうはいかないと思ってます。」

「・・・・。」

「それに、僕は、まだ、あなたに何一つ認めてもらってない。」

「そんなことないよ。」

「気休めはいいですよ。僕自身が一番、・・・辛いくらいに解っています。」

「・・・・」

「とにかく・・・仕事であなたに認められたい。」

「うん。期待してる。」彼女が、微笑んだ。

「だから、戦闘モードに入る為にも自宅から出勤します。ここから僕の家まで車でなら30分ですから、大したことないです。まあ・・・その方がスーツとかも、わざわざ持ってこなくていいですしね。」

「うん、わかった。」

「その代わり、プライベートでいるもの、環さんが僕の為にそろえて下さいよ。」

「何?歯ブラシとか?マグとか?」

「そうそう。」

「パジャマとかも・・・?」

「パジャマは、着ませんね・・・大体、T-シャツに短パンか、スウェットですかね。それは持ってきます。他にもちょっとした着替え、持ってきておきます。」

「あの・・・出来たら、下着も持ってきてね。私・・・買いに行けないから。」

「いっそ、いっしょに買いに行きましょうか。連休中に。」

「え・・・」困った顔になる。あははは、ほんとに可愛い。

「お休み中、いきたい所、ありませんか?車で来ますから、どこへでも行けますよ。」

「考え付かないよ、今は・・・。」

「じゃあ、考えておいて下さい。アイディアが出なかったら、デパートの男性下着売り場になります。」

「もう!!」

そんな冗談に笑いあう。

「神林君、ここにいるときは敬語使わなくても、いいよ。」

「え?」

「わたしも・・・敬語だとその・・・自分が係長だってこと無意識に感じるし・・・。」

「解りました。そうします。」

「解りました・・じゃなくて・・・。」

「ああ・・そうか。『解った。そうする。』・・・これでいい?」

「うん。」

こうやって少しずつ、無理なく二人のルールを決めていけばいい。

その延長に・・・二人の一生を重ねられたらいいなと思う。

今は、帰る場所は違うけど、いつかはそれが同じになればいいよね・・・。



<環サイド>

 玄関で靴を履いたあなたは、「じゃあ、明後日の夜ね。」と微笑んだ。

スーツのジャケットを渡す。ジャケットを羽織ると、広い肩が一層広く見えた。

「ドアを開けたら。係長って呼ぶから。」

「うん。」

「でも、ここでは環さんって呼ぶよ。このドアが境目。」

いいよ。そんなに確認しなくても。私を安心させようってしているよね。

無理しないで。解っているから。

「じゃあ、帰る。」

「ねえ、神林君。」

「何?」

「少しかがんで?」

「かがむの?どうして?」

「お願い。」彼がかがむ。彼の顔が目の前に来る。

「これでいい?」

「うん。こうしないと。・・・・キス出来ないの。」

そういって、彼の頬を両手で包んでキスをする。

女が・・・自分から・・・キスするなんて・・・ダメ?

私のキスに、彼が最初戸惑っていたのがわかる。でも直ぐに答えてくれて、そして彼からのキスへと変わる。私を・・・忘れないでね。

「意地悪だな。帰れなくなるじゃないか・・・。」ちょっと拗ねて、色っぽい目で私を見る。

神林君、本当に・・・色っぽい。その色香に女性の私が、やられそう。

「ふふ、ごめんね。待っているから。」

「うん。」彼は、そう言ってもう一度私を抱きしめたあと、ドアからでた。

ぱたん。

ドアが閉まる。ああ、引き裂かれるように胸が痛い。追いかけたくなる衝動を抑える。

二日我慢すれば、またここに帰って来てくれる。

重たい女になっちゃだめだ。自分の感情ばかり押し付けちゃダメ。

でも・・・彼に溺れそう。

寝室のベッドの上にころがる。神林君の香りがする。

部長の時も彼以外なんにも見えられなくなって、心も体も壊れそうになった。

私こそ、恋愛に弱い。

なかなか人を好きにならない分、一旦好きになると、もう何も見えなくなる。

一番厄介なタイプだと、自分でも解っていた。神林君の方が、よっぽど大人だ。

でも、彼の為にも、今回はそんな恋にしない。新しい自分にならないと。

絶対、今までの様な恋はしない。君と通じあえたのは奇跡なのだから。