ZEEBRA「ZEEBRA自伝 HIP HOP LOVE」とか公開処刑とか | Rotten Apple

Rotten Apple

"Rotten Apple"検索でgoo辞書に勝ちましたありがとうございます



-概要-
愛するヒップホップへの惜しみなきスタンス―。「乗取り屋」と呼ばれていた祖父、横井英樹への想い。幼少期~高校退学、ストリート、家庭、サラリーマン、ヒップホッパー、決して順風満帆ではなかった己の人生のすべてを綴った一冊。


読み始めてから5分…やっぱりHIPHOPのパブリックイメージを悪くしてるのはこの男ではなかろうかと(笑)
"オレはミュージシャンじゃない。オレはヒップホッパーだ。" という文から始まっちゃうし、"マジでちょっとヤバい" とか本で使っちゃうんですね…。
しかし文体さえ気にしなければZEEBRAのバックグラウンドや奥さんについてなどプライベートな所や、リリースされた音源についてのコンセプトやキングギドラについても詳しく語られてるので読んでておもしろかったです。

あんまり印象に残る言葉はなかったけれど、フューチャー・ショック旗揚げイベントでのコメントはなかなか好きでした。
"メジャーでヒップホップレーベルを出すことになったけど、オレはバンと売れて、雲の上に上がりたいわけではない。糸の切れた凧みたいになるつもりはない。地に足がついたまま、雲の上に顔が出せる巨人になりたい。"

最近騒がせたRAU DEFとのビーフからもわかるように、若い世代からもずっと雲の上から顔を覗かせてるZEEBRAがちらついてしょうがないんだろうなと。RAU DEFへのアンサーでの貫禄の1verseも周りを黙らせる説得力があり、まさにI'm Still No.1と言わんばかりでした。
ちなみにここでまとめられています。




しかしやはりこの本の一番の目玉は第5章『公開処刑』の真相。ZEEBRAにとってもDragon Ashにとっても避けることの出来ない「公開処刑」。ZEEBRAにとってKjをあれだけ痛烈にディスることになった最大の要因は"模倣具合"であったそうです。そして同曲内にてK DUB SHINEが標的にしていたRIP SLYMEとKICK THE CAN CREWについても少し語っています。
暇だったので自伝で語られた内容を元に公開処刑に到る経緯をさらっとまとめてみました。



まずZEEBRAとKjが繋がるきっかけはZEEBRAが「真っ昼間」をKjとBOTSによるSteady&Co.へリミックス依頼したこと。元々KjがZEEBRAのファンだったのもあり依頼をしたそうです。




そこから「Grateful Days」での共演に到り、"俺は東京生まれヒップホップ育ち 悪そうなやつは大体友達" という良くも悪くも日本語ラップで最も有名となったラインが生まれます。それまでコンスタントに韻を踏みあまり抑揚をつけないラップが主流だった中、ZEEBRAのラップはみんながこぞって歌いたがったというのも納得なほど今聞いてもかっこいいと思います。




しかしそのレコーディング時に同発される「I LOVE HIP HOP」を聞かされ、"えっ?そこまで言っちゃうの?" と感じたそう。また英語でラップし最後の一行だけ日本語に戻るというラップも既にZEEBRAがやっていた手法でした。その時点で既にKjへの不信感(違和感)を持っていたそうです。




その後の作品ではKjの声もフロウもZEEBRAのスタイルに類似していきます。そして偶然聞いた時に "オレ、こんな曲書いてない" とまで思わせた「Summer tribe」。




これは正直DAのファンから見てもやり過ぎだなと(笑) ダミ声にPVでの振る舞いからZEEBRAが怒るのもわかります。ただリリックのテーマやコンスタントに韻を踏んでいたりとHIPHOPマナーに忠実に則った良曲である事は間違いないですし、オリジナルよりも「Summer tribe (Komorebi Mix)」の完成度の高さは主張したいですね。夏の終わりを感じさせるトラックにフックのスクラッチは極上です。


さて話は戻って。
それに対しZEEBRAはDJ OASIS名義でのフィーチャリング曲「ハルマゲドン」で初めてKjについて言及します。



"どこの坊ちゃんか知らねぇが 俺の猿真似だけなら要らねぇな"


そんなに難しいラインではないし、そこでKjに気づいて欲しかった。HIPHOPにおいて一番重要なのはラップでもDJでもなくディグる(曲を聞く、探すの意)ことだからと。
しかしそれでもKjは気づかなかった、そう判断したZEEBRAはキングギドラ名義でKjに対するディスを1verseまるまる使った「公開処刑」を発表。



"星の数ほど居るワックMC これ聴いてビビって泣くMC
まぁせいぜいスキル磨きなめいめい 覚悟決めんのはオメェダケージェイ
他の奴ら?用はねぇ バンド、取り巻き?用はねぇ
クセェ金魚のふん?用はねぇ おめえのグレートフルデイズも今日まで

この先は通さねぇぜフェイク野郎 この俺が自ら手ぇ下そう
この前のアワードの会場じゃ 生じゃねえし どーしょうもないもんな
俺が来んの知ってて来やがって スレ違えばペコペコしやがって
こっちゃシカトだ てめえのふぬけ面 マジどうしたらそんなんで許せるか

声パクリ そしてフローパクリ ステージでの振る舞いも超パクリ
マジ神経疑うぜ まるでモノマネ歌合戦 親子で出にゃつまらんぜ

じゃなきゃ俺のファンクラブでも作りゃちったぁチャンスやる
U LUV HIPHOP だがHIPHOP DON'T LUV U
ひっぱたかれて速攻FUCK U
"


この曲を受けDragon Ashはシングル「Can't Stop Shinin'」、アルバムのリリースを控えていましたがその全てをキャンセルし謝罪を込めた土下座画像を公開。その約一年後発表されたMOB SQUADのレーベルスプリットCDではそれまでとは少し毛色の異なる「Revive」が収録されました。



"空虚な自尊心の向こう側へ再生の旅に出るんだ
そろそろ行かなくちゃ 自分の道を見つけるって決めたんだから"
"微風吸い込んで咲き誇るなら 汗吹き飛んで幸心から笑え
まだ爪跡残したままで もう少し奏で"



その後リリースされた「HARVEST」以降、意図的にHIPHOPから離れた音楽性へと変化していき、Kjは雑誌にてアンサーは出さないしこのことは一生背負っていくとも発言しています。

と、こんな感じです。



ここからは個人的見解です。
個人的にですが「最終兵器」のリリースタイミングはホントに最悪でした。リアルタイムで追ってればわかるんですけど「LILY OF DA VALLEY」ではZEEBRAの影響が顕著に現れているのでこのタイミングで「公開処刑」を出していたら周りも納得していたと思います。
しかしその後のSteady&Co.名義での「Chambers」でよりスムースなフロウを会得していましたし、Steady&Co.を経てリリースされた「Life goes on」「Fantasista」という曲はまさにDragon Ashらしいサウンドが完成されていました。この2曲は一般的にDragon Ashの代表曲とも思われている曲ですし、この2曲にZEEBRAの影響を感じる人はどれくらいいるんだろうなと。






ライブでのパフォーマンスに若干影響は残っていたかもしれないけれど、曲としては完全にオリジナリティを確立しようとしていたあの時期にディスるのはあまりに状況が読めてなさすぎました。しかしアルバムのリリースに合わせるとなるとあの中途半端な時期に発表するしかなかったのかなと。
だからKjを叩く人達と同じくらいZEEBRAを叩く人達がいます。ディスが間違っている訳じゃないけれど要はプロモーションなんだろ?と。

個人的に「Life goes on」~「Fantasista」の流れからリリースされるアルバムがどんな作品だったのか聞きたかったです。Dragon Ash流ミクスチャーの完成系となる名作に仕上がってたのではないかなと。
しかしこのディスの影響でHIPHOPから意図的に離れた「HARVEST」という名盤が生まれる訳ですし、その後のドラムン~ラテンという方向にも進まなかったと思うので良かったような悪かったようなという複雑な心境ですね。

長くなってしまいましたが。こういう事件があったんだよってことを知ってもらえたらと!