55章 現実 | こころのリハビリ

55章 現実

「パパ! 起きて!」

彼の頭の上から、元気な声が聞こえた。

日曜日の朝、彼の娘達が彼を起こしに来たのだ。

目が覚めた彼は少し憂鬱になっていた・・・

睡眠中、彼は悪夢にうなされていた。

彼は昔の「あの事件」の夢を見ていたのだ。

「何で今頃、あの事を夢に見たのだろう・・・」

目覚めた彼は、しばらく考えていた・・・


今の生活に彼は十分に満足していた。

彼はお見合いで知り合った女性と結婚した。

やがて、2人の娘に恵まれた。

仕事も充実していた。彼は親戚から次期社長を任される事になっていた。

小さいけれど、マイ・ホームを持つ事が出来た。



彼は妻には過去や病気の事を話してはいなかった。

話す必要も無いと彼は考えていた。

彼は娘達の名前に「あの人」と「彼女」の名前を付けていた。

勿論、彼の妻は名付けの由来を知らなかった・・・

彼は娘達の名前を呼ぶ度に思い出が少し蘇って、

こころが甘酢っぱくなるのだった。


あの事件の事は、彼はこころの奥底に封印して無かった事にしていた。

それをあの事件以来、久しぶりに彼は思い出したのだ・・・



あの事件の朝、彼は自殺を試みようとしたが怖くなって思い止まった。

そして次の日に、彼はアイツと殴り合いのケンカをして彼女や同志達と絶交状態になった。

これがきっかけで過去を吹っ切る事が出来て、彼は前向きに生きていける様になったのだ。


「あの時、自殺を止めて良かった・・・」

彼はそう思っていた・・・