指揮者の山田和樹さんとは、私の作品「Essay for Drums and Small Orchestra」の再演の際、指揮していただいた時に初めてお会いしました。
ブザンソンコンクールで1位を受賞して以降、世界的に活躍する若手で最も注目されている日本人指揮者の一人です。

この受賞については、日本フィルから送られてくるメールマガジンで知りましたが、その中にこの受賞に当たっての小澤征爾さんの言葉が掲載されており、その内容が素晴らしいので山田さんの言葉と共にこちらでも紹介させてもらいます。

◆山田和樹氏へ「贈賞にあたって」・・・・・・・・・・・小澤征爾

山田君、齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞、おめでとうございます。
2009年の9月、私のマネージャーのヴォニー・サルファッティが持ってきてくれたブザンソン・コンクールのヴィデオで、初めてあなたのことを知りました。
その時、これはすごい才能だと思いました。
あなたはその後、私が主宰するSeiji Ozawa International Academy Switzerlandや、サイトウ・キネンを助けてくれました。
特に今年は、サイトウ・キネンで、オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を私に替わって見事に指揮してくれました。このプロダクションは、あなたが指揮する初めてのオペラだったのですね。
ここで、既にとても忙しくなった山田君へ、私からの忠告を申し上げたいと思います。 

忠告と言っても、実はこれは私の先生であるカラヤン先生、そして、私の一生のマネージャーであるウィルフォードさんが、駆け出しの頃の私にしてくれた忠告なのですが、
一、常に、自分が勉強できる時間を確保すること。
一、来た仕事の中で、一番自分に相応しい仕事を選ぶこと。
これをいつも頭の中においてもらいたい。
そして、これは本当に私自身からの忠告、
一、いつも、素晴らしい音楽家と仕事をすること。(これが一番大事)
一、可能なら、持続的にじっくり腰を据えてオーケストラと生きる音楽の生活をすること。つまり、音楽監督の仕事をやること。
とても難しいことですが、この2つを両立させることが大きな秘訣だと、私は信じています。
是非このことを肝に銘じて、そしてこんなことを私が言うのも変かもしれませんが、身体に気をつけて、これからも進んでもらいたいと思います。
おめでとう。

◆「受賞の言葉」・・・・・・・・・・・・・・・・山田和樹

 このたび、齋藤秀雄先生のお名前を冠した賞をいただけること、心より嬉しく思っています。また、齋藤先生のメソードとは違う形で指揮を勉強してきました自分が受賞させていただくことは、恐縮の極みです。
 今や指揮者を志す人であれば、国籍を問わず誰もが熟読している『指揮法教程』。自分も高校生の頃に買い求め、勉強しようとしたのですが、当時の自分にはその凝縮した洗練された内容を理解する力が足りていませんでした。自分の世代ではこの『指揮法教程』の本を通じてしか、齋藤秀雄先生の人となりを想像することが出来なかったのですが、後に齋藤先生が日本フィルを指揮している映像を観た時のショックは凄まじいものでした。指揮の技法を超えたところにある、溢れんばかりの「音楽」。紡ぎ出されている音は、齋藤先生の身体の一部のような血潮を感じさせるものでした。そこで自分の誤解に気付いたのです。それまでは、「齋藤メソード=テクニック」というイメージが先行していたのですが、その根底にあったのは、溢れるばかりの「音楽」であり、またそれに対する情熱・愛情だったのです。
 併せて、中丸美繪さんの名著『嬉遊曲、鳴りやまず―齋藤秀雄の生涯』を読んで深い感動を覚えました。先生が晩年に、「音楽のために死ぬのはこわくない」と仰るくだりでは、涙があふれてきました。
 実際に齋藤先生にお目にかかることの出来なかった世代ではありますが、こうした先生の音楽に対する勇気、情熱、愛情を自分たちも受け継いで、また次の世代に伝えていかなくてはならないのではないかと思っています。今回、当賞をいただくことで、その意を新たにしているところです。
 小澤征爾先生、堤剛先生、選考委員の先生方、ソニー音楽財団の皆様をはじめ、日頃から応援していただいております全ての方々に御礼申し上げます。