9章 視線の先
何時の頃からだろうか?
彼が意識しなくても視界にあの人が入る様になった。
彼が何気なく向いた方向にあの人がいる事が多くなった。
彼は教室の窓からグランドの群集の中にいるあの人を、一瞬で見つける事が出来る様になった。
放課後グランドで友達と野球をやっていた時、彼が打った打球があの人のいる所に飛んで行った事もあった・・・
しかしあの人が彼の方向を見ている時は、彼はあの人から視線を外してしまう事が多くなった。
あの人と日常的な会話が出来る様になっていても、彼は何時も伏目がちにしか受け答えが出来なかった。
彼はあの人と目が合うと、あの人に対して「特別な感情」が湧き上る事を認識する様になった。
彼はその感情をあの人や他人に悟られる事を恐れていた。
それで、あの人と目と目を合わせる事を彼は意図的に避ける様になった。
あの人を見る時は横顔か後ろ姿が多くなった・・・