56章 迷宮
彼は日曜日の遅い朝食を、2人の娘達と一緒に待っていた。
台所では妻が朝食の準備をしていた。
娘達はお気に入りのTV番組を夢中に観ていた。
彼は後ろから優しい笑顔で娘達を見つめていた・・・
「あの時、自殺を止めて良かった・・・」もう一度彼はそう思った。
彼は何気なく自分の手首を見た。
彼の手首には一生消えない傷跡が残っていた・・・
彼は動揺した。
「私は自殺を止めたハズでは無かったのか?」
「止めたのなら手首の傷跡は何なのか?」
「傷が有るのなら、私は自殺をしたのか?」
「では、自殺を止めたこの世界は何なのか?」
「この世界は現実なのか?」
彼は周りを見渡した。
すると、今まで有った全ての物が消え去っていった。
家や妻や娘達も・・・
「これは現実だ!私は正常だ!」
「これは現実だ!私は正常だ!」
「これは現実だ!私は正常だ!」
彼の目の前に残った物は、何も無い「白い部屋」だけであった・・・